第05話 ハダカでポン!
先日の勇者召喚によって、こちらの異世界へやってきた5名のうち、初日に脱走した剣聖の男子生徒はあれから真面目に訓練に参加するようになったし、姉上を拉致して性犯罪者の烙印を押された聖騎士は今も城の地下牢にて贖罪の日々を送っている。
あと残っているのは毎日のように図書室へ通ってる賢者の男子生徒と、まだ初級魔術しか使えない治癒士と、まだ何一つとして召喚獸との契約を済ませていない召喚士の女子生徒二人を残すのみとなった。
勇者の支援機関とも呼べる女神教会の内部では二人の女性勇者の今後について、これから先の教育方針をどうするかで会議は紛糾していた。
これが過去の話であれば、召喚された勇者は一人の場合が普通で残りのメンバーは勇者本人が旅の途中で見つけて仲間にするか、騎士たちの中から護衛を兼ねて募集して多い時は一個師団規模にまで膨れ上がった事例が過去の記録として残されていた。
ある者は5人も勇者が居るのだから魔王討伐隊を編成する必要は無いと進言し、またある者は女性が2人も在籍しているので護衛をもっと増やすべきだと言って他の意見を聞こうとしない。
そもそも大部隊で魔族領へと攻め入るにはそれ相応の補給線確保が必要だし、その為には補給部隊を勇者たちが待つ魔族領の最前線まで無事に送り届けねばならない。
ただでさえ人族より強力な個体が多い魔族が跋扈する敵地を突っ切って、そんな大勢で押し掛けて行ったら確実に発見されて各個撃破される事態となり、補給路を断たれた勇者たちが敵地のど真ん中で力尽きてしまうだろう。
なので人族は常に少数精鋭の勇者パーティを魔王城へと送り込み、魔王一人に戦力を集中させる事で一発逆転を狙ってきた歴史がある。
魔王さえ倒せば次の魔王が決まるまで魔族領内では群雄割拠の時代が再びやって来るので、次の魔王の座を賭けて有力な魔族たちが骨肉の争いを繰り広げてる間だけは、わざわざ人族の領域まで侵攻する余裕が無くなる。
上手く行けば四天王同士で争って共倒れになるケースも考えられるから、人族の社会から見れば良い事ずくめなのだ。
だからこの世界の人々は勇者に過度な期待を寄せて、まるでシネマに登場するヒーローみたいな扱いをするから、異世界からやって来たアホどもが誤解して増長し、それがトラブルの原因となっている。
そしてそんなテロ行為にも似た手口によって何度も国難を乗り越えた成功体験が災いし、いつまで経っても他の世界から召喚した勇者に頼ってばかりの国防文化が根付いてしまっていた。
そして女神教会の意向ばかりを気にして、前世で言うところの『お役所仕事』しか出来ない勇者庁には何も期待出来ないので、オレは城に居る2人の女性勇者をこれからどのように導いてゆくかヒヤリングを行い方針を固めておく必要があった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
この時間帯であれば書類上は『宮仕え』となっている勇者たちは訓練場か講堂に居るはずで、午前中の涼しい時間は体術の訓練に割り当てられていると、クロエたちから事前に説明を受けている。
──コンコンコン
オレが講堂の扉をノックしてから入室すると、広い室内に会議用の机と椅子が整然と並べられており、城の講師から配布された冊子を読んでいた二人の女性勇者が、こちらへ視線を向けてきた。
講堂内に講師の姿が見えないので、今は休憩中なのだろう。
「ちょっと失礼する。オレの名はアレクシルと言って皆様をこの世界へ召喚された聖女様の弟です。これからは、どうか気安くアレクと呼んでくれ」
この女性勇者二人とは召喚された時に少しだけ顔を会わせただけだったので、ここでは当たり障りの無い自己紹介をした後で、彼女たちの今後について希望する事があれば聞いておきたいと説明を始めた。
オレ個人の意見としては女性二人だけと言う理由では無く、単純に治癒士と召喚士の二人に護衛騎士を数名同行させるだけでは不安が残るので、出来れば先の三人の男性のうち前衛職である剣聖か聖騎士の準備が整うまで出発を待ちたいところだ。
「だからぁ~アタシの名前は綿平優奈だお。アレきゅんには是非『ユナ』って呼んでほしいな」
(アレきゅんってオレの事か?)
