第01話 トラブルだらけの勇者召喚!
気が向いた時だけの、お気楽ご気楽投稿です。
「王子! 大変です! またエスメラルダ様が勇者召喚の儀を行っておられます!!」
そう叫びながら王子であるこのオレの寝所へノックもせずに飛び込んで来たのは、オレが信頼する部下の一人である近衛騎士隊長ことクロエその人であった。
「あ、あと五分寝かせてくれ……」
まだ目が覚めていなかったオレは、彼女が口早に言った危機の内容をほとんど理解出来ていなかった。
「正気ですか?! あと5分もすれば、また異世界から、はた迷惑な勇者どもがやって来て我が王国がメチャクチャにされるのですよ?!」
オレ……と言うか、この城の騎士たちも含めて『勇者』と言うワードにはとても敏感だ。
そのニ文字を聞いただけである者は目眩を起こし、またある者は吐き気と精神疾患を催すほどのアレルギー体質となってしまった者たちも少なくない。
「そ、それは真か!?」
オレはキングサイズのフカフカな寝床から文字通り飛び起きて、高貴な身分にも関わらず寝間着姿のまま、姉上が居るであろう召喚の間へと駆け出した。
「クロエついて来い!」
「はっ!!」
頭には三角形のナイトキャップを被ったまま、寝間着はウール100パーセントの薄い水色に白の水玉模様で、それらの品々は母上が昨年の誕生日に贈ってくれた揃いの一品だ。
惜しむらくは、同じウール素材で作られたフカフカのスリッパを履いているのだが、いつも愛用しているナイトウェアと揃いの物では無く、真っ赤な布地に白の縁取りがされたそれは間違い無く姉上の物だ。なのでサイズがやや小さくて踵がはみ出てしまうので、どうにも走り難い……。
「王子! スリッパの色など気にしてる場合ではありませんぞ!」
「う、うるさい! そんな事は判っておる!」
これから異世界勇者の荒くれどもと相見えると言うのに、防御魔法モリモリの寝間着とナイト帽、それにスリッパの水玉模様一式装備は欠かす事の出来ない品物だった。それなのに……。
きっと昨夜もオレがちゃんと眠れているか心配して、寝室まで確認に来てくれた姉上が間違えて履いて帰ったに違い無い。
だが、そんな事より今は召喚儀式を中断させる事の方が重要で、そんな些末な事に拘っていられる場合では無いと頭では理解している。
そして儀式の間を目指し、王宮の壁にある『廊下は静かに歩きましょう』の貼り紙をガン無視して走り抜けると……。
「あ、姉上!!」
荘厳な造りの重厚な扉を一気に押し開けて部屋の中へと飛び込むと、そこでは既に床に描かれた大きな魔法陣の上から天へと向かう光の柱が立ち登っており、その光が徐々に人の形へと集約されて行く様が見えた。
「お、遅かったか!?」
今回、召喚されたのは男子3名と女子2名の計5名の高校生たちだった。
なぜそれが判るのかと言えば彼と彼女が高校の制服と思しきブレザーを着ていたからで、更に言えば……なぜそれが学生服だと知っているかと言う事になるのだが、それは【前世の記憶】と言うユニークなスキルをオレが持ってるからだったりする。
何を隠そうこのオレの前世は、彼らがやって来た向こうの世界で生きていたらしく、魔法が無い代わりに機械文明が発達した現代社会で生きていた記憶を持っていた。
だが、オレの場合は彼らのように召喚されて来たのでは無く、おそらく前世で事故死でもして、この異世界へと転生して来たのだと思う。
だが子供の頃からこちらの異世界で育ったおかげで、この世界での常識やマナーなんかも身につけており、そうと知らなければオレが【前世の記憶】を持つ元異世界人だなんて誰も気がつかないだろう。
「ようこそいらっしゃいました、現代世界の勇者様たち!」
まだ相手がどのような輩であるかも判らないが、せっかく来てくれた客人たちに向けて、満面の笑みを浮かべながら召喚者である姉上が歓迎の挨拶をする。
以前に召喚された勇者たちが自分たちの世界の事を『現代社会ガー!』と言っていたのが始まりで、それ以降こちらの異世界では彼らが居た世界を『現代世界』と呼ぶようになったそうだ。
