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84話 嘆きのアルフ

 その夜、アルフは一人酒場にいた。庶民向けの店で、彼はその隅のテーブル席でビールを飲んでいた。勿論、浮かない顔で。


 彼は今、どん底にいた。バスタルド一の勇者と呼ばれながらオカヤマの一魔族に手こずり、金吾の動きには割り込まれるまで全く気づかない。……そして、愛する女性を失った。


 民衆の羨望によって築かれた自信は崩れ、主人に祝福された愛は他人に奪われてしまう。現実が自分を傷つけてくることは少なくないが、伸び盛りのこの若人わこうどには心底(こた)えるものがあった。


「はぁ~……」


 溜め息を漏らす。もう何度目か。愚痴を言いたいが、それを聞いてくれる相手もいない。酔いたいのに酔うことすら出来なかった。


 誰でもいい。話を聞いてくれ。アルフはそう願いながら苦いビールをすすっていた。


 すると、その願いが叶う。


「お? アルフじゃないか」


 突然、声を掛けられた。聞き覚えのある声で、アルフもつい顔を向けてしまう。だが、その相手というのは……、


「き、金吾!?」


 金吾である。更にユリエドとリアスターの二人も連れていた。


「こんなところで会うなんて奇遇だな。一人か? 寂しい奴だな~。よし、一緒に飲んでやるよ」


 勝手に同席され、勝手に店員を呼び出し、勝手に注文。


「ビール三つ。あとソーセージと塩漬けサーモンね」


「あ、スパイシーチキンある? それ山盛りで」


 更にリアスターも追加を注文した。


「アンタ、それ好きだよねー」


「食わなきゃ損だぞ。何せ、人間が生み出した最も偉大な発明だからな」


 ユリエドに呆れられるも嬉しそう答える目隠し男。そういえば一人足りない。ユリエドが金吾に訊く。


「そういえばウィニフェットは?」


「演劇の土産に貰った台本を熟読したいとかで来なかったぞ」


「アイツは演劇が好物かー。魔族それぞれだよねー」


「ユリエドだって演劇に付いてきたじゃないか」


「あれはただ暇だったから。あの宮殿にずっと引き篭もっているなんて無理無理。けどまぁ、演劇自体は悪くなかったけどね。リアスターは何で付いてきたの?」


「俺はあるじに土産を頼まれてるからさー。機会があれば外に出て探さないと。手ぶらで帰ったら殺されちまう」


「あー、ラーダマーヤか」


 人間文化に好意的な者を選んだだけあって、同行魔族たちはこの街を素直に受け入れていた。また五大老にも訪問の成果を伝えるため、それぞれの部下であるこの二人を連れてきたのだが、それも正解だったと金吾は満足した。


 上機嫌に駄弁だべる三人。そして、何故か元々いたのに蚊帳かやそとにされているアルフ。


「おい」


 彼が堪らず声を掛けると、金吾が手を出して待ったをかける。丁度ビールが運ばれてきたのだ。


「よし、まず乾杯からいこう。かんぱ~~~い!」


 そして、アルフは金吾のその音頭につい乗ってしまい、四人で乾杯をしたのだった。


 ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク、ゴク……。


「ぷはぁ~~~~~~~~~。堪らん。やっぱり酒よ。正に命の水だな」


 給水完了。やっと口を出せる雰囲気になったので、アルフはいぶかしみながら質問する。


「小早川金吾。お前、何でここにいる? 他の二人も魔族か?」


「何でって酒を飲みに来たんだよ」


「まさか、宿舎から勝手に出てきたのか!?」


「俺はこの街を楽しみに来たんだ。篭ってられるか」


 勿論、宮殿には警護の兵がいるが、金吾たちからすればその目を盗むのは容易いことだった。


 次いで、今度は金吾が問う。


「次は俺からの質問。何やら落ち込んでいたようだけど、どうした?」


「か、関係ないだろう」


「昨日のことを公爵に叱られたか?」


「うるせえ」


「若しくはラナのことか?」


「うっ!」


 若いアルフは図星だとばかりについ顔に出してしまった。金吾は呆れる。


「なーんだ、女のことか。フラれたぐらいで気にするな。女なんていくらでもいるだろう。お前は勇者なんだから選り取り見取りなんじゃないのか?」


「なーんだ、じゃない! 彼女とは公爵が認めてくれた間柄だったんだ。没落貴族の末裔の俺は庶民とほとんど変わらない。それが帝国の名家ヒョーデル家の令嬢と結ばれるはずだったんだ!」


