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7話 娯楽がない!?

「魔族統一に人間側との和平……か」


 金吾はファルティスとルドラーンを傍らに、城の天守の廻縁まわりえんから領地を見回しながら言った。


「ルドラーン、お前らはそれで納得したか?」


「はみ出し者だからな。他に行く当てがない以上、ファルティスの方針に従うさ。勇者であるお前が加わるとなれば、多少現実味も帯びてくるしな。但し、和平を結びつつも性を満たせるというのが絶対条件だ」


 魔族は欲望に忠実な生き物だが、その結果滅んでしまっては元も子もない。今は自分たちの居場所の確保が最優先なのは理解している。


「兵はどのくらいいるんだ?」


「私の傘下の魔族は大体五十ぐらいでしょうか」


 ファルティスが答えると、金吾は自分たちの予想外の弱さに唖然。いや、日ノ本と同じと尺度で考えるわけにはいかないだろう。念のためにもう一度問う。


「それは多いのか?」


「隣の魔王ブラウノメラの下には、少なくとも一千はいると聞く」


 ルドラーンが答えると、金吾は自分たちの予想通りの弱さに唖然。駄目元でもう一度問う。


「もしや、七つの魔王勢力の中で最弱?」


「圧倒的にな」 


 金吾、閉口。だが、黙るのはお手を上げを意味する。引き受けた以上、大船に乗った気持ちにさせたい。彼は必死に言葉を出す。


「……遣り甲斐はありそうだ」


「あー、良かったー。喜んでくれて。もしかして投げ出すんじゃないかと思ってたの」


 その皮肉の言葉に、ファルティスは素直に喜んだ。金吾はそれに突っ込んだら負けだとばかりに陶器の酒瓶で口を塞ぐ……も、何とそれも切らしてしまう。村から調達してきた最後の物だったのに。実に間が悪い。しかし、安心。ここにも酒があるはずだ。


「ファルティス、酒だ。酒をくれ」


「はい」


 彼女の指示で部下の魔族が酒樽を持ってきた。……ただ、かなり年季が入っている酒樽である。中身を覗いてみれば……赤い。赤い酒だ。というより、赤くなった酒?


「これ……何の酒だ?」


「さぁ?」


「さぁ?」


「このお城の地下で見つけた酒ですから」


「……ってことは、五百年前の酒か!?」


 流石の金吾もこれには手を付けられなかった。


「やっぱり、こんなところ来るんじゃなかった……」


 次々と付きつけられる障害の数々……。金吾も一筋縄ではいかないだろうとは思っていたが、これは唐入りより困難そうである。兎にも角にも、まずは力をつけなければ何も出来ないか。


「とにかく、人を増やさないと始まらないな。……しかし、この土地じゃあなぁ」


 改めて眼前の領地を見回す金吾。山間部にあるとはいえ、平地はそこそこある。だが、かなり荒れていて使い物にならない。


「これじゃ作物も取れんぞ」


「まぁ、魔族は食事はあまりしないですしね」


 金吾のぼやきにファルティスが答えた。


「え? 食べないのか?」


「食事を必要とする魔族は半分ぐらいですね。私も食べようと思えば食べますけど、食べなくても特に問題はないです。ルドラーンに至っては、口がありませんし」


 そう言われて、金吾はついその甲冑の魔族を見上げてしまった。


「それじゃ、料理とかもしないのか?」


「しません。人間のような文化がないので」


「文化がない? ……なら、その服は?」


 ファルティスの格好を指す。日ノ本文化とは随分掛け離れているが、彼からしても煌びやかで品位を感じさせるドレス姿である。そもそも、ファルティスは魔族と称しながらほとんど人間と変わらぬ姿だ。


「魔族の姿は多種多様ですからね。牛に似ていたり、馬に似ていたり……。私のこの服も、実は身体の一部なんですよ。神経は通っていないので、毛のようなものと思ってもらえれば。魔族の中には人に化けられる者もいるんです」


「……脱げるのか?」


「ええ、まぁ……」


「脱いでみろ」


「嫌です」


 ファルティスは即答した。


 まぁ、それはともかく、文化がないのは金吾にとって由々しき問題だった。彼は幼い頃から華奢きゃしゃな生活を送ってきた生粋の遊び人である。娯楽がない世界など考えられなかった。


「なら、舞……踊りは?」


「しません」


「碁や蹴鞠……双六すごろくは?」


「しません」


「祭りとか」


「しません」


「せっ……」


「しません!」


 ……。


 娯楽がない。本当に娯楽がないというのだ。日ノ本の百姓だって祭りで踊ったり相撲を取ったりして人生を豊かにしているのに……。これでは牢獄と変わりない。金吾は絶望し、「やっぱり人間側に付こうかな……」と後悔すらし始めてしまった。


 娯楽がない……。


 娯楽がないとは……。


 娯楽がないなんて……。


 娯楽が……。


 ……。


 ……。


 ……。


 娯楽がないのなら……。


「作ればいい!」


 彼のその発想は実に明解な解決策であった。ただ、その意を解しているのは金吾だけで、ファルティスらは怪訝けげん顔を晒すばかり。


「しかし、私たちにそのようなものは……」


「なに、作れる者を呼べばいいのだ。簡単だろう?」


「?」


「とにかく、まずはお前たちがどこまで俺に従えるか見てみないことにはな。ファルティス、配下を集めろ。戦の準備だ」


 ウキウキと戦支度を命じるところは、流石戦国大名か。


 そして国作りに心躍らせているところは、流石天下人の息子か。



 こうして、小早川金吾の天下布武が今始まる。


お読み頂き、誠にありがとうございます。


ブクマや↓の☆☆☆☆☆の評価を頂けましたら大変嬉しく存じます。


今後ともよろしくお願い致します。

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