それと、こう言っては何だが、姉上は身内のオレから見ても容姿端麗で見目麗しい金髪碧眼の美女で、スタイルも抜群なだけでは無く聖女の資格を持つ完璧ウーマン……なのだが、何故か勇者召喚にはひとかたならぬ想いを拗らせており、オレが何度も勇者召喚を止めるようにお願いをしているにも関わらず、女王陛下や貴族ども、それに教会勢力から支持を取り付ているのを理由に儀式の廃止を聞き入れてくれない。
我が女王国の法律では女王陛下の長女である姉上の方がオレより王位継承権が上位であり、国内の貴族どもから邪魔者的な扱いをされているオレの発言力はそれほど大きくないのが実情だ。
それどころかオレ直属の近衛隊以外に命令権は無く、王宮内では姉上の支持者が圧倒的多数派を占められており、王子たるこのオレが存在してる事すら知らない国民まで居るから困ったものだ。
そんな中、姉上からこの世界が魔王軍によって侵略され、人族の生活圏が日に日に脅かされていると説明された勇者どもが自分の力で何とかすると言ってくれるが、大抵の場合は姉上の容姿に惑わされたからだと考えて間違い無い。
その証拠に魔王を討伐した暁には姉上を娶って王族の一員となれると知った勇者どもが、姉上の身体を上から下まで舐め回すようにガン見して興奮してるのが判る。
それは王族の誰かと一緒にさせてでも、勇者と言う強大な戦力が他国へと流出するのを防ぐ為の措置であり、ある意味仕方が無い事なのかも知れないが……。
「あの〜、もし私が魔王さんを倒しちゃったらぁ~、あそこに居るイケメンさんとお付き合い出来るという事で宜しいでしょうかぁ〜?」
一人の女子高生がオレを指して何か言ってるが、それを聞いた姉上の表情が冷ややかに固まる。
「そ、それはどうでしょうか。我が国の他の王族や貴族の男性たちは皆がイケメン揃いですから、もっと色々な方も見てから決められてはいかがですか?」
すると先程の女子高生も「それもそうかぁ〜」と思い直し、何やら考え始めた様子にひと安心する。
オレとて王族の一員なのだから、国家の危機を救ってくれた英雄に生涯を捧げるのも吝かでは無いが、毎回この話題になった時に姉上の笑顔が途轍もなく冷たいモノに変わるのは何故なのだろうか?
姉上とてオレと同じ王族なのだから自由な恋愛など許される事など無いと判ってるはずなのに、彼女が戦うしか取り柄の無い勇者どものモノになると思えば心臓を鷲掴みにされるような気分になるのは、せめてお互いの相手が分別のある誰かであれば良いな等と淡い希望を抱いてるからだろう。
こうして我が国へ召喚された勇者たちを、このまま見ず知らずの土地へすぐに放り出す訳にもいかないので、最低限の常識や社会情勢などの他にも魔法に関する知識や剣術などの戦闘訓練を施した上で派遣する事になるのだが、その前に壮行パレードの準備や彼らが行く先々の国への根回し、それに冒険者ギルドへの支援申し込み等の雑務に追われる事となる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そして翌日になり、今年の第18期に召喚された5名の勇者どもについて、彼らと彼女らのヒアリングが終わり最低限の報告がオレの元へともたらされた。
以下がその内容だ。
・剣聖の草薙健児くん
・聖騎士の田中二千翔くん
・賢者の早稲田一郎くん
・召喚士の綿平優奈さん
・治癒士の来栖桃香さん
この異世界で生まれた者は10歳になれば所轄の教会へと赴いて『成人の儀』を受ける事によって女神様から【ギフト】を授けられるのだが、召喚の儀によって異世界からやって来た勇者どもには、こちらの世界へ来る時に、とても強力なレアスキルを授かるとされている。
オレが『成人の儀』に授かったスキルは【前世の記憶】と言って、これまでに類を見ないユニークなスキルだったらしいのだが、最初のうちこそ珍しがられたけど実際にその効果を検証してみると特に何かの役に立つようなモノではないと判断された。
そりゃそうだろ?