明るい茶髪と大きな眼が特徴の元気そうな彼女は、制服のスカート丈を膝上まで詰めた今時の女子校生なのだろう。真っ直ぐにこちらの目を見て話しかけてくる彼女に対して、決して正面から見つめ合わないように視線を少し反らせながら返事をする。
「アレきゅんって、もしかして純情なんだねぇ~?」
この綿平優奈は召喚の儀のあった日に魔王討伐報酬の一つとして王族との婚姻の話が出たが、確かその時にオレを指差していた女だ。
こちらの異世界では、元居た世界基準で考えれば誰もが美女と美男ばかりに見えるし実際にその通りなのだが、そんな中でオレの容貌は元世界の人間に近い雰囲気があり、言ってみれば日本人顔のマトリクスデータを元に日本人好みの要素を残したまま欧米人っぽい感じに仕上がっているようで、異世界からやって来る勇者たち(主に女性)からは概ね好意的に受け入れられている。
それでもオレの姉上の場合だと、美人度がカンストして神々しさを感じてしまうレベルなので、一般人から見ると話しかけるのを躊躇わせてしまうレベルに至っている。
「──で、アレきゅん、ユナのお話しちゃんと聞いてる?」
「ああ、大丈夫だ問題ない……」
綿平優奈とは彼女のジョブである召喚士についていくつか質問された程度で、あとは彼女の召喚契約を進めて行く上でクエストの同行を求められたが、スケジュールが合えば考えておく的な返答をしておいた。
確かに元の世界では美少女と言っても申し分無い容姿の彼女だが、会話の内容が急に飛躍したり彼女の身内か友人にしか判らないような話題や単語を急に振られても無難に相槌を打つしか無いのだが、中には簡単に同意をしてしまうとマズイ話が地雷の様に埋め込まれたものもあり、神経が少しずつすり減って行くような感覚を伴う。
「優奈、もうそれくらいにしてあげたら? 貴女が大好きな『アレきゅん』さんが困ってるでしょ?」
「もう~モモカちゃん、急に何を言い出すのよ~。ユナはアレきゅんの事なんてまだ何とも思ってないんだお?」
「判ったわ、まだそう言う設定なのね……で、アレきゅんさん、私からの希望としてはもっと上位で実力のある魔術の先生をつけて欲しいのよね。今回の五人の中だと治癒士の私が一番弱いから、このまま魔王討伐の旅に行かされたら自分の身を守ることも出来ないわ。私は聖属性以外に水系魔術の素質もあるらしいから、そちらの系統も学んでおきたいのよ。ねぇ、いいでしょ?」
ツルペタの綿平優奈とは違って、女子高生にしては発育の良い来栖桃花がオレの手を握り上目使いで頼んでくる。
彼女は綿平の様なギャル感は無く、制服もノーマルのままで地味な印象を受けるが彼女の胸元に引き寄せられた手の平の感触が、彼女のたわわに実った二つのアレがド級の逸材だと伝えてくる。
清楚で地味な雰囲気のある彼女だが、脱いだらスゴそうなワガママボディには決して視線を向ける事無く、平静のまま対応する事を心がける。
彼女が望む水属性の魔術士であれば近衛隊のナタリーが適任だろう。ナタリーなら治癒魔術も仕えるし水と氷の魔術が使えるから良い先生になってくれると思う。
「近衛隊に治癒と水系魔術が扱える女性騎士が居るから、オレの方から手配しておこう」
「ありがとうございます」
それ以外にも体術や護身術については、王宮騎士団のうち所属する全員が女性であるオレの近衛隊と一緒に訓練して貰う事にした。
「アレきゅんはユナが他の男性とお話するのがイヤなんだよね?」
「近衛隊の方と訓練していればアレきゅんさんにも見て頂けますよね?」
「近衛隊は女性騎士だけの部隊だから話しやすいと思う。それに隊長のクロエはオレと姉上の古くからの知り合いだから頼って貰っても大丈夫だ」
これで女性勇者二人の訓練について大まかな方針を固めたオレは、この日のうちに姉上に会い了解を取り付けたのだが、それがトラブルの元になるなどこの時のオレには判らなかった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「王子! 大変です!!」
その日も執務室で書類の決済をしている最中だと言うのに、いつものように扉を蹴り破る勢いで隊長のクロエが室内へ飛び込んで来た。
はて、何か問題が起こる要素はあったのだろうか? 脱走勇者は男ばかりの王宮騎士団へ放り込んだままだし、姉上を拉致した性騎士は今も地下牢にて服役中だ。それに賢者の男子生徒は今日も城の図書室で何か調べ物をしていると報告を受けているし、女性勇者の二人は訓練場に居るはずだ。
「王子! 早く綿平様を止めて下さい!!」
オレは片手に持っていたティーカップをテーブルの皿に置くことすらさせて貰えず、手に持ったままクロエに引っ張られて王宮内の廊下を進む事になった。
途中ですれ違う侍女や貴族たちはオレとクロエをマジマジと見るのが不敬だと考えているらしく、誰もオレと目線を合わせようとしないが、とりあえず顔見知りを見つけてティーカップを手渡す事に成功する。あれは姉上から頂いた大切なカップなので、大切に扱って欲しい。
「あ、アレきゅん、これ見て!」
綿平優奈が空中を指先でなぞれば、その軌跡が光って魔方陣としてその場所に残り輝きを強めていく。その光が徐々に大きくなり『ポン!』という音と共に、その中から一人の女性が召喚されて出て来た。
「キャッ!!」
召喚の魔方陣から出て来たのはオレが良く知ってる副長のオリビエだったのだが、問題があるとすれば彼女がいつも着てる白銀の騎士鎧どころか、その身には何一つ纏っておらず生まれたままの姿で現れた事だろうか?
