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異世界王子の憂鬱  作者: 桂木けい


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3/3

第03話 せいきし?

「王子! た、た、大変です! 早く起きて下さい!!」


 その日も、朝早くから近衛隊長であるクロエの叫び声で目が覚めた。


(毎朝毎朝いい加減にして欲しいものだ……)


 いや、叩き起こされたと言い直した方がより正確だろう。もしかして彼女はオレの睡眠時間を削る密命を何処かの秘密組織から受けているのだろうか? 時々だが覚醒しきっていない脳細胞がそんな疑惑を訴えかけるが、オレはまだ眠い目をこすりながらノックもせずに慌てて入って来た彼女の様子から、この国でまた只ならぬ何かが起こった事を悟った。


「また勇者(アホ)どもが何かやらかしたのか?!」


 『勇者』と書いて『アホ』と読むようになったのは、それなりの理由がある。


 先日、もうかれこれ何回目なのかすら数えるのが嫌になった勇者召喚の儀によって、また新たに異世界からやって来た5名の勇者どもだが、あれから数日経ったと言うのに未だこちらの異世界の常識が理解出来ていないらしく「コンビニは何処だ?」とか「Wifiの電波が届かないんだけど?」など彼らが訴えるクレームを数え上げたら、それこそ枚挙に暇が無い状況だ。


 こんな中世程度の文明しか発展していない世の中にコンビニなんてある訳無いだろうが?! もしあったとしても違和感がハンパ無いと何故その足りないオツムで考えない? それからそこおの女! 異世界までやって来てスマホばっか弄ってるんじゃない! 真面目に訓練をしておかないと後で泣いても知らないぞ!?


 オレはそんな内容のアドバイスを幾重にもオブラートで包み込むように優しく言葉を選び、決してキレる事無く粛々と相手に説明を続けるのだが理解して貰えない事の方が多い。


 今回の騒動は、姉上の事を魔王討伐の報酬だと考えたヤンキー勇者の田中くんが、姉上の寝所に押し入り報酬の先払いを要求したらしく、それが叶わないと知った彼はそのまま姉上を拐って何処かへと行方を眩ませてしまったらしい。


 我が王国には姉上一人の犠牲によって魔王討伐がなされるのであれば安い経費だと考えるバカな貴族どもも居るかも知れないが、その瞬間にオレの頭の中は真っ白になった。


「姉上が拐われたのは何時(いつ)だ?」

「今朝方早朝だとの事です!」


 よりによって自分達を召喚したオレの姉上を拐うなどあのヤンキー勇者は一体何を考えてるんだ? いや、まてよ、何も考えてないから今回の事態を招いたのだろう……たぶん。


 自分が拐った相手が魔王城を目指す旅に於いて、自分たちに最後まで支援を行ってくれる国の王女だと説明されたはずだが、それでもあの美貌と至高のスタイルを目の前に彼のリビドーが溢れ出てしまった結果の行動だとすれば致し方無い事なのかも知れん。


(DTが姉上の美貌とスタイルを目にすれば、起こり得る結果だったのかも知れない)


 それに若さ故に今はナニする事で頭がいっぱいだとすれば、早く助けに行かないと姉上の純血が危ないな。


「クロエ、今すぐ出るぞ!」

「はい!」


 オレはクロエを伴って行方を眩ませた田中くんの追跡に取りかかる。


「王子、どちらへ向かわれるのですか?」

「いいからついてこい」


 オレは自室を出る前に手早く着替えを済ませ足早に廊下を進む。


 クロエに毎朝叩き起こされるのが日課になりつつある今日(こんにち)、枕元に着替え一式を畳んで準備しておくのは当たり前の事で、そしてこれから向かう先は勿論、姉上の部屋だ。


 姉上の部屋は王宮の5階でオレの部屋の真上にある。廊下を含めた間取りの似たような配置なので迷わずに最短距離を進む。


「やっぱりそうだったか」


 姉上の部屋の扉前に到着したオレはそう呟く。これなら中へ入るまでもない。


「何か判ったのですか?」


 背後に立ちこちらを伺ってる様子のクロエが不安そうに尋ねてきた。そう言えば彼女は姉上と同じ歳で、王都学園でも同級生だったから友人の安否について気になって仕方が無いのだろう。


