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ことの顛末を話したらやっぱり正座になった

作者: 澪ナギ
掲載日:2026/06/08

「……」


 なんとなく、様子がおかしい。


「……」


 どことなく、沈んでるというか、落ちてる、感じ?


「百合愛」

「ん?」


 気になって声をかけてみる。こっちを向いた百合愛はいつも通りに見えるのに、やっぱりどこか違う。


「何かあった」


 聞いてみたら、少しだけ目を見張った。そしてすぐに。


「なぁに、どうしたの? なんもないよ~」


 って、何でもないように笑うから。




「……心許されてないのかな」

「あれで許してなかったら逆に怖くね?」


 夜。冬歌に聞いてみたらそう返ってきた。僕もそう思うけども。


「そしたら話してくれてもいいじゃん」

「いや許してるからって何でも話すってことでもねぇだろ……」

「そう?」

「そういうもん。特に女子はな」

「へぇ……」


 今まで人と関わらなかった弊害というべきなのか。女子の離せないこと、どういった関係なら話すのかのラインはいまだにわからない。


「……冬歌も話さないことってあるの」

「そりゃ、な」

「ふぅん……」


 思いのほか、面白くないという声が出た。自分だって聞かれない限りは話さないのに、都合がいいとわかっていながら、枕を抱いてそこに顎を乗せる。


「そういうところは年相応だよな」

「何それ」

「すねてるから」


 自覚があるので、否定はせず。本音をこぼす。


「……全部が全部、話すべきとは思わないけど」

「うん」

「……困ってるなら、頼ってほしいと思うよ」


 こぼせば、冬歌は「同感」と笑ってくれた。






「前になんか悩んでなかった?」


 その数日後。

 あれから百合愛は復活したらしく、いつも通りに戻っていた。

 掘り返すのもよくないかなとは思いながら、どうしてもあの時の、無理してるような彼女が気になって。百合愛に誘われて出た街でお茶をしながら聞いてみる。


 当の彼女は一度きょとんとして、ぱちぱちと目を瞬かせた。愛らしい行動をコーヒーを飲みながら見ていれば、百合愛は思い至ったように口を開く。


「前に”なんかあった”って聞いてきたやつ?」

「そう」

「ふふっ、まだ気にしてくれてたの? ありがとう」


 決してそれがはぐらかしの言葉ではないとわかったので、続きを待った。百合愛はアイスティーを混ぜながら、ぽつりと呟く。


「ゆめ」

「夢?」


 こくり、頷いて。


「怖い夢、見ちゃって」

「……」

「みんな、いなくなっちゃった夢」


 一人きりで、とても怖かったと。困ったように笑う彼女に、当然出る言葉。


「言ってくれればよかったのに」

「そうは思ったんだけど」


 カラカラとストローでアイスティーをかきまざしてから。


「頼ったら、夜、さ」

「うん」

「寂しくて、もっと寝れなくなっちゃう気がして」

「は……」


 思わぬ言葉に、コーヒーを飲みかけた手が止まった。

 それに何を思ったのか、百合愛は恥ずかし気に手で顔を覆う。


「や、やっぱり子供だよね!? あたし時雨よりもお姉さんなのにっ!!」

「いや一つ違いで大差ないけど」

「あるよっ! それなのにこんな子供みたいな理由で……!」


 恥ずかしい、とうつむく百合愛に思わずため息をついてしまった。それに、百合愛は恐る恐るこちらを見る。


「あきれた……?」

「いや?」

「ため息ついたじゃん……」

「安堵だよ」

「なんでさ」

「こう、ものすごい深刻な問題抱えてるとかじゃなくて」

「深刻だったよ」

「どうにかできるじゃん。談話室で一緒に寝るとか」

「怒られるね」


 ふふっと笑う百合愛に、僕も笑みがこぼれた。


「一緒に怒られればいいよ」

「それもそうかも」

「他にも、解決できることはするよ」

「なんでも?」

「借金とかだと額によってはちょっと困るけど」

「あは、時雨ならどうにかしちゃいそう」


 自身はある。ひとまずそれは置いといて。


 アイスティーへと戻った彼女の手を握った。


「もう少し頼ってほしい」

「時雨……」


 ここで「恋人なんだから」と言えたらいいけれど。まだ、そうじゃないから。


「……仲間なんだから、甘えていいんだよ」


 やさしくなでながら、言えば。


「……うん」


 こくり、頷いたので微笑み、自分の手はコーヒーへと戻した。


「時雨も甘えていいんだからねっ!」

「甘えてるよ」

「もっと! 仲間としても、弟分としても!」

「誰が弟分だよ……」


 そこだけは気に入らないのでいつか訂正させるとして。

 お許しが出たので。


「じゃあより甘えさせてもらうよ」

「うんっ!」


 どんな風にとまでは言わず、にっこり笑って百合愛に言えば、彼女は嬉しそうにうなずいた。


 きっと冬歌に言うと叱られそうだけど。話を聞いてくれたからには報告はしなきゃいけないので。


「……正座かな」

「ん?」

「なんでも」


 ことの顛末を聞いた冬歌からのお説教は甘んじて受けようと心に決めつつ、百合愛には首を横に振ってまずはこのひとときを楽しもうかと、コーヒーに口をつけた。


『ことの顛末を話したらやっぱり正座になった』/時雨




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