怒られてあげたよ ~時司の愚痴日誌
イベントの案内状を配る仕事が回ってきた。
正式な案内状はある。でも会場が少しわかりにくい場所だった。
だから私は、手描きの地図をつけた。当日迷った時のために、連絡用の携帯番号も書いた。親切設計。ほぼ観光案内である。
ちなみに、上司から作れとは言われていない。
案内状は基本、直接手渡し。
だいたいの人には渡せた。
ただ一人だけ、会えない人がいた。
一週間前になっても捕まらない。
しかもその週に限って、私は別の仕事で完全に拘束されていた。
受付にも出られない。
お茶も出せない。
当然、表にも出られない。
つまり、案内状を渡すのは物理的に無理。
なので私は上司に頼んだ。
「この人だけ、手描き地図入りの案内状を渡してもらえますか」
上司は言った。
「わかった」
社会人として、とても安心する言葉である。
・・・安心したのが、間違いだった。
当日。
開始時間を過ぎても、その人は来ない。
三十分。
四十五分。
一時間。
一時間以上遅れて、ようやくその人が現れた。
ドアが開いた瞬間、空気が少し張りつめた。
「ここ、どれだけわかりにくい場所か分かってます?」
お客さんは明らかに苛立っている。
「案内状も地図もないし、電話も分からないし。かなり探しましたよ」
受付の前で、上司が慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません。ご不便をおかけしました」
お客さんの声はしばらく収まらなかった。
会場が分からなかった事。時間を無駄にした事。何度も同じ説明をさせられた。
上司はその場で、ひたすら「申し訳ありません」と頭を下げ続けていた。
・・・そして後で、私にこう言った。
「さっきのお客さんね。私が代わりに怒られておいてあげたよ。」
あなたは私の上司だ。その週、私が別の仕事で拘束されて渡せないのを知っているはずですよね?
だから私は頼んだ。最後の1人に案内状を渡してほしいと。そう頼んだつもりだった。
でも違ったらしい。
この会社ではどうやら、頼んだ仕事はやらなくてもいい。
代わりに『怒られてあげる』というサービスが付くらしい。
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