宇宙最強の魔法犬「クロ」
ふっ、俺はその昔、宇宙最強とまで言われた魔法使い。
その名も「ジェントレン・グレース・バイクン」
漆黒のジェンと恐れられ、誰もが俺にひれ伏した。
しかし、今は犬だ。
いくら吠えても、ただの犬。
それ以上もそれ以下もない。
おっと、俺の従者が食事を運んできたようだぜ。
ちょうど小腹が空いてたんだ。
気が利くな。
「わんわんわんっ」
ふっ、お礼に吠えてやったぜ。
「クロちゃ~~ん、ご飯ですよぉ~~。はい、どうぞ。」
この少女は、俺の給仕係。
名前は確か・・・・
・・・・・・・・・・・。
ふっ、たかだか犬の脳じゃ、人間の名前すら思い出せないなんてな。
俺も地に落ちたもんだぜ。
思い出すなあ、遠い昔を・・・。
数多の星を火の海にした、残虐で痛快な日々。
まあ、さすがに暴れすぎたか・・・・。
その報いがこの姿さ・・・。
ふっ、笑えばいいさ。
だが、このままで終わる俺だと思うか?
今、こうしている間にも、徐々に俺の魔力は増え続けている。
犬に封じられる寸前、最後の魔法を使ったのさ。
まだ大した事は出来ないが、あと数日もすれば俺は人間へと戻れるだろう。
ふふふふ、その時がこの惑星の最期だ。
ふはははははははーーーーーーー。
「クロちゃん、お散歩行くよ~~。」
「わんわんわん!」
大喜びで走り回る俺。
ふっ、俺とした事がたかだか散歩ごときで熱くなるとはな。
この少女、只者ではないな。
ま、俺の従者だ。
普通の人間であっては困る。
「う~~わんわんわんっ!!わんっ!!」
ふっ、俺は今、やっかいな敵と対峙している。
恐らく、この惑星最強の生き物だろう。
「バウウウウウウウ・・・・・」
今も俺を威嚇してやがる。
俺の数倍のでかさだ。
先に動いたら殺られる・・・・。
俺は体勢を低くし、やつの攻撃にそなえる。
しかし瞬間、やつの首から伸びたヒモが引っ張られ、戦闘はお預けとなる。
「こらっ、また人様の犬に迷惑かけて!この馬鹿犬が!!」
そいつは、まさに地獄の番人のようだった。
この惑星はなかなか侮れんな・・・ふっ。
そして従者を連れ、道が交差する場所で待っている。
ふっ、何を待っているかって?
俺には全てお見通しだ。
あの上の方にある、ライトのような物が青く光れば、ここは前に進めるシステムだ。
ふっ、既にこの星の科学は、俺が掌握したようなものだな。
所詮、サルどもが。
・・・・・・・・。
その時、俺の従者である少女の持つ赤い球が、道へ転がった。
それを追いかける少女。
そして、猛スピードで迫る、黒い何かの塊。
いかん!
このままでは、得たいの知れない魔法に、俺の従者はやられてしまう!!
俺は瞬間、魔法を唱えた。
目の前に、大きな火球が現れる。
恐らく、全魔力を放出せねば、あの魔法は止められないだろう。
だが、全ての魔力を使い切れば、もう二度と復活する事は叶わない。
俺は一瞬躊躇した。
「きゃあああああああああああ!!」
ぎりぎりで、俺は魔法を発動させた。
あの魔法は木っ端微塵だ。
従者も無傷。
ふっ、無論、俺は最強だからな。
だがこれからは、ただの犬として生きる事にしよう。
そんな人生も悪くない。
後世でまた会おう。
俺は必ず復活する。
その時まで・・・・じゃあな。