「こっちだ、ついて来い。それと途中で近衛隊を3名ほど連れて来い」


 オレは4階から3階にある当直室へ寄って、そこでノンビリと暇を持て余していたアンナとナタリー、それからメグらの武装を確認してから王宮の1階まで降りてゆく。


「王子、そろそろ行き先を教えてください」


 一言もしゃべらないまま歩き続けるオレに、シビレを切らしたクロエがそう問いかけてくる。


「王宮の地下にある禁止区域だ」


 この王宮には王族同伴でなければ立ち入りを許されていない場所がある。


「それって、もしかして地下迷宮(ダンジョン)じゃないですか?」

「そうとも言うな」


 そもそもだが、この城は地下迷宮(ダンジョン)の入口を蓋するのが目的で建てられており、この国の初代女王陛下が地下迷宮(ダンジョン)最深部まで到達し、そこでこの国を治める事を認められて精霊と契約したのが国の起こりだ。


 なので姉上を連れた勇者の田中くんが偶々地下へと向かい、この城の地下迷宮(ダンジョン)入口に設けられた警衛所を通過できてもおかしくはなかった。


 ちなみに地下迷宮(ダンジョン)入口にある警衛所は侵入者防止の為にあると思っているようだが、それと同時に迷宮内から魔物が出てくるのを防ぐ意味もある。その証拠に警衛所から王都にある冒険者ギルドへの直通回線が引かれており、有事の際は王宮騎士団の他に冒険者も駆けつける契約になっている。


 姉上と同級のクロエとアンナは落ち着いているが、姉上と余り面識の無いメグは行き先が地下迷宮(ダンジョン)だと知り姉上の心配をし始める。


「王子、早く見つけないと王女の身に危険が!」


 確かに、いくら隠れた実力者である姉上でも睡眠薬で眠らされて無抵抗な状態のままでは、ヤンキー勇者の田中くんに抵抗する事は出来ないだろう。だが地下迷宮(ダンジョン)へと続く通路にはヤニ臭い男子と姉上の他に、もう一人の女性の匂いが微かに残っていた。


 これは別に、オレが常日頃から姉上が脱いだ衣服や靴下をクンカクンカして匂いを覚えてしまったからではない。決してない。無いからな。そしてクナクンカし過ぎて嗅覚が常人の数十倍も敏感になったからではない。決してない。無いからな。大事な事は二度言っておかないと落ち着かない。


「恐らくだが、姉上は城の地下迷宮(ダンジョン)10階層に向かってると思う」


 以前にも姉上が行方不明となる事件があって、その時もオレが姉上の所在を突き止めた実績があるので近衛隊の皆からの信頼は厚い。ただその理由として『姉上の芳醇な香り』とバカ正直に明かしたりはせず、姉弟の絆を感じるみたいに説明しておいたので心象がアップしたのは間違いない。


 恐らくだがヤンキー勇者の田中くんが目指しているのは地下10階層にある最初のボス部屋だろう。


 あのボス部屋ならミノタウルスが一匹出てくるだけなのは訓練で既に知っているはずだし、そのボスさえ倒してしまえば次に新たなボスが出てくるまで丸一日は安全地帯となる事を利用しない手は無い。


 その上でもし彼が持て余したリビドーをどうにかしようと考えた場合に、どうしても他者から隔離されたプライベート空間が必要になるから、今は城内で他の勇者どもと共同生活をしている田中くんが犯罪行為に手を染めようと考えた時、衛兵が直ぐに駆けつけて来ない場所で最も馴染みが深く、尚且つ訪れ易い場所として地下迷宮(ダンジョン)はバッチリ条件が合うからな。


 もしオレが同様の犯罪で身を隠すとしたら地下迷宮(ダンジョン)ほど条件が合う場所は無い。ただもしオレならもっと深い階層まで潜伏するけどな……。


 オレは地下迷宮(ダンジョン)1階層にあるポータル・ゲートに立ち左手首にある細いブレスレットを翳し、行き先を10階層にあるポータル・ゲートを指定する。


 オレたち5人が立つ地下迷宮(ダンジョン)の床に、淡く青白い光が幾何学模様と古代文字を描き出し視界いっぱいに光と文字が溢れ出す。そしてホワイトアウトが終わり目の前に石造りの地下迷宮(ダンジョン)が現れて10階層への転移が終わった事を知る。


 このブレスレットは初代女王陛下の持ち物だったらしいが、子供の頃に姉上とかくれんぼをしていた時に城の宝物庫で見つけた物で、それ以来ずっと借りたままになってるアーティファクトだったりする。ちなみにこのブレスレットだが、何故か同じ物が二つあったので姉上も持ってる。


 姉上の匂いが徐々に濃くなってるので田中くんがこの階層を目指してるのは間違いない。ポータルからボス部屋までは実質一直線なので、田中くんの先回りをして驚かせてやろう。




 この階層のボスである通常種のミノタウルスを倒しても約一日経てば復活するので、現代世界から召喚された新人勇者たちの格好の訓練場所となっており、最初はパーティで攻略を行うが次第に実力がついて来れば一人で挑戦して貰う事になるのだが、田中くんはまだソロでの攻略を終えたと報告は受けていなかったはずだ。


──ブモーーー!!