「つまり、上流階級に仲間入りしたかったと?」


「違う! 俺は彼女を……ラナを愛していた。人生の伴侶に相応しい人だったんだ。……ラナは? 彼女はどうしてる?」


「宮殿にいるよ。今頃、ルドラーンとイチャついてるんじゃない?」


 ユリエドが余計なことを付け加えて答えると、アルフの顔は強張った。


「い、イチャつくって……。ど、ど、ど、どういう……」


「そりゃ交尾じゃない?」


「交尾!?」


 交尾という生々しい単語の登場に、健全な青少年は瞠目。堪らず同じ人間である金吾にすがる。


「う、嘘だよな? ラナが魔族とそんな破廉恥なことをしているなんて……」


「う、うーん……。俺もルドラーンには性欲なんてなさそうに見えたけど」


 一応、彼も同意する。だが、ユリエドは違った。


「でも、やろうとすれば出来るでしょう。アイツ、手を刃に変えていたのよね? あれ、魔族が人間に擬態するのと同じ要領なのよ。だから性器も出せるでしょう」


「へー。まぁ、人間ってのは愛情表現のために同衾どうきんする生き物だからな」


「しかも、魔族との交尾は人間とする以上に快楽を得られるんだって。人間の女が魔族の味を知っちゃったらもう戻れないだろうね。まぁ、魔族は人間より優れてるから仕方ないよね」


 彼女はビールを飲みながら愉快そうに言った。そして、顔を青ざめさせたアルフにトドメの一言。


「信じて送り出した許婚が魔族に寝取られるなんて、かわいそ~♪」


 爆笑。序にリアスターまで「かわうそ~♪」と悪ノリして煽る始末だ。


 アルフは顔を真っ赤にさせ、肩を震わせた。そして、二人の魔族を怒りの形相で睨みつけると………………伏して泣いた。


 それを見た二人は更に大爆笑。


「悪魔だ! 人がこんなに悲しんでいるのに笑うなんて、やっぱり魔族は悪魔だぁ!」


 若き勇者は魔族の凶悪さを改めて思い知ったのであった。


 ただ、唯一笑わなかった金吾だけが慰めてくれる。


「気を取り直せよ。ラナにこだわる必要はないだろう」


「うう……!」


「俺だって最近(めと)ったばかりだけど、別に好きだから縁組したんじゃないぞ。そういうもんだって」


「うう……うう……!」


「そもそもの話さ、ラナはお前のことが好きだったのか?」


「うう……。……え?」


 アルフ、呆け顔を上げる。


「ラナとしては祖父が決めたことだから仕方なく婚約してたんじゃないのか?」


「え? そ、そんな……。え?」


 アルフ、これまでのラナとの思い出を思い返す。婚約からの彼女とのやり取りは、ごく普通のものだった。普通に話したり、普通に食事したり、普通にパーティーで踊ったり……。彼女は常におしとやかに振る舞っており、どちらかと言うとアルフの方ががっついている感じがあった。明らかに温度さがあった。アルフはそんなお淑やかな彼女を流石名家の淑女しゅくじょと納得していたのだが、よくよく考えてみると……。


「ラナの方は最初から冷めてたんだよ」


 金吾がそうハッキリと言うと、アルフからもまた熱が抜けていった。真っ赤だった顔は白くなり、怒気も抜けていく。そして、震わせていた肩もガックリと落とし放心した。


「辛いか? そういうときは飲んで忘れるのが一番だ。こっちのテーブル、ビール追加!」


 こうなれば、金吾の言う通り酒に溺れるしかない。アルフは金吾に肩を叩かれながら追加注文した酒を飲み、飲み、飲み、飲みまくった。徹底的に飲み、徹底的に酔う。


 その飲みっぷりにユリエドたちも歓声を上げるのだった。


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