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81話 勇者の実力③

 そこに新たな見物人たちがやってくる。


「おいおい、楽しそうなことをしてるな~」


 ガッシュテッドら他の同行魔族たちだ。宮殿内にいるよう言いつけられていたが、戦闘音に呼び寄せられたのだろう。


「ルドラーン、人間なんぞに負けたら恥ずかしくてオカヤマに帰れないぞ!」


 ガッシュテッドの野次で他の魔族たちが笑い出す。向こうの応援団の登場で、アルフ側の高官たちの威勢は一気に縮み上がった。


 それでもアルフは動じず、ルドラーンだけを注視していた。剣を構え、相手の攻めに備える。……ただ、ルドラーンもまた動かず。対峙し続けるだけ。


 また防御に専念か? と、アルフが攻勢を選ぼうとした時だった。彼が飛び掛ろうと踏ん張ったのと同時に、ルドラーンの刃が襲い掛かる。


 刃だけだ。刃だけが急激に伸びてアルフを串刺しにしようとしてきたのだ。不意を衝かれてすんでのところで躱すも、続けてもう一本が伸びてくる。アルフは何とかこれも剣で受けてしのいだ。だが、それで収まらない。二本の刃たちは伸び縮みを高速で繰り返し、何度も刺突を試みてくる。


 ルドラーンの攻撃。それは自身は動かず、両手の刃だけを伸縮させて攻め立てるというもの。距離は三十メートル近く離れていたが、彼の両手の刃は難なくアルフに届いていた。


「くぅ! 魔族らしい卑怯な攻撃だ」


 今度はアルフが防戦一方。距離を詰めたくても刃の嵐で前進もままならない。堪らず飛び上がって頭上から攻めようとしたが、それは愚策。自由落下に身を任せねばならない故に、刃の嵐をモロに食らって撃墜されてしまった。


 そこに駄目押し。ルドラーンは一旦刃を元の五本指の手に戻すと、その指先をアルフに向けた。それが伸びる!


 二本の刃から、今度は両手十本の指から成る針に……。鋭い殺意が相手を襲う。


「うぐぅ!」


 剣で受けながら必死に耐えるアルフ。ルドラーンの刃は以前と比べ細くなったが、その分見辛く凌ぐのが難しい。何より数が多過ぎる。全てを防ぐことは敵わない。徐々に服を斬られ、皮膚を裂かれていった。このままではジリ貧である。


 ならば、体力を失う前に賭けに出るしかない。アルフは剣に魔力を込め、再び刀身を輝かせると、伸びてきた十本の針を一度に全てし折った。そして、再生が済む前に一気に距離を詰める。


 全速前進。身を晒しながら最短距離で突っ込むそれは苦し紛れの危険な戦法である。


 一方、ルドラーンも敢えて受けて立つことを選んだ。彼は右手を針ではなく分厚い斧に変化させる。こいつも砕いてみせろと言わんばかりに。


 そして、間合いに入った両者は必殺の一撃を放つ。


 金吾が「それまで」と声を掛けるも二人の闘争心には届かず。殺意に満ちた二つの刃がそれぞれの獲物へと襲い掛かった。


 衝突!


 大激突!


 その衝撃で二人の足元が凹んで土埃つちぼこりが舞い上がり、更に発生した風圧が見物人たちを襲った。


 次いで、恐ろしいほどの静寂が場を包む。それは決着が付いたことを察せさせるもの。どちらかが立ち、どちらかが伏しているだろう。


 しばらくすると土煙が晴れていった。


 立っていたのは………………アルフ! その光景に高官たちは喜びの声を上げた。……だが、次いでルドラーンまで立っているのに気づくとラナも声を上げる。


 そして、その二人の間に金吾まで立っていると、両者は驚いてしまった。彼はアルフとルドラーン、二人の刃を手を掴んで止めていたのだ。指で成した片手での白刃取りである。


 声が届かねば実力で止めるまで。金吾が割り込んだことに、ここにいる誰一人気づいていなかった。


「それまで」


 次いで、彼が今度こそ耳に届くようハッキリと命じると、二人もやっと刃を収めるのだった。


「もう十分だろう。これ以上やったら、この美しい宮殿を壊しかねない」


「部下の命が惜しかったんだろう?」


 邪魔をされたアルフは堪らず嫌味を言った。それを金吾は笑って認める。


「ルドラーンを失うことはオカヤマの損失であり、お前を死なせれば和平派から恨まれる。どちらが死んでも俺にとって不都合だ」


「……」


「アルフ、これ以上公爵の顔に泥を塗るな」


 そう指摘されたアルフは、やっとストロイベンがいることに気づく。そしてその険しい表情を見れば、彼も自省せざるを得なかった。


 そこにラナが心配しながら駆け寄ってきた。……ルドラーンへ。


「大丈夫? 怪我はない? 手が砕かれていたけど」


「この通りだ。問題ない」


 元通りになった右手を動かすルドラーンと、それを見て安堵するラナ。そして、その様子をただただ見つめるアルフ……。自分のことなど眼中にない許婚を見て、彼は呆然としてしまった。


 やがて二人がそのまま行ってしまうと、アルフの呆然は落胆、いや絶望へと変わる。そんな彼に、金吾がニヤニヤしながら肩を叩いて一言。


「試合は引き分けだったが、勝負は負けのようだな」


 非情な現実。若人わこうどにとって失恋は敗北より重かった。


 それはそうと、金吾には和平派側に言っていないことがあった。ストロイベンとバールの元へ行く。


「ご迷惑をお掛けしたな」


「なに、余興だ」


 ストロイベンの謝罪に金吾は笑って答える。次いでこう言った。


「ところで、実は皇帝との面会の他にもう一つお願いしたいことがありましてな。この帝都を観光したいのです」


「観光?」


「美術品を観覧し、名所を巡ってみたいのだ。特に演劇を観てみたい。天下の大国の舞台はさぞや素晴らしいものでしょうな」


「お気持ちは分かるが……」


 バールが心苦しそうに答えようとしたが、金吾はそれを遮ってこう続ける。


「バスタルドの素晴らしさをオカヤマに伝える。それは今回の訪問の目的の一つである。会談だけならわざわざここまで来ることはない」


 和平派としては、オカヤマ使節団の存在はひた隠しにしたい。それは民衆に不安をあおるということとは別に、継戦派を刺激したくないというのもあったからだ。勿論、金吾もそれを察しているので先の会談では口にしなかった。だが、不意にその機会が訪れたのだ。つまり、アルフの暴走である。


 ストロイベンも今回の件の埋め合わせをしなければならないことは分かっていた。


「分かった。機会を作ろう」


 決闘を受け入れた目論見は大成功となった。


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