82話 帝都の娯楽
翌日、ミッドラン宮殿にバールの迎えの馬車がやってきた。約束通り演劇を観せてくれるというのだ。その手際の良さに金吾は大喜び。ただ、バールの方は戸惑いを隠せなかった。玄関に現れたのが金吾だけではなかったから。
「こちらの方々もご一緒に?」
他に三人の魔族がいたのだ。金吾が紹介する。
「ああ、紹介しよう。ユリエド、リアスター、そしてウィニフェットだ」
更に三人のうちの一人、オカヤマの劇場『ルオン座』の役者、山羊顔の魔族ウィニフェットを指して言う。
「演劇はこのウィニフェットの要望でね。オカヤマが誇る名優だ。人間界の演劇や芸術に触れたいがために使節団に参加したんだよ」
「人間界、特にバスタルドには素晴らしい演目、演者が星の数ほどいると聞き及んでいます。後学のためにも、その名演技を是非この目に焼き付けておきたいのです」
ウィニフェットもまた丁寧に答えた。魔族からそうベタ褒めされれば、バールも悪い気にはならない。
「おお、そういうことですか。それならば、私としても是非ご覧になって頂きたいところです。……ただ、魔族の方々はどうしても目立つので。こちらのレディはともかく、お二方は……」
やはり目を引く姿は問題だ。ユリエドは既に人間体だが、残りの二人は魔族のままである。ただ、そんなことは金吾も百も承知。
「いや、ご心配なく。この者らは姿を変えられるのです」
そして彼が合図を送ると、あら不思議。ウィニフェットは忽ち人間の美男子へと変わっていく。バールもその変わりように「おお」と感嘆してしまった。
次いで、大きな目の魔族リアスターも、二枚目とはいかないが壮年の男へと変化した。
ただ……、
「げっ!」
金吾もバールもその姿にギョッと引いてしまう。シルエットは普通の男性なのだが、目玉だけが異様に大きかったのだ。ホラー。まるで妖怪である。
「気持ち悪い……。リアスター、お前、その目ん玉を小さくしろ」
「いや、これが精一杯で。でも、ちゃんと人間ぽいだろう?」
「元の姿より怖いわ! お前は連れていかん」
「えっ!? じ、じゃあ目を隠すから。それでいいだろう?」
リアスターは渋々バンダナを取り出すと、目ごと頭に巻いた。完全な目隠し状態であるが、彼の視力なら難なく見えるよう。
「うーん、まぁ、いいだろう。バール殿、如何か?」
「……いいでしょう。ただ、事情を知らない周囲には貴方方のことを人間国家の外交官と説明していますので、そのように振舞って頂けますか?」
「了承した。さぁ、出発しようではないか」
一先ず解決。娯楽を愛する金吾はまるで子供のように馬車に乗り込むのであった。
アルステイムの街中を行く貴族用の箱馬車。目立たないために、護衛は前後の騎馬六頭のみだ。その箱の中から、オカヤマの面々が街の様子を伺っていた。
「うわ~。オカヤマも凄い人の数だと思ってたけど、ここはそれとは比べ物にならないわね」
ユリエド、感心。
「建物もどれも先鋭的なデザインだ。これらと比べると、オカヤマの街は何と地味で野暮ったいのだろう」
ウィニフェットも感心。
「お? あの男、随分洒落た帽子を被っているな。人間界じゃ、ああいうものが流行っているのか」
リアスターまで感心。人間文化に好意的な者を選んできただけあって、素直に楽しんでいるよう。
片や、金吾はウィニフェットに感心していた。
「しかし、お前は化けるのが上手いな。ユリエドもリアスターも耳が長いままだったり目玉がでかいままだったり完璧とはいかないのに」
「それは私の性のお陰でしょう」
「ああ、『演戯の性』だからな。演じることが得意ってことは、即ち化けることも得意ってことか」
やがて目的地に着く。
そこはオカヤマのルオン座とは比べ物にならないほど巨大で豪華な屋内劇場。中に入れば、それまただだっ広い観客席があり、豪華な装飾が施された舞台が待っていた。
自然と綻ぶ金吾の頬。日ノ本では味わえない、太閤秀吉も味わったことのない、そんな未知の感動に彼の心は大きく跳ねていた。
「ここは皇族の方々もよく来られるアルステイム一の劇場です。今回は皆様だけの貸切。ご存分に楽しんで頂けるかと」
「うむ」
「さぁ、ご着席を。間もなく開演です」
バールに促され、四人は楽しいひと時を迎える。




