80話 勇者の実力②
勇者と魔族の決闘。異変に気づいたストロイベンとバールがやってきたが、彼らが来てももう避けられない。
両者は同時に斬り掛かった。
初手は鍔迫り合い。互いの剣が互いの剣を押し合う。三メートル超えの巨体であるルドラーンが、身長百八十センチのアルフを押し倒そうとする形になった。
その差はまるで大人と小児。結果は一目瞭然。見物人となった高官たちは、そう感じながら悲痛な表情を晒してしまう。
されど耐える。潰れない。アルフは体格差をものともせずにルドラーンと対等に押し合っていた。
金吾も感心していたが、一方でアルフの剣に注目がいく。
「あの剣、派手だな。鍔のところが輝いている」
アルフの剣の鍔中央が青く輝いていたのだ。ラナが説明する。
「あれはクリスタリアよ」
「クリスタリア……? そういえば人間はそれで魔力を増強させる道具を作っているとか」
以前、ヴァルサルドルムのお使いでクリスタリアを取りに行ったことがあったが、その際ユリエドから軽く教えてもらっていた。
「それを人間は『魔道具』、特に武具は『魔装具』と呼んでいるわ。クリスタリアは所持している人間の魔力を増強したり、魔力を溜め込んだりする性質があるの。あの剣のクリスタリアもアルフの魔力を増強させ、その斬れ味と頑丈さを増している。また、左手のグローブのクリスタリアはアルフの身体能力を向上させている」
彼女の言葉通り、アルフは徐々に押し返し始めた。次いで、膠着を打開するように打ち合いに入る。
金属の打音が鳴り響き、空気の裂く音が聞こえる。火花も散った。躱しもせず敢えて打ち合っているのは、根比べを望んでいるからか。
そして、それに関してはルドラーンに軍配が上がる。彼は瞬時に左手も刃にして、アルフの首に斬り掛かった。
突然の二刀流に虚を衝かれたアルフだったが、咄嗟にバク転して回避。一旦、距離を置いた。
「魔族らしい戦法だが、そんなもの俺には通じない」
されど怯みはない。アルフは一跳躍で相手に迫ると、頭上から斬り掛かった。しかし、単調な攻撃だったため、ルドラーンに刃で簡単に受けられ弾き飛ばされてしまう。尤も、この攻撃の真骨頂はこれからだ。
弾き飛ばされたアルフは、すかさずまた斬り掛かる。
また弾かれるも、また斬り掛かる。
また弾かれるも、また斬り掛かる。
また弾かれるも、また斬り掛かる……。
それを何度も何度も繰り返した。前後、上下、左右、あらゆるところから攻め立てる。それを成しているのは彼の豹のような素早さだ。魔術によって俊敏さを極限まで上げた彼は、魔族の動体視力でもやっと追える速度で四方八方から斬り掛かっていたのである。
ラナや高官たちなど一般人には速過ぎて何が起きているのか分からず。金吾だけがそれは楽しそうに眺めていた。
ただ、この攻勢はまたもや膠着状態を生み出していた。アルフは激しい攻めを見せていたが、ルドラーンは丁寧に的確に防いでいる。焦らず、反撃も考えず、『護りの性』らしい対処をしていた。このままでは息切れするのはアルフの方だ。
やがて攻撃も単調になり、ルドラーンもそのことに気づく。
だが、それは罠だった。いつものようにその一撃を右刃で受けようとした時、アルフの刀身が激しく輝く。
そして……、
「っ!?」
ルドラーンの右刃を粉々に砕いた。アルフの刀身が輝いたのは魔力を注力し威力を上げたため。アルフはまず片刃を奪うのが目的だったのだ。次いで、がら空きになったルドラーンの脇腹を全力で蹴り飛ばす。魔力で強化された彼の蹴りは、魔族の巨体を彼方へと飛ばしてみせた。
更にアルフが左の掌を地面に伏すルドラーンへ向けると、そこから魔術の光弾を三発発射。追い討ちの攻撃が大爆発を起こさせる。
膠着からの一転攻勢。勇者の称号は伊達ではない。
「おおおおおおおおお!」
初めはアルフを引かせようとしていた高官たちも、自分たちの勇者が活躍すればやはり歓声を上げてしまう。
「流石、バスタルド一の勇者!」
「アルフがいれば我が国は安泰だ!」
人間界での魔族被害は主に辺境で起こり、国家の中枢にいる彼らは勇者の戦いも魔族自体を見たのも今日が初めて。そして今回直にそれを目にして、彼らの勇者への信頼は確かなものになったのだ。
但し、アルフ自身はそこまで楽観的にはなっていない。今の攻撃に手応えを感じていなかったからだ。
事実、彼の視線の先ではルドラーンが煙の中から立ち上がっていた。砕かれた右刃も魔族の再生能力で元通りにさせている。
「成る程。勇者と名乗るだけあって並の魔族なら討てるかもな」
アルフの実力を認める。だが、ルドラーンの実力もまた並ではない。オカヤマ征伐では、ラナを護りながら数に勝るブラウノメラの軍勢を撃退せしめていたのだ。




