57話 若輩魔王の嫉妬
すっかり人間文化に惚れ込んだラーダマーヤは、その日のうちに金吾と共に出立。彼女のオカヤマ入りは、金吾の帰還に同行する形で行われた。二度目の魔王入りということで、住民たちも警戒心が薄れ、大通りには以前より多くの人だかりが出来ている。
そして、ラーダマーヤもまたその好奇心に見事応えてみせていた。
大通りを進む魔族の行列。その中でも特に注目を浴びていたのは、ラーダマーヤが乗車する四頭立ての屋根無しの豪華な馬車。金吾がオカヤマ側に用意させたもので、民衆に彼女を見せつけるための演出であった。その効果は抜群で、人間の男のみならず女までもがその美貌に魅入られ、感嘆の声が上げていた。尤も、彼の狙いは逆にある。
「人間どもめ。何という眼差しで妾を見るのじゃ。これほど心地の良い羨望は初めてよ」
ラーダマーヤもまた己の美貌を讃えるその眼差しに快感を覚えていたのだ。馬車に同乗している金吾も得意気に答える。
「どうだ? 力が全ての魔界では決して味わえないだろう」
「成る程のう。主の話に乗って正解だったかもしれぬ。しかし、真に驚くべきは魔族を恐れぬ人間を生み出したことよ。主はどういう魔法を使ったのじゃ?」
「お前の時と同じよ。人間の欲深い性を満たしてやったんだ」
その後、ラーダマーヤはオカヤマ城に入城。玉座の間にてファルティスに謁見した。
金吾、ルドラーン、ラナを侍らせたファルティスは、ヴァルサルドルムの時と同じように威厳を保ちつつも相手を立てながら感謝を示す。
「ラーダマーヤ、貴女の決断に心から感謝致します。これでまた一歩、魔界に平穏が近づきました。魔族とオカヤマの末長い繁栄のためには貴女の力は必要不可欠。どうか、ヴァルサルドルムと共に私を支えて下さい」
両脇に人間と魔族を侍らせた玉座の若き魔王……。それは、これまでの魔界ではあり得ない奇怪な光景である。ラーダマーヤは堪らずほくそ笑んでしまった。
「人間と魔族を従えた若輩の魔王か。実に奇怪じゃな……。ファルティスよ。主に、妾やヴァルサルドルムを従える器はあるのか?」
「貴女たちに認められるよう努力します」
「嘘でも虚勢を張ったらどうじゃ? 主も魔族なら、それらが望んでいるものも知っていよう」
「魔族は力が全て。魔王には絶対的な力を求められている……。しかし、私自身にそれがないのは分かっています。虚勢を張っていても、いずれそんなものは崩れ落ちる。ならば、初めから本来の自分を示し、それを理解してもらうべきだと思っています」
「魔族たちがそれで納得するか?」
「させます」
ファルティスはキッパリと宣言した。それにラーダマーヤは一笑。ただ、嘲笑ではない。感心からだ。
「全く、驚かされてばかりじゃ。この街にも、この魔王にも……。そして、それらを生み出した主にもな。金吾」
そして、彼女はその仕掛け人である金吾に寄ると……、
「のう、金吾。やはり、妾のところに来い」
再び、愛おしそうに彼の首に両腕を回し抱きついた。その光景を間近で見せられたファルティスは「なぁ!?」と驚き声を上げてしまう。
「たっぷり愛でてやるし、望むものは何だってやる。こんな小娘より妾の方がずっといいじゃろう?」
更に、ラーダマーヤが彼に頬擦りまですると、その驚愕は憤怒へと変わった。穏やかだった目には殺気が宿り、思わず玉座の肘掛を握り潰してしまう。傍にいたラナは、つい小さな悲鳴を上げさせてしまった。
尤も、それこそがラーダマーヤが求めていたものだ。
「フフフ……。ファルティス、少しは魔王らしい目つきになったのう」
「っ!」
「そういう魔族らしさを見せてくれれば、こちらも魔王として奉じ易いというものじゃ」
「ムムム……」
虚を衝かれて威勢を削がれてしまった若輩魔王。自分でも今の感情が己の性によるものだと分かっていた。
気に食わないというだけで殺意を露にしたファルティスは、間違いなく魔族たちの王である。




