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69話 嫁候補たちの茶会

 一方、この城には金吾とは逆にいつも暇そうにしている人物がいた。


 陽の暖かい白昼の奥の間。セルメイル王女ティエリアは、この日も自室から庭を眺めていた。ボーっと……。


「はぁ……」


 更に溜め息まで漏らす始末。侍女のユリエラが機嫌(うかが)いをする。


「何かつまらなそうですね」


「うん? うん、そうね……。つまらないわね」


「最近、金吾様とお会いになっていませんしね」


「何で金吾が出てくるのよ!? ただ、まぁ……。アイツとはしばらく会ってないわね」


「お忙しかったですしね。政務に励んだり、各地を駆け回ったり……。でも、それも落ち着いてきたので、そろそろ訪ねてこられるんじゃないですか?」


「どうだか……?」


「でしたら、街に出掛けて気分転換でも如何ですか?」


 ティエリアは人質とはいえ、街中までなら自由に出られる。人も増えてきたので娯楽も増えているはずだ。されど、頷かず。


 このお姫様は、近頃不機嫌顔を晒してばかりだった。だが、そこに別の侍女から「ティエリア様、お客様です」と知らされると、一転、顔をパーッと明るくさせる。しかし……、


「こんにちは、ティエリア」


 その客がファルティスだと分かると、また一転、顔を暗くさせた。ユリエラの「魔王陛下に無礼ですよ」という叱責で、渋々歓迎の挨拶をする。


 テーブルに就き、茶をたしなむ二人の淑女。


「美味しい。人間の文化って素晴らしいわね」


 セルメイルから届いた極上品の紅茶の味は、魔王の心を安らがせた。片や、王女の方は口を付ける前に、ここずっと気になっていること質問してしまう。


「で、金吾って最近どうしてるの?」


「え? ……いや、私も全然会ってなくて」


「そっちも? 何か冷たいよね」


「忙しいから仕方ないよ」


「けど、冷たい」


 理屈は分かるも我慢は出来ない。ティエリアは不貞腐ふてくされた顔で手元にあったスプーンを軽くを振った。ただ、恋しい気持ち自体はファルティスにもある。


「金吾が好きなら我慢しなきゃ」


「だからこそじゃん……。あ、べ、べ、別に好きってわけじゃないわよ!」


 彼女のたしなめで、その不貞腐れた顔は真っ赤になった。しかし、その気持ちはファルティスも同じだ。彼女が大人しく受け入れているのは、何百年と生きてきた経験と彼のことを本当に想う心からだろう。尤も、それも自分の性が我慢出来ているうちだけだが。


 されど、若いティエリアにはそんな忍耐はなかった。


「あー、何かムカつく。こっちから会いに行ってやる」


「ダメダメ。仕事中なんだから。今も人間界からの使節と会ってるらしいし」


「人間界からの? セルメイルからかな?」


 すると、そこに再び来客が……。侍女がニコニコしながら連れてきたのは七、八歳ほどの可愛らしい美少年だ。その登場に女性陣たちもつい頬をほころばせてしまう。


「あ、いらっしゃい。マルタ」


 ティエリアが笑顔で歓迎した彼の名はマルタ。最近、金吾の近習を務めるようになった小姓である。そして魔族だ。その証拠に、頭と尻に狸のような耳と尻尾が生えている。


「こんにちは、ファルティス様、ティエリア様!」


 返事も子供らしいハキハキした元気なもの。それがより愛嬌を良くさせる。


「お菓子食べる?」


「食べます!」


 そして席に加わり、尻尾を振りながらクッキーを食べる姿を見せれば、ティエリアも「か~わい~?」と、その獣耳頭を撫でてしまった。


「特にこの耳がいいよね~。チャームポイントってやつ?」


「あまり言わないで下さい。上手く化けられなくて気にしてるんです。いつか完璧な人間になってみせますから」


「絶対このままの方がいいよ! ホント、可愛い。食べちゃいたい」


「えっ!? 人間は魔族を食べるんですか!? 嫌です! 食べないで下さい!」


 この若い魔族には、それが人間の戯言ざれごとかどうかなんて分かりはしなかった。


 それはそうと、マルタも遊びに来たのではないだろう。ファルティスが問う。


「それはそうと、マルタも遊びに来たのではないのでしょう?」


「あ、そうだった。ティエリア様、今晩金吾様がお伺いしたいとのことだったので予定を空けといて欲しいとのことです」


「今晩? まぁ、いいけど。何の用?」


「そこまでは……。大事な話とか」


「どうせ酌をさせたいだけでしょう。そういえば、使節が来てたんでしょう? どこからの?」


「魔族のボクにはさっぱり……」


「用件は?」


「魔族のボクにはさっぱり……」


 分からないことだらけ。つい「その場にいたんでしょう!」と、怒りたくなったティエリアだったが、可愛らしい困った表情をされれば許さざるを得ず。


 ただ、彼にだって分かることはある。


「覚えていることと言えば……、金吾様が『嫁取り』と言っていたことかな?」


「ええっ!?」


 怒りから一変、驚きに転じるティエリア。驚愕のあまりつい立ち上がってしまった彼女に、ファルティスが質問する。


「嫁取りって?」


「結婚よ」


「ああ、聞いたことはある。人間にとって重要なことなんだっけ?」


「夫婦になることよ。愛し合う男女が一生を添い遂げる誓いをするの……。女性にとって最も幸せなことね」


「愛し合う……」


 そして、ティエリアはマルタのその一言から、今夜の来訪理由を導いてしまう。


「そう、そういうことね……。金吾、今夜私に結婚を申し込むつもりなんだ。最近顔を出さなかったくせに面の皮が厚いこと」


 そう呆れたティエリアだったが、満更でもなさそうな表情でもある。否、その内心は大喜びしていた。


 ただ、ファルティスが慌てて異見する。


「ちょ、ちょっと待って。金吾が結婚するとしたら私じゃない? 金吾にとって最も大事な女性は魔王である私でしょう?」


「えっ? いや、まぁ……。けれど、人間と魔族の結婚なんておかしいでしょう? 金吾は人間なんだから人間が相手じゃないと」


「そんなことないよ! そういう垣根をなくすのが、オカヤマの人魔共存政策なんだから!」


「そ、そういうこともあるかもしれないけど、やっぱり私じゃないかな?」


「いえ、私です!」


「いや、私よ!」


 忽ちいがみ合う乙女たち。二人の間にいたマルタは、こうなった経緯がまるで理解出来ず目を丸くしていた。そんな子供にティエリアが裁定を求める。


「マルタはどう思う? 金吾に相応しいのはやっぱり私でしょう?」


「え?」


「いえいえ、私よね?」


「えっ!?」


 続いて魔王にまで詰め寄られると、彼は顔を引きつらせてしまった。そして、恐々とティエリアに問い返す。


「あ、あの……。結婚とやらの対象相手になるのは、どういう条件なんですか?」


「それは勿論、愛しているかどうかでしょう」


「愛しているってどうやって判断するんですか?」


「そりゃ……。よく会っているとか」


「成る程。じゃあ、金吾様が一番会っている女性というのならラナ様ではないでしょうか?」


「「えっ!?」」


 その的を射た答えは、ティエリアとファルティスから言葉を失わせてしまった。そして、二人はしばらく見つめ合うと……、


「い、いや、ラナはほら、あくまで仕事だから。ねー?」


「う、うん、金吾とも仕方なく会ってるのよ。ねー?」


 いがみ合いから一変、仲良しに……。


 尤も、乙女たちがここでいくら言い合おうが、答えなど見つかるわけもない。


 それが判明するのは、やはり今夜である。


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