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72話 魔界の長老のアドバイス

「突然の訪問にもかかわらず、ご対応頂き感謝します」


 その後、自らその者の元へと赴いた金吾は、快く会ってくれた彼に感謝の礼をする。


「なに、時間ならいくらでもある。関白殿」


 一方、相手も笑みで応対してくれた。


 その相手とはヴァルサルドルムである。名実ともに魔界のナンバー2になった金吾も、彼にだけは敬意をもって接していた。


 場所はヴァルサルドルム邸の応接間。洋風のしつらえで、引き渡時は新築同様の殺風景な部屋だったが、今では家具などの調度品が備え付けられている。人間の屋敷とほとんど変わらない様相だ。


「ほう、いい設えですな。ご自身で?」


「少しはな。だが、ほとんどは彼らにやってもらった」


 ヴァルサルドルムがそう答えながら向けた視線の先には、茶を持ってやってくる使用人。彼は粛々と二人に茶を出すと一礼をして去っていった。


 金吾はつい訊いてしまう。


「人間ですな?」


「この街で雇い入れた者たちだ。魔族の下で働くということで初めは彼らも配下たちも戸惑っていたが、今は問題なくやっている。人間たちとしても、移住者が増えているので仕事を選りすぐっているわけにもいかないのだろう」


「いい傾向だ。臥龍公がりょうこうのお人柄のお陰ですな」


「『臥龍公』か……。巷では儂のことをそう呼ぶ者が増えてきたが、貴公の差し金か?」


「貴方を魔王と呼べなくなったものの、その名を呼ぶことをはばかる者も多い。臥龍とは、某の世界の言葉で天にも昇る力をもちながら伏している龍のこと。正に、貴方に相応しい名だろう?」


「ふふ……」


「しかし、街には人手が溢れているが、国家を担える者はいない。魔族に限れば尚更だ。今思えば、あのブラウノメラこそが某に必要な人材だった。魔族でありながらバスタルドの宰相を務める才能。正にオカヤマに必要な男。殺したのは惜しかったかな」


「だが、奴の性では素直に従うまい。貴公が奴を討って武威を示したのは必要なことだった」


「その通りだ……」


 そろそろ本題に入る。


「さて、関白殿。雑談をしに来たのではなかろう」


「先日、バスタルドから和平の使節が来訪しました。その要望の一つに、某をバスタルドに招くというものがあります。今、オカヤマを離れるのは危険だ。しかし、バスタルドを見ておきたい気持ちもある。貴方ならどうされる?」


「行くべきだろう」


 ヴァルサルドルムは即答した。しかもルドラーンたちと正反対の意見である。そのあまりの即答ぶりで金吾が返事に困っていると、彼から理由を教えてくれる。


「貴公が今、最も求めているものは何か?」


「国を担う者」


「では、それはどうやって手に入れるべきだと思う?」


「それは……」


 若者が答えに窮すると、老人は笑ってヒントを与える。


「ふふ……。今さっき、自身で言ったではないか」


「……あっ!」


 金吾もようやく察した。それは考えうる最も早く手に入れる方法である。そして、ヴァルサルドルムにはそのための情報もあった。


「儂の方で少なからず目星はつけておいた。それを携えるが宜しい。あとは貴公の手腕次第」


「貴方の物事を見通す力、千里眼せんりがんには感謝に堪えません。願わくば、某が留守の間ファルティスとオカヤマを宜しくお頼み申します」


「任せられよ。それが五大老の役目であり、儂の性でもあるからな」


 その言葉は金吾に自信と安堵を与えてくれる。


 彼にとってこの長老を得たことこそ、魔界統一の最大の恩恵だったことであろう。




 一方その頃、ティエリアはセルメイル公館に訪れていた。


 卓に着いた彼女は出された茶にも手をつけず、対面のセルメイル公使マゼルバに昨夜の件を訴えている。


「金吾がバスタルドの皇女をめとるなんて……。全くありえないでしょう!」


「バスタルドがオカヤマに対して接触を試みていたのは聞いていましたが、まさか婚姻同盟を企んでいたとは……。あれほど敵対していたのに一気に講和政策に転換するとは驚きです」


「勿論、セルメイルとしては反対よね?」


「そうですね……。しかし、こちらが口出し出来ることではありません」


「何でよ!? これまで両国が共同してバスタルドに立ち向かっていたのよ。なのに、片方が勝手に敵と手を結ぶなんて、それは裏切りじゃない!」


「オカヤマの外交に我が国が口を挟む約定はありませんし、裏切りでもありません。各国が自国の利益のために立ち回るのは当たり前のことで、出来れば我が国もバスタルドと講和をしたいぐらいです」


「ウチも!? バスタルドは討ち滅ぼすべき敵でしょう!?」


「バスタルドとの戦争は我が国を疲弊させるだけです。やらないで済むに越したことはない」


「けれど、セルメイルの民が殺されているのよ? 恨みはないの?」


「戦争がなくなれば民も喜びます。国家を担う者は大局的に物事を見なければなりません。恨みを晴らすためだけに争い続ければ、得られるのは更なる苦しみだけです。何ら利益はありません」


「……お父様も同じ考え?」


「陛下も和平を望んでおられます」


 その返答に、ティエリアは梯子はしごを外された気分だった。大人たちも頼れなければ、どうすればいいのか……。


 但し、マゼルバはこうも言った。


「ただ、その婚姻同盟を黙って見過ごすわけにもいきますまい」


「え?」


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