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8話 人間国家セルメイル王国

 セルメイル王国。人間界にある国家の一つで、嘗てはバスタルドと双璧を成す大国であった。しかし、今はその頃の面影もない小国と化し、人間界の片隅でひっそりと生き長らえている。


 だが、それでも歴史ある国家としての矜持は失われていない。王都ラムレドにある王城の会議室では、今日も国王エルゼン・ロッシュモンドが国難と向き合っていた。


「『……これら三つの協定が叶えば、両国はより一層強固な関係となり、共に素晴らしい発展と栄華を迎えることになるであろう。セルメイル王の良き返事が聞けることを信じている。バスタルド帝国皇帝ガルバール・アサルティン』。……以上となります」


 この会議にて家臣の一人が読み上げていたのはバスタルドからの書簡。それにはセルメイルへの三つの要請が書かれていた。


 対魔連合への兵の供出。


 両国における在外公館の設置。


 バスタルド皇子とセルメイル王女による婚姻同盟の締結。


 傍から見れば公平と思える内容。だが、国王エルゼンは険しい面でこう断言する。


「要請と言うより要求だろう。我が国を従属させるための一歩だ。対魔連合は提唱したバスタルドが盟主になろう。否応なく従わされる。在外公館の設置は我が国に間諜の侵入をみすみす許すことになる。婚姻同盟の締結は我が王女を嫁がせるもの。人質にする肚だ。到底受け入れられん」


 それにはこの場にいる家臣たちの誰もが同意。されど、必ずしも賛同の声が上がるわけではなかった。祖父の代から仕える老臣のメルタニー公爵が進言する。


「しかし、断れば彼の国との摩擦はより大きくなりましょう。魔族の衰退が始まって以降、人間界ではバスタルドが興盛こうせいし、今日に至るまで勢力を拡大させています。片や、我がセルメイルは争いに敗れ続け、多くの領土を喪失。今では魔界と接するこの辺境の地にまで追いやられてしまいました。これ以上はもう後がありません。バスタルドともう一戦すれば、それは亡国の戦争となりましょう」


「拒否すれば開戦か?」


「すぐにそうはなりませぬが、対魔連合の結成によってバスタルドが他国を取り込めば、彼の国がすることに横槍を入れられる国はいなくなるでしょう」


 次いで賢臣の一人、マゼルバ伯爵も進言。


「更に、悪い噂が一つ。バスタルドが異界から勇者を召喚したというものです。今のところ確かな情報とは言えませんが、対魔連合の結成に合わせた行動と思われます」


 三十代半ばという首脳部では若い方の彼であったが、エルゼンとは学友として共に育った間柄である。エルゼンも彼のことは信頼していた。


「対魔連合の旗印。そして我々人間国家への脅しか。従わなければ、魔王すら討つ勇者を差し向けると……」


「バスタルドの此度こたびの政策は本腰を入れています。勇者を擁した対魔連合にて魔族を完全に滅ぼし、その武力と威光で他の人間国家を完全に服従させる。皇帝ガルバールは本気で完全なる天下統一を目論んでいます。甘い態度は望めません」


 それが本当ならばセルメイルに残された選択肢は二つしかない。


「服従か、滅亡か……。どちらにしろ、もって十年というところか。四百年前までは魔族の脅威に怯えていたというのに、今では同じ人間に滅ぼされようとしているとはな。……無常なものだ」


 初代以来の名君と呼ばれたエルゼンであったが、彼をもってしてもこの情勢は手に負えなかった。時代は彼に活躍の場を与えてくれないのか。


 会議室を包む陰鬱いんうつな空気。しかも、悪いことは立て続けに起こるもの。一人の侍従が慌てながら部屋に入ってくると、マゼルバに凶報を耳打ちした。そのあまりの内容に、マゼルバは包み隠さず主君に伝えることにする。


「陛下、緊急事態です。魔族の襲来を確認しました」


 ただ、エルゼンの方は顔色を変えず。魔界に接した国ではよくあることだから。


「最近は魔族が国境を侵すことも増えてきたな。至急、救援部隊を向かわせろ」


 尤も、次の問いの返事を聞くまでは……。


「マゼルバ、因みにどこの村が襲われた?」


「……ここです」


お読み頂き、誠にありがとうございます。


ブクマや↓の☆☆☆☆☆の評価を頂けましたら大変嬉しく存じます。


今後ともよろしくお願い致します。

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