 入口にある豪華なレリーフが施された大扉を、力自慢のアンナが片手で押し開くと同時に、クロエとメグが突撃を開始し、ナタリーがその後ろに続く。

 オレは王子だから、こういった汗臭い作業には極力関わらない方針なので、彼女たち近衛隊に任せるようにしている。




 ここで少しだけ、オレの近衛隊について触れておこう。


 クロエを隊長とする近衛隊だが、彼女たちは元々オレの護衛として姉上が手配してくれた付き人が始まりで、オレが王都学園を無事卒業して各地へ王族として赴く必要が出てきた折に、オレの身辺警護を旨とする護衛騎士の募集を行ったのだが、これが芳しくなかった。


 それは女王制である我が国において男性王族の立場が極めて軽いものであり、ましてや次世代の女王と目されている姉上の王配に実の弟であるオレが選ばれるはずも無く、この先ずっと冷や飯食いが確定しているオレの元へ、この国の貴族たちが大切な子息を差し出す事を拒んだのだ。


 何もこちらから長男や次男を寄こせと言った訳ではないが、女神から【前世記憶】とかいう何の役に立つのか判らないクズスキルを与えられたクズ王子に、例え三男以下であったとしても関わりを持つ事がマイナス要因だと考えられたのだろう。


 その結果、オレの身辺警護を買って出てくれたのは王都学園で姉上と一緒に学んだ学友たちと、その後輩たちであった。


 なのでオレの近衛隊には女性しか居らず、そのうえ王宮に巣食う大臣どもから存在を無視されてるオレの元には侍女すら派遣されて来なかったので、護衛騎士であるクロエたちだが普段は侍女も兼務してくれてるのが実情だから、彼女たちには感謝しかない。


 そんな縁故採用の彼女たちだが、その実力は決して低いものでは無い。だってあの姉上が認めた実力者だよ? そんな彼女たちが弱い訳無いだろ? 彼女たちの実力があれば王宮騎士団でも通用すると思うのだが、この国の王宮騎士は女王陛下をお護りする男臭い輩共と決められているらしく、例え実力があっても性別の壁は乗り越えられないらしい。ホントに勿体ない。




 そんな事を回想してる間に、この部屋のボスであるミノタウルスは瞬殺されており、オレの元には治癒魔術を得意とするナタリーを残して、クロエたち3人は室内の安全確認を行っていた。


 これでボス部屋のロックが解除されて、次のボスが排出されるまで約1日はこのままの状態が維持されるので、ここで彼と姉上を待つ事にする。ちなみに一度だけ部屋の外で姉上の匂いをクンカクンカしてみると、今はここから3階層上くらいに居ると思われる。


 ナタリーが魔法のポーチから椅子とテーブル、それと紅茶セットを取り出して休憩の準備を始める。知らないうちに胸当て等の装備を脱いで侍女服へと着替えを済ませていたが、まるで魔女っこアニメの変身ヒロインのような素早さで毎回のように関心させられる。


(もしかしたら、そういったスキルがあるのかも知れないな)


 そうして近衛隊の皆と一緒に小休憩をしていると、ようやくだが姉上の身体を不器用に抱えながら大扉を押して田中くんが部屋へ入って来た。


(思ったより早かったな。さすがは勇者と言ったところか?)


