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60話 スパイシーチキン

 オカヤマ城から去る三人の使者。その様子を天守の廻縁まわりえんから見送っていた金吾は、後ろに控えるルドラーンに言う。


「お前の言う通りのようだな」


「ガイゼルバッハは魔界一の野心家。魔王の座を諦めることはありえない。攻撃的で、誰にも屈しず。最強の魔族ヴァルサルドルムとも何度も争っていたほどだ。そんな性格だから、配下も好戦的な武闘派ばかり。オカヤマが圧倒的有利な現状をもってしても大人しく従わせるのは難しいだろう」


「ちょっと揺さぶってみたらあの苛立ちぶりだ。確かに血気盛んな奴らばかりで、社会性に欠けているな。この街には相応しくない」


 金吾の先ほどの傲慢ごうまんさは相手を試すためのものだった。しかし、冷静さを求められる使者であれなのだから、ガイゼルバッハ一味の血の気の多さは問題である。オカヤマに入れれば揉め事の種になりかねない。


「それでも短慮な奴らばかりではない。ガイゼルバッハは確かに好戦的だが、忍耐もあり頭も使う。だから、表向きは臣従を受け入れたのだろう」


「頭を下げてくる以上、こちらから攻めることは出来ないからな。そして、奴を受け入れれば獅子身中しししんちゅうむしにもなりかねん。頭が痛い」


「それでも受け入れると?」


「ファルティスを唯一の魔王にする。それは絶対だからな。しばらくは様子見だ。俺もやることが多いからな」


 魔王たちの臣従でオカヤマ在住の魔族は一気に増え、魔界統一式典も迫っている。オカヤマ側が優勢とはいえ、今はガイゼルバッハに構っている余裕はなかったのだ。


 内に不穏分子を迎えながら国家を治め、社稷しゃしょくを守る。至難である。それでも金吾には自信があった。何故なら、手本を見てきたから。


「まぁ、やってみせるさ。我が養父、太閤秀吉も一癖も二癖もある戦国大名たちの手綱を見事に締めてみせていた。覇者の道程は知っている」


 彼は覇者の息子なのだ。




 そして、その不穏分子たちはというと、早速不穏なことをしていた。


 路地裏にある一軒の飯屋。サルベイダ、マベッシュ、シルンシの三人はそこでラーダマーヤの腹心リアスターとテーブルを囲っていた。というより、彼を訪ねたらここに案内されたのである。人間文化の真っ只中に連れてこられて、サルベイダたちも呆気に取られていた。


「ガイゼルバッハも恭順したとは目出度い。これで魔界も安泰だな」


 片や、リアスターはニコニコしながら歓待している。好戦的で孤独を好む魔族とは思えぬ社交ぶりに、それにもまた呆気に取られてしまった。


 そこに女給である若い人間の女性が料理を持ってくる。彼が注文した好物のスパイシーチキンの山盛りだ。


「リアスターさん、今日も来てくれたんですか?」


「いや~、ここのチキンは格別に美味くてなー。もうハマってハマって困ってるんだよ~」


「ありがとうございます。ウチの料理人は腕がいいですから。あとこれ、サービスのふかしイモ。いつも来てくれているお礼です」


「おお、ありがとう」


 人間が魔族を恐れないどころか、談笑までしている。これにも当然呆気に取られる。


「さぁ、食ってくれ。美味いぞ~。長旅の疲れをいやすといい」


 そして、リアスターは美味そうに食い始めた。


 サルベイダはマベッシュと一旦見合わせると、ついリアスターに苦言を呈してしまう。


「人間と馴れ合うなど正気とは思えん」


「まぁ、最初はそう思うよな。だが、このオカヤマは魅力に溢れている。ある者は人間の食事に舌包みし、ある者は人間との賭け事にハマっている。またある者は人間の女を抱くために毎夜遊郭に出掛けてもいる。オカヤマ側から金銭を支給されているが、それでも足りなければ働きに出ているほどだ。この街は俺たちの性を満たしてくれる」


「だが、この街を作ったのは人間の勇者だぞ? 我々の天敵だ。それをどうとも思わんのか?」


「金吾か。俺はアイツとの伝手を作ったお陰で主ラーダマーヤの覚えがめでたくなり、今では腹心にまで取り立てられている。感謝しかないよ」


「その人間の配下となってもか?」


「気にしないな。性さえ満たせれば。それは我が主も同じ考えのようだ」


「ならば、このオカヤマを乗っ取り、己の物にすればいいだろう。欲しければ奪う。それが魔族というものだ」


「オカヤマは金吾あってこそだ。魔族だけで営むことなど出来んよ」


「貴様らは魔族の矜持きょうじを失っている」


「俺の性は矜持を守ることではないからな」


 サルベイダがいくら責めようとも、リアスターは揺れることなく食事を味わっていた。


 そして、その顔は人を殺したり犯したりと魔族が己の性を堪能している時の顔そのものだった。至福を感じている。それでは何を言っても通じぬか。


 唯一、シルンシだけが勧められるがままスパイシーチキンを食べていたが、それに苛立ったマベッシュが取り上げる始末。


 結局、これ以上の話は無駄だとばかりにサルベイダたちは店を後するのだった。


 退店後、マベッシュは早速サルベイダにぼやく。


「あれが魔族の姿か? あまりの腑抜ふぬけぶりだ」


「この街は……思っていた以上に幻が蔓延しているようだな。ラーダマーヤは駄目だ。となれば、ヴァルサルドルムか……」


「上手くいくのか? 最も敵対していた相手だ」


「やるしかあるまい。奴とて最強の魔族だ。矜持は保っていよう」


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