「王子! 何じっと見てるんですか!?」
クロエからそう指摘されるが、オレとしては見てくれと言われたから見ていただけで、まさかそこにオリビエが素っ裸で飛び出てくるなんて思わないだろう……なのでオレは無実だ。
王宮内の訓練場に居るので誰もマントの類を身に着けておらず、オリビエの裸体を隠す物が無いか辺りを見回すと、窓際にあるカーテンを見つけたのでクロエに命じてそれを徴用し、それでオリビエの身体を包んで更衣室へと向かって貰った。
クロエがオレを呼びに来た時は、まだこれほどの惨状とはなっておらず、綿平優奈が訓練場に居る女性たちを相手に新しい実験を行った結果、彼女がキスをした相手が召喚契約に合意したと見なされる事が判り、手頃な戦力増強のために近くに居た女性たち全員にキスを迫っていたらしい。
その最初の犠牲者となったのが先ほどのオリビエで、キスしてきた相手が女性で勇者の一人だと言う事もあり余り嫌だとは言えなかったのだろう。
その後も何名かの女性たちが餌食となったらしいのだが、その段階で何かおかしい事に気づいた者たちは既に訓練所から逃げ出したらしい。
「アレきゅん見てくれた? ユナの新しい召喚魔術だおw」
まだ召喚魔術のレベルが低くて装備品まで一緒に召喚する事が出来ない状況だが、彼女は練習すれば何とかなると思っているらしいがちょっと待ってくれ。
オリビエたち女性騎士はれっきとした人族であって召喚獣では無かったと記憶してる。
それなのに勇者が持つ不思議パワ〜で召喚契約を結べるようになったのは、ある意味では魔王城へ味方の兵力を一瞬で送り込めそうなエポックメイキングなスキルの使い方だとは思う。
だが送り込んだ者たちが丸裸のまま武器はおろか防具さえ装備出来ない状態で、強敵が揃う魔族だらけの場所へいきなり放り出されるのは話が別だ。
オレは綿平優奈にキスされた女性たち全員を、今すぐ女神教会へ行かせて解呪して貰って来るように指示を出した。
「綿平さん、王宮の女性たちにキスして召喚魔術で呪うのを止めてくれ」
「ユ・ナ」
「へ?」
「だからユナだって言ってるじゃん? 『綿平さん』なんて他人みたいに言わないで、ユナの事は名前で呼んでくれないと、もう返事しないから」
オレはこの瞬間もの凄い違和感を感じたのだが尾首にもそれを出さず、目の前に居る未知なる存在とのコンタクトを継続する。
「ユウナ、いくら勇者を支援する騎士とは言っても彼女たちは女性なので、公共の場に素っ裸で召喚するのだけは止めてくれないか?」
「アタシの魂の名前はユナなんだけど、純情なアルきゅんにいきなりそう呼ばせるのはまだ早かったのかな? でもユウナって呼んでくれるのならそれでもいっか。今回は特別に許してア・ゲ・ル」
オレは沸々と沸き上がる殺意を胸に秘めながらも、目の前の存在が魔王を倒せる逸材である可能性も考慮し、ここは穏便に彼女を送り出すまでの辛抱だと自分に言い聞かせる。
「やっぱアルきゅんに他のオンナノコのハダカを見せるのはユナもイヤかな。でもユナの唇が他のオトコノヒトにキスするのはアルきゅんもイヤだと思うから……それならちゃんとした召喚魔獸と契約しないとダメよね?」
「流石はユウナだ。召喚士としてやって行くなら強力な従魔が必要になるから、今後は王都から近い地下迷宮へ行って最深部に潜むボスモンスターを攻略して呪……契約すれば、きっと新しい力になるからその時はオレも応援させて貰う!」
勿論だが応援は城でするからな。
応援するとは言ったが同行するとは言ってない。その日は何か別の予定を入れて、泣く泣く居残り組となるよう姉上に計らって貰うつもりだ。
「そっか、それならユナも今すぐ準備しなきゃだね!」
訓練場からいそいそと出て行く綿平優奈の後ろ姿を見ながら、これでやっと問題が解決したと安心して室内に残っていたクロエたちと顔を見合わせた。
「王子……イロイロとお疲れさまでした」
クロエたちも心なしか疲れた感じでオレを労ってくれる。
「優奈っていつもあんな感じなんだよね。スタイルはペチャだけど、顔だけはそれなりに良いのに何か勿体ないよね?」
そう言えばこの訓練場に、もう一人の女性勇者が残っていたのを忘れていた。