 奴の腕の中でお姫様抱っこされた状態で、気を失っている姉上の姿を確認したクロエたちに怒気が立ち込めるが、ちょっと待って欲しい。

 今直ぐにでも田中くんの身体を斬り刻んで素粒子レベルにまで分解したい気持ちは判るが、姉上が纏う着衣に乱れが無く、ここへ来る途中で暴行された形跡が見られなかったので殺意を抱くのは間違ってる。


「お、お前は!! ……誰だっけ?」


 オレとて王族生まれのイケメンだと貴族の娘たちには噂されているが、勇者召喚の儀によって姉上と出会ったヤツらの記憶にほとんど残っていないのはいつもの事なのでスルーしておく。


 これは決してオレがモブ顔なのでは無く姉上の容姿が優れ過ぎている事に起因しており、もし仮に伝記や歴史書に記されている傾国の美女や女神様たちが姉上の隣に並んだとしても、きっと彼女たちもオレと同じくモブ扱いを受けると断言出来るからな。


 閑話休題として、オレは田中くんの手から姉上を取り戻すべく奴に近づいて行く。


「オレはこの国の王子だ。そしてお前が両腕に抱えているその方の弟でもある。無駄な抵抗などせず素直に姉上をこちらへ渡せ!」


 素直に渡さないと、オレの背後に並んでいる近衛隊の皆が許さないと思うぞ?


「ふん! お前らみたいなザコに何が出来る! 勇者を舐めるな!」


 彼がそう言った瞬間、田中くんが抜刀した量産型聖剣カリバーンが煌めきを放ちながらオレを真っ二つにしようと襲い来る!


──キィン!


 先ほどナタリーが準備してくれた紅茶には、オレの大好物である苺のショートケーキが振る舞われていたので、それを食べ終えてからテーブルに置く前に彼がやって来たから、それが役に立ってよかったのだが、まさか勇者の攻撃がこうも簡単に受けられてしまうとは田中くん本人も予想していなかったみたいだった。


 まだ召喚されたばかりでレベル1の初心者勇者の斬撃など、例え見なくても感知さえ出来てさえいればデザート用フォークが一本あれば十分だ。


──カラン!


 音を立てて石畳の床に落ちた聖剣が乾いた音を響かせたのは、オレが田中君の攻撃を受けると同時にアンナが掌底で彼の胸を打ったからで、宙に放り投げられた姉上の身体を素早くキャッチしたのはクロエだった。


「まだこの世界へ来たばかりの君では、モブのオレにすら敵わないと知れ。そしてこのような罪を犯した以上もう勇者どころか罪人として扱わせて貰うから覚悟するんだな」


 例え犯罪者でも、姉上が召喚した勇者を即死させるのを躊躇ったアンナが手加減していたおかげで、田中くんは鎧に多少の凹みが出来た程度でまだピンピンしていた。


「うるさい! お前たちが勝手に召喚したんだから僕も勝手にやらせてもらう! だから邪魔するヤツはこの勇者の力を使って排除するだけだ! 戻って来い! 聖剣!」


 田中くんの手に戻ろうとする聖剣を靴底で踏みつけてやると、最初はジタバタと動いていた聖剣が途中で諦めたのか急に大人しくなってしまった。


「クソ! 卑怯なヤツめ! 例え聖剣なんか無くても異世界からやって来た俺様にはステータスの恩恵がある事を知らない訳では無いだろう? この異世界の普通の人間相手に聖なる力なんて必要無い。圧倒的に高いステータスで裏打ちされた物理で殴ればイイだけの話さ!」


 そうだな、確かに異世界からやって来た勇者どもには基礎的な能力、即ちステータスの数値が軒並み高く設定されているが、まだレベルが1しかない勇者ではクロエやアンナたち熟練者には敵わないけど誰も教えてないのか?


「なんだ直接殴って欲しいのか? 現代世界から来た勇者は変わった趣味をしているな?」


 それなら話は早い、田中くんの性格が早く良くなるようにと願いを込めて、このオレが直々に修正してやろう。


「やれ!」


 オレの号令を待っていたかのようにアンナとメグが飛び出す。ちなみにクロエは姉上を抱えたままだったので、ナタリーには田中くんが事故死しないように治癒魔術を頼んでおく。


「さすが王子! 回復させて殴り続けるのですね!!」


──ドカッ! バキッ! ズサッ!


 姉上を連れ去られた学友と後輩たちによる『教育敵指導』は凄かった。人間の身体ってあんな風に曲がったりするんだね。オレも知らなかったよ。


「ちょっ、まっ!!」


──ドカッ! バキッ! ズサッ!


 あれだけの攻撃を受けて、まだ声が出せるなんて流石は異世界勇者! いくらナタリーの治癒魔術が優秀だからと言って、まだ意識を繋いでいられるのは聖騎士が持つパッシブスキルであるリジェネレートのお陰もあるのだろう。


──ドカッ! バキッ! ズサッ!