いくらこのオレの前世が異世界の高校生だったとしても、この世界には既にその異世界から召喚された勇者どもがウジャウジャ居やがるから、オレが【前世の記憶】を元に何か発明しようと思い立ったところで、そのほとんどが過去の勇者どもの手によって既にこの異世界に存在しているからな……。
それはオセロを始めとした玩具や、馬車の車軸に付けるサスペンションの他、水洗トイレを始めとした様々な便利製品がもう既に出回っていて、それらが一般市民でも手に入れられるほどの価格で普及してるのだから、もう今さらこのオレが何かを作ろうとしても既にその発展型が存在しており全くヤル気が起きないのだ。
かと言って……ま、これは長くなりそうだから、今は勇者どもの話に戻そう。
前世の記憶と今世の経験を元に説明すると、異世界から来たヤツらの様々な能力が数値化されており、それをステータスと呼んでいる。
そして勇者どもは異世界から渡って来る時、各種ステータスに女神様からボーナス値が加算されると言うのが一般的な認識だ。
また、勇者召喚に関する研究を進めている学者の1人は、彼らの居た世界がこちらの異世界より上位世界だと考え、重力やその他の生存条件がこちらより厳しく、その為に身体能力とか構造強度が高いのが原因だと言う仮説を唱えているが、本当のところは良く判っていない。
それと何故かこちらの異世界へ来る時に言葉が理解出来るようになったり、本人しか使えないユニークスキルを授かったりする事を、こちらの異世界では【女神の祝福】と呼んでいる。
そして、この【女神の祝福】を授かった異世界人をこちらの世界では【勇者】と呼んでるから、一言で【勇者】と言っても剣や槍が得意だったり、魔法が得意だったり、錬金術のように何かを作り出す事が得意だったりと、様々な能力を持つ勇者どもが存在する。
オレの場合はたまたま【前世の記憶】なんてヘンテコなスキルを授かってしまい、異世界の文化や技術を思い出しただけで、特に異世界から召喚された訳でも無いから勇者たちのような【女神の祝福】を授かってはいない。
なので、例え今は王族の一人として生を受けたとは言っても、身体能力的にはこちらの人族の範疇に収まってる。
それに、一時期はこのハズレだと断定されたスキルのせいで王族から追放されそうになったくらいだから、今のオレの王国内での立場を想像する事など容易いだろう。
また話が逸れてしまったが、この忌々しい【前世の記憶】スキルのおかげで異世界勇者どもの文化や考え方を理解出来るようになったので、今ではそれほどハズレだとは考えていないし、それにオレの過去の記憶には他の人には言え無いような秘密もあったのだが、それについては追々話す事にしよう。
この国に召喚された勇者どもは、王城内にある騎士団の訓練場で各種の戦闘教練と魔法に関する実技教習を行うと共に、この異世界での価値観や常識などについても研修を行ってから魔王討伐隊として送り出す事になっており、彼らには騎士団と教会から付き添いの者たちも同行して旅の便宜を図る手筈となっている。
幸いな事に【女神の祝福】によって言語スキルを最初から持ってる勇者どもと言葉だけは通じるのだが、それでも生まれ育った文化やモラルの違いから来る、思い違いや誤解だけはどうしようも無く、それが元で様々なトラブルが頻発して困っているのが我が国の実情だ。




