78話 バスタルド交渉②
バスタルドの政情を覆す。
金吾の告白には、冷静なストロイベンも驚きを隠せないでいた。彼はしばらく考え込むと大きく息を吐いて答えた。
「成る程。短期間で魔界を統一しオカヤマという国家を樹立しただけのことはある。貴公は恐ろしく聡明だ。メルベッセはとんでもないものを生み出してしまったようだな」
次いで、同じく本音を明かす。
「貴公の言う通り、今のバスタルドは反オカヤマが主流だ。貴族や庶民の多くがオカヤマへの復讐を願っている」
カラフが「公爵っ!」と発言を止めさせようとしたが、ストロイベンは手で払い構わず続ける。
「オカヤマ征伐での敗北は覇権国家としての立場を揺るがしたのもその通りだ。事実、数ヶ国が我が国から離反しようとしている。それを防ぐためにも第二次オカヤマ征伐を早急に行うべきと説く者も少なくない」
「ふむ」
「以前はメルベッセ派と反メルベッセ派の二派閥だったが、オカヤマ征伐でメルベッセが死んだ後は、反メルベッセ一色となった。だが、私がオカヤマとの同盟を主張すると、従っていた貴族たちは離反。そこに元メルベッセ派たちが合流し、継戦派を形成して巨大な勢力になっていった。我々、和平派は劣勢と言わざるを得ない」
「非主流でありながら、皇女を嫁がせ同盟まで申し込んできたのか? 大丈夫なのか?」
「それは問題ない。我々の行動は陛下から承認を得ているのだ。陛下はオカヤマとの共存の道を選ばれた」
「成る程な。人数対大儀か……。そして継戦派に同盟を認めさせるために、バスタルド優位の要求を出したわけか」
「そうだ。同盟を成すにはそれしかない。オカヤマとの同盟がバスタルドに有益と分かれば、いずれ和平派が主流となる。そちらにとっても悪くないはずだ」
理には適っていた。バスタルドとの正式な交易は莫大な利潤を生み出すだろう。この街に魅入られた金吾にとって、それは優先事項ともなっていた。
しかし、絶対ではない。
「いや、継戦派の顔色を伺っての交易では安定した利益は得られない。お断りする」
「……」
「逆に、和平派を主流にしてからでなければ同盟も難しい」
金吾はストロイベンが最も嫌がる返答をした。案の定、彼の表情は険しくなり、高官たちと話し込む。
次いで、質問する。
「先程、バスタルドの主導権を和平派に握らせるためにやってきたと仰ったな。では、他に方法はあるのか?」
「流石にそちらの内情を詳しくまでは把握していないので、具体的なものは用意していない。ただ、効果的な方法はある」
「何か?」
「武力」
その言葉にバスタルド側は息を呑んだ。そんな彼らに金吾は気迫を込めて言い放つ。
「オカヤマの最大の武器は『力』だ。魔界を統一し、五人の魔王を配下においたオカヤマにはもう敵はいない。人間界最強のバスタルドとて抗うことは出来まい。圧倒的に蹂躙し、一方的に皆殺せる。この帝都を一瞬で更地に出来るのだ」
「っ」
「……という話を継戦派に流せば、彼らも態度を軟化させるかもしれないぞ?」
そして一転、笑顔でそう締めると、高官たちも引きつっていた顔を無理やり苦笑させるしかなかった。
勿論、その脅しは継戦派だけに向けたのではない。バスタルド側で笑わなかったのはストロイベンともう一人いた。そのもう一人が……、
「本性を現したな、魔族どもめ!」
と、席を立ちながら吼えた。
「公爵、ご覧の通りです。魔族と盟を結ぶなど自ら首を差し出すようなもの。このような獣のども、俺が討ち払ってみせます!」
末席の若い男である。二十歳に届かないぐらいか。そんな若輩だから、このような場でそんな言葉を吐いてしまったのだろう。金吾も呆れてしまう。
「暴力を振るうというのか?」
「暴力をチラつかせたのは貴様の方だろう!」
彼は剥き出しにした敵意を金吾へ向けた。次いで、ラナには善意を。
「ラナ様もそんなところに座っておられず、こちらに来て下さい!」
「アルフ……」
その請いに、彼女は気まずい表情を見せるしかなかった。
「落ち着け、アルフ」
そしてストロイベンが彼を制止し、一先ず場を収めた。
「小早川殿、失礼した。彼はアルフ・ランブレート。バスタルド一の勇者です」
「勇者?」
猛々しいわけだと金吾も納得。ただ、彼がいたら話し合いも進まないだろう。それはストロイベンも承知していた。
「一回目の会談だ。互いの意思確認が出来れば十分だろう」
「同意だ。今日はここまでにしよう」
双方とも顔合わせ程度で済ますつもりだった。ただ、金吾は最後に一つ要望を。
「公爵」
「ん?」
「皇帝との面会を願いたい」
「それは……難しいだろうな」