 本来であれば人の身体が立ててはいけない音が地下迷宮の壁に響く。ま、相手は腐っても勇者だしこれくらいで死にはしないはず。たぶん。

 それに、これも田中くんが『真人間』になる為の通過儀礼だと思えば、彼の甘えた根性を修正すべく心を鬼にして拳を振るうのは彼を召喚した我が国の責任でもある。


「ちょ、待、タイ、ムだ、タイム!!」


 そんな事知るか。姉上を拐った性犯罪者をこのまま無傷で城へ帰らせる訳には行かないし、ここで中途半端な仕置きをすれば後に禍根を残す事は間違い無いと前世で読んだマンガやラノベで既に学習済みだ。


(性犯罪者は再犯の可能性が高いと言うから、どこかテキトーな地下牢にでも閉じ込めておこう)


「ま、ま、って、くれ、た、の……」


 まだ何か言ってるみたいだが性犯罪者の言うセリフなど聞く耳は持っていない。

 それと「待ってくれ」と言うのは前世の世界では「押すなよ!」と同じ扱いで「もっとやってくれ!」と言う文化だったと記憶してるから、オレはアンナたちの鉄拳制裁を止めるつもりなんてサラサラ無い。


──ドサリ!!


 まだ修正の最中だと言うのにレベルが1のままで鍛え方が足らなかったのか、軟弱なヤンキー田中くんが途中で気を失って倒れてしまった。


 オレ的には未だ最後までやり遂げた感じがし無かったので、アンナたちに命じて足蹴を行い彼を更なる『真人間』に昇華させてやろうと考えていたのだが、途中でナタリーが勇者の身体の上に覆い被さり性犯罪者の田中くんを庇う素振りを見せた。


「もうお止め下さい、これ以上続けたら勇者様が死んでしまいます!」


「ナタリーそこをどけ。性犯罪者をこの程度で許す訳にはいかん!」


 まだ田中くんを許せないと考えているオレたちだったが、これまでずっとオレに仕えてくれたナタリーごと蹴り飛ばす訳にも行かず、オレは怒りの矛先を何とか収めつつもクロエが抱えたままになってる姉上の様子を確認する。


「オルティナ、もういいぞ」

「 あ、バレてました?」


 実はクロエが抱えているのは姉上じゃない。彼女は変身魔術が得意な近衛隊の一員で、姉上の1つ下の後輩でもある。


「いったーい!!」


 自分が大切に抱えていたのが姉上では無く、自身の後輩だと知ったクロエの腕からオルティナが落とされた。


「王子、いつから気づかれていたのですか?」


 最初からだよ。だってクロエに叩き起こされて姉上の部屋へと向かったのだが、姉上の匂いが4階の廊下で引き返して下の階へと続く田中くんとオルティナの後を追いかけていたから。


 これはオルティナに身代わりを命じて、オレがちゃんと寝てるか確認に向かおうとした時に、田中くんが勇者スキルで姉上と勘違いしたままオルティナを連れ去ってしまい、とりあえず後を追ったのだろう。


 最初からオルティナが身代わりになってると言えば良かったのだが、彼女の変身スキルは王宮内でも極秘にしてるからそうゆう訳にも行かず、下手に姿を現せば王位継承者である姉上が二人居て影武者の存在が明らかになってしまうからな。


 そして地下迷宮(ダンジョン)へと進む田中くんを見て、ここなら誰にも見られる事無く彼を処分できるから追いかけて来たのだろうが、さすがの姉上もDTのリビドーパワーを舐めていたようだ。


 姉上の想定を遥かに上回るスピードで駆け抜けてゆく聖騎士の背中を、いくら実力ある魔術の姉上でもフィジカルでは追いつけなかったのだろう。


「姉上、もう出てきても大丈夫ですよ」


 オレがボス部屋の大扉に向かってそう声を掛けると──


「やっぱり判っちゃった?」


 てへへ、とそこから可愛い仕草で美しい姿をお見せになられたのは我が愛しの姉上で、彼女の身体と衣服に異常が無い事を確認しながら、姉上のご尊体をエスコートすべく素早く駆け寄る。


「クロエ、オレはこのまま姉上を送り届けて来るからソイツは地下牢にでも放り込んでおけ」

「はっ、お任せ下さい」


 こうして姉上のお手を引いてボス部屋から出ると、懐から取り出した『リターンの魔法石』を発動させて、地下迷宮(ダンジョン)1階層にあるポータルゲートまで一瞬で戻った。

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