55話 砂男の奇策
第二戦目、開始。サースティンガーの四本の巨大ハサミが金吾に襲い掛かる。
倍の質量に、倍の手数。それを刀無しで凌がなければならない。金吾は受けるのを諦め、回避に集中した。
避け、避け、避け、避け、避け続ける。試しに避けざまにハサミへ拳を放つも、案の定硬い外殻に跳ね返された。
やはり頭部を狙うしかない。金吾、今度はそのハサミを足場にしてサースティンガーの頭へ飛び掛った。だが、それも防がれる。足場にしたハサミ以外の三本が咄嗟に進路を塞いできたのだ。一本目をまた足場にするも、二本目が挟み込もうとしてきてその回避に専念。そこに駄目押しの三本目が襲い掛かってくれば、彼も攻めを諦めて元いた大地に避難するしかなかった。
「畜生の癖に賢いじゃないか」
策を講じるしかない。されど、手ぶらで何が出来るというのか。金吾は険しい面で逃げ続ける。
殺人的な日射の中、灼熱の砂漠を駆ける素っ裸の男。普通の人間なら既に干乾びているところだが、そこは勇者、堪えていない。ただ、ずぶ濡れだった身体からは水蒸気が上がっていたが……。
「こうも暑いと手拭いいらずだな。……うん?」
そのことが彼に策を閃かせた。背中にべったり付いた砂を見て、実行の決意もする。
一斉に襲い掛かるサースティンガーの四本のハサミ。硬く鋭い刃が獲物へと向かう。
対する金吾は逃げも隠れもしない。ただ、迫るその刃を睨み続けるだけ。その奇怪な行動に白狐も目を見開いた。
そして激突。
次いで衝突音。
けたたましい音と共に、砂埃が大量に舞い上がった。
呆気ない決着……。
あの勢いだ。獲物も砂に埋まってしまったかもしれないと、サースティンガーは顔を地面に近づけて丁寧に地面を探し始めた。全てを見通していた白狐に見守られながら。
……。
やがて、予想通りに見つけた。
というより、やっと気づいたのだ。
探すまでもない。金吾はさっきから目の前に仰向けに横になっていたのだ。ずぶ濡れだったことを利用して、全身砂塗れの砂人間となって目の前の砂と同化していたのである。
一メートルの距離で見つめ合う金吾とサースティンガーの単眼。これで、金吾も目当ての単眼の目の前に来れたというわけだ。
金吾はほくそ笑みながら堪らず問うてしまう。
「どうだ? 砂の中に隠れるのをやり返された気分は」
だが、答えを聞く前に彼はその単眼を掴んだ。
そして、力任せに引き抜く!
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
響き渡る怪物の悲鳴。長い胴体を激しくのたうち回し、悶絶している。それに巻き込まれまいと、金吾はとっととその場から避難。
苦しんでいるサースティンガーを背に、勝利の証である単眼を掲げたのであった。
「相手の得意技で相手を打ち倒す。これほど気分のいい勝利はないな」
改めての決着である。勇者の面目躍如というところか。
そこに白狐がウキウキとやってきた。
「どれ? 見せてみろ。砂男」
その催促に応じて、砂男は付いていた肉片を払いながら差し出す。今回は成虫だったこともあって、先のものより大きい拳大ほどの立派なものだ。白狐もその成果にご満悦。
「おお、美しい。苦労して手に入れた甲斐があったというもの」
白狐はまるで自分が苦労したかのように、その丸い玉に頬擦りするのだった。金吾も突っ込みたいところだったが、今は交換条件の方が気になる。
「それじゃ、約束通りラーダマーヤの住処まで案内してくれるんだろうな?」
「勿論じゃ。妾は約束は守る」
何はともあれ、やっとラーダマーヤに会えそうだ。金吾も安堵の息を吐いた……ら、突然、巨大な影が二人を覆った。
「うん?」
雲か? と、金吾が見上げれば、そこにいたのは……サースティンガー。悶絶し終えた怪物が、殺気立って金吾を見下ろしていたのである。
あの巨体である。単眼をもぎ取られたぐらいでは死にはしないし、そもそも他に複眼もある。彼がしたのは怒らせただけだったのだ。
「おいおい……」
流石の金吾もこれには苦笑い。コイツとの戦いはもう十分だと辟易してしまう。
ただ、その気持ちはもう一人も同じだった。
「お前はもう用済みだ」
白狐はそう吐き捨てると、サースティンガーを睨み付けた。
その瞬間だった。その狐目が光ったと思ったら……、
爆発。
大爆発!
サースティンガーは体内から破裂したかのように、その巨体を粉微塵にさせてしまった。
その光景に、金吾唖然。そんな彼に、白狐はこれまでのことをこう言い訳する。
「のう? 妾がやるとこうなってしまう」
散らばった肉片が雨のように降る中、金吾はこの狐に抱いていたある疑念を膨らませるのだった。
今度こそ完全決着である。




