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68話 とある使節団の来訪

 魔界統一。それは即ち、魔界に安寧がもたらされたということ。その報は人間たちを更にオカヤマへ誘うことになり、街を日に日に栄えさせていった。


 だからか、魔界から敵対勢力がなっても金吾の忙しさは依然変わりはしない。この日もルドラーン、ラナの側近二人と語らって新しい法令を作る予定である。


 オカヤマ城・御座の間に先に来ていた金吾は、ふと己の腹を擦ってみた。あの決闘で重傷を負っていたのだが、翌日には傷は塞がり、一週間後の今では完全に消え失せている。勿論、肩もだ。驚異的な回復力に、金吾本人も驚いている。


 そこにラナがルドラーンと共にやってきた。


「どうしました?」


「いや、何でもない」


 尤も、困ることではないので特に気にはしなかったが。


 早速、今回の用件に入る。


「『変化令へんげれい』?」


「ああ、魔族が人間に化けることを推奨する法令だ。魔族の街とはいえ、その巨体はこの街で生活する上で色々と不都合だ。人間文化を存分に味わうためにも人間の大きさの方が適しているだろう。例えば、オカヤマで流通している貨幣は人間界から入ってきたものだから、魔族には小さ過ぎて扱い辛い。彼らからしたら米粒みたいなものだからな。建物にしても、魔族の大きさで作る必要性も低くなるわけだ。それに小さくなれば人間側も接し易くなるだろう」


「ああ、確かにね」


 金吾の説明にラナは納得。されどルドラーンはそれが難しいことを知っている。


「だが、それを受け入れられる魔族は多くはないだろう。人間に化けると本来の力を発揮し辛くなる。魔界では常に殺し合いだったため、化けることは命を危険に晒すことにもなっていたからな。オカヤマでは私闘は厳禁とはいえ、身に染みたスタイルを変えるのは中々出来まい。それに魔族にも得手不得手えてふえてがあって、皆が皆化けられるわけではない」


「分かっている。だから、あくまで推奨なのだ。罰則はない。角が生えっ放しでもいいし、目が四つでもいい。肌が青かったり赤かったりしても構わん。何なら、姿そのまま小さくなってくれればいい。要は人間の大きさになればいいのだ。寧ろ、そっくり過ぎると本物の人間と区別出来なくなって困るぐらいだな。また、五大老たちが率先して人間に化けているから、嫌悪感を得ている者たちもいずれならうようになるだろう」


「成る程な。強制でないのなら俺も賛成だ」


「人間体の方が文化を堪能出来ると分かれば、自然と広まっていくことだろう。ラナ、この草案そうあんを元に奉行衆と協議の上、整えろ。俺はそろそろ例の使節団との面会だ。以上」


 そして、金吾はラナに草案書を渡すとさっさと行ってしまった。彼女が「そんな仕事したくない」と文句を言う隙すら与えず。


「はぁ~。私、軍人なのに……」


 頭を垂れながら溜め息を吐くラナ。ルドラーンも助力してやりたかったが、門外漢である。


「手伝ってやりたいのは山々だが……」


「大丈夫、何とかやるよ。けど、やっぱり人材難は深刻よね」


「うむ。今は移民から登用しているが、その中から国政を担える人材を見つけるのは至難だろう。魔族の俺でも分かる」


「やっぱり、他国の貴族とかそれなりの立場の人でないとノウハウはもってないからね。けれど、金吾はそれを嫌がっている。セルメイルなどの他国の官史を引き入れると、その国からの干渉を受けかねないから」


「しかし、魔族に政治を覚えさせるには手間も時間も掛かる。魔族が急激に増えた以上、人材は早急に必要なはずだ」


「金吾も妥協せざるを得ないか。それとも何か案でも……」


 オカヤマ運営が失敗すれば魔族たちに娯楽を与えることが出来なくなり、彼らの反発を招くことになる。つまり、魔族たちの従属の破綻、魔界統一の崩壊へと繋がるのだ。


 前途洋々のように見られたオカヤマは、未だ問題ばかりだったのである。




 オカヤマ城・松の間。金吾はここでとある国の使節団の来訪を受けていた。人間国家の脅威は元魔王たちと比べるべくもないが、人間界との交流があってこそのオカヤマである。決して無碍に出来る相手ではなく、寧ろ単純な魔族より厄介と言えた。だから、渡された書状にも神妙な面持ちで目を通している。


 そしてそれを終えると、彼は使者たちに微笑みを見せた。


「成る程、こちらも誼を結ぶのはやぶさかではない。一つ目の申し出、受け入れよう」


「感謝致します」


 同じく笑みを返すのは初老の正使カラフ伯爵。畳部屋故、このような場では初めての床座だった彼だが堂々としており、その豪奢ごうしゃな装束は魔族の猛々しさとは違った国家の威信を感じさせるものだ。ただ、だからとて金吾が譲歩することはない。


「されど、二つ目のセルメイルとの断交については拒否する」


「セルメイルとの関係を絶ち、我が国と交易をすれば、これまでを遥かに凌ぐ利潤を得られますぞ」


「貴国との交易は受け入れる。だが、それを理由にセルメイルと縁を切ることはない。貴国ともセルメイルとも国交を結ぶ。それがこちらの唯一の返答だ」


「……」


「それが受け入れられなければ拒否する」


「本国と相談させて頂きます」


「そして最後の三つ目だが、これは即答しかねる。熟慮する故、しばらくオカヤマに滞在するといい」


「承知致しました。それと書簡にはありませんが、一つご提案を」


「うん?」


「この街は急速に拡大しているようで。もし官史が不足しているようでしたら、こちらで都合することも出来ます。我が国は歴史ある大国であり、国家運営にも長けております故、ご希望が叶う者をご用意出来ましょう」


「……」


「如何か?」


「……オカヤマの人事は計画通りに進んでいる。気遣いに感謝する」


「承知致しました。それでは良きご返事をお待ちしております。関白閣下」


「閣下ではなく殿下だ」


 そして会談が終わると、カラフたちは厳粛なまま立ち去った。尤も、それは城を出るまでのこと。


 城門を潜ったカラフは振り返って城を見ると、さげすむ眼差しでこうぼやいた。


「やれやれ、床座させられるとはな。魔族の国らしい野蛮な連中だ」


 それは豪奢な格好に相応しい傲慢な性根であった。


 片や同じ頃、松の間の金吾はというと……、


「やれやれ、土足で上がろうとするとはな。南蛮人らしい野蛮な連中だ」


 同じことをぼやいていた。傍に控えていた小姓の魔族に酒を注がせて、一息吐いている。


 魔界統一で少しはゆっくり出来ると思っていたのだが、人間の流入はもとより、魔族も大量にオカヤマ入りしたせいでその監督で大忙し。そこに使節団の到来で、仕事が更に増える始末。金吾も参っていた。


 そして、酒を飲み干すとこう一言漏らした。


「嫁取りか……」


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