私の恋物語。1
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どうして?
どうして、逝ってしまうの?
守ってくれるんじゃ、無かったの?
やめて、お願い……
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私は、高校一年生。花の女子高生。
秋野 ユウナ。
今日が、入学式なのだ!
念願の城西高校に、無事、合格出来たのだ!!
嬉しくって、今日は早朝から制服を着て、鏡の前で跳んだり跳ねたりしていたのだ。
現在、PM7:00。
最後に、大きくジャンプすると、食卓まで行った。
「朝ご飯よ、ユウナ。召し上がれ」
お母さんが、ニッコリと笑って言った。
トーストにトマトスープ。
緑色の私のランチョンマットに映える。
私は、其をものの10分で食べてしまった。
「そんなにおいしそうに食べてもらえると、作り甲斐があるわね」
お母さんが、そう言って嬉しそうに笑ってくれた。
「ご馳走様でした。とてもおいしかったです」
私は、そう言って手を合わせた。
急いで歯磨きを済ませると、
「ユウナ。早く行かないと遅刻しますよ」
と、お母さんから声がかかった。
「はい。直ぐに行きます」
私はそう、答えた。
自分の部屋から、バッグを取った。
私は、一枚の写真の前で手を合わせ、
「行ってきます」
小さく呟いた。
外に出ると、綺麗な青空が広がっていた。
青く、澄んだ空。
思わず、空に向かって両手を伸ばした。
こうすると、青空が私を包み込んでくれそうで。
「お母さん、お父さん。それに、浩太。私、とうとう高校生です。見守っててくださいね」
桜の並木が、美しく感じた。
青空に、美しく映えた。
私は、通学にはバスを使うことにした。
電車は、“人がいっぱい”というイメージがある。
だから、バスにしたのだ。
…全くの偏見だと思うけど。
この時間帯は、きっと空いている思う。
通学用には、一寸ばかり、早いから。
バス停の前で、風に吹かれ乍ら、立っていた。
予想通り、バスはがら空きだった。
サラリーマンのおじさん二人。
ケータイに夢中の女子高生。
キャアキャア騒いでいる中学生三人。
いいよなー。前まで、私もこんなんだったなー。
そんな事を考え乍ら、微笑んでその様子を見ていた。
ふと、反対側の席を覗いた。
其所には、同じ城西高校の制服を着ている男子が居た。
とても緊張した面持ちで、座っている。
如何にも真面目そうだ。
でも、私は惹かれた。
顔が、妙に整っていた。
爽やかなオーラを発する彼は、私の視線を釘付けにした。
時間が、止まった様だった。
彼も、此方を向いた。
私は、視線を外したかったけれど、外せなかった。
少し、小麦色に焼けた肌。
スッと通った鼻筋。
薄い唇に、少し切れ長の目。
全てが、整っていた。
『次は、城西高校前。次は、城西高校前です。お降りの方は、お知らせ下さい』
其のアナウンスで、ハッとした。
漸く金縛りから解放されて、ホッと溜息を吐いた。
私は、慌ててチャイムを押そうとした。
けど、彼が先に押してしまった。
私よりも、ずっと落ち着いた、彼が。
なんだか、悔しかった。
私の方ばかり、ドキドキして。
彼はちっとも表情を崩さない。
其れで、悔しくなった。
私はバスから降りると、念願の高校が目の前にあった。
桜がヒラヒラと舞っていて、私を祝福してくれている様だった。
ゆっくりと校門をくぐると校庭が広がった。
沢山の人、人、人。
楽しそうに話している、女子グループ5人。
私は一寸だけ、羨ましくなった。
と、言うところで、人の良さそうな先輩が、気さくに話しかけてきてくれた。
「ようこそ、城西高校へ。体育館は、彼方ですよ〜」
間延びした声は、きっと性格からだろう。
私までほんわかとなった。
「あっ。ありがとうございます」
私は先輩に教わった通りに行った。
「おっき〜い」
私は、思わず溜息を漏らす。
こんなに大きい体育館を見たのは、初めてだ。
(あれ?前、来たことあるよね?ここ)
私は、妙な違和感を覚えながら、体育館の中へと入った。
中に入って、やっと分かった。
(そうだよ、ここ。試験会場だ!!)
忘れていたのが、バカみたいだ。
沢山、集まった人たちの中に、彼がいた。
また、目が合った。
視線が、絡み合った。
私はまた、金縛りに遭ったように動けなくなった。
時間が、止まった。
永遠に、此所に居られるような気さえした。
けど、彼が突然、、視線を外した。
其の所為で、私はへなへなと崩れ落ちてしまった。
「何?どうしたん?恋しました、みたいな顔して」
紗椰が、私の顔をのぞき込んだ。
「さ、紗椰……。もう、びっくりさせないで…」
「びっくりって…。ヒド!!ウチ、ただ立っとっただけやん?」
紗椰が、ショックを受けたような顔をした。
「ごめんって。冗談だから」
そんな風に謝りつつ、笑い合った。
山口 紗椰。彼女は、同じ中学からの…友達(?)だ。
友達って言う程の仲じゃない。
なんて言うか……そう。同じ志望校で、同じ中学だったから。
私の中学からは、私と紗椰だけしか、受からなかった。
…簡単に言うと、城西高校を志望校としたのは、私と紗椰だけだったのだ。
………まぁ、難しそうっていう、偏見があったからじゃない?
バカだよねー。競争率、こっちの方が低かったのに。
まぁ、そこら辺は置いといて。
私は、紗椰と共に席に着いた。
「ふーーーっ。終わったなぁ」
紗椰が思いっ切り伸びをした。
私はその姿に、苦笑して言った。
「こらこら。失礼でしょ、紗椰。確かに、校長先生の話長かったけど」
「そうやねん。長すぎんねん、校長の話」
「こら。先生を付けなさいっての」
私は、微笑ましく思った。
紗椰は、何でもズケズケ言うけど、其所が好き。
ズバッて言うと、何だか格好いいから。
内気な私にとっては、憧れ中の憧れだ。
「?何なん?さっきから、じっと見て。気持ち悪いわ。あっそうか、とうとうウチの魅力に気づいたんか」
パチッとウィンクをした。
紗椰は只でさえ色っぽいのだから、そんな事されると、身が持たない。
「うわっ。やめてよ、紗椰。そんな訳無いよ」
「ちぇっ。ケチやな、ゆぅちゃんは」
「やめて。気持ち悪い。変態」
「ヒドっっ!!」
そんな他愛の無いじゃれあいをしていると、先生が通りかかった。
どことなく無愛想そうで、取っ付きにくそうだ。
「もうチャイムが鳴るぞ。教室に戻っておけ」
ハスキーな声が、私を身震いさせた。
…怖い。
私の頭の中には、其れしかなかった。
「は〜い」
紗椰は、素直に頷いて教室に戻ろうとした。
先生は、軽く頷いて、また歩いていってしまった。
「ゆぅ?もう行こ?っっ 大丈夫か??顔色悪いで?」
紗椰は本気で心配してくれた。
…紗椰は、優しいね。
「ん……。だいじょぶ…。行こ?」
私は、ガンガンする頭を押さえ、ヨロヨロと歩き出す。
紗椰と、同じクラスで良かった。
教室に着くと、私は机に伏せった。
「ねぇ、ほんまに大丈夫なん??」
隣の席になった紗椰が、心配そうに聞く。
…そりゃ、机にへばってたら心配だろうねぇ。
「ん…たぶん」
「多分ってなんや。怖いやんか」
心配そうに顔を覗き込まれる。
……って言っても、机の横から話しかけられたんだけど。
「どうしたん??……あの先生、顔見知りなん?」
「っっっっ」
私は硬直した。
折角、起き上がろうとしていた時だったのに。
また、机にへばってしまった。
一気に脱力ぅぅぅ〜〜〜。
「うわわわ。ご、ごめん。い、今の話、なしで」
慌てて、紗椰が言う。
…優しいね、紗椰は。
私の心の傷が、疼く。
私は…無理矢理、押し込める。
消える訳じゃないけど。
少しでも、忘れておきたくて。