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54話 砂漠のオアシス

 ただ、いざ旅を始めてみればそれほど雰囲気は悪くなかった。それは金吾が生粋の遊び人で、道中の暇潰しに話し相手を望んでいたからかもしれない。


 一人と一頭は雑談しながら炎天下の砂漠を行く。


「そういえばお前、俺のことを知っているようだな」


ぬしの噂も、遂には魔界の奥地まで届いてきたということじゃ。勇者でありながら人間を裏切り魔族に与したとは、驚きを超えて笑わせてくれる」


「しかし、あのヴァルサルドルムが降ったとなれば笑い話では済まなくなるだろう」


「ほう、上手くいったのか? あやつも歳を取って介護が必要になったのかな?」


「何万年と生きている魔族にすら魅力的に映るんだよ、共存都市オカヤマは。お前も今のうちに降っておいた方がいいぞ。早い方が待遇が良くなる」


「フフ、しかし、他の魔王も降るとは限らんぞ。何せ皆、その最強の魔族としのぎを削り合ってきた者たちじゃからな」


 白狐はそう笑った。ちなみに、この白狐は話せること以外は狐そのもの。体格も普通よりは少し大きい程度で、大型犬と同じくらいだ。それと、野生動物ではありえないほどの毛並みの良さか。金吾がおもむろにそれを指摘すると……、


「美しい毛並みだな」


「おっ! 主、見る目があるな!」


 白狐は目を輝かせて喜んだ。尻尾まで振るほどに。


「美しいといえば……。もしかして、サースティンガーの単眼もラーダマーヤ殿が所望しているのか?」


「そうじゃ。他の者は尻込みしていたから、仕方なく妾がな」


「やっぱり、お前もラーダマーヤ殿の配下か……」


 つまり、魔族たちでも手こずる魔獣だったということだ。金吾も手を焼くわけである。そして、それはこの仕事が至難だということを表してもいた。


 やがて、金吾たちは砂漠の中にポツンとある緑地に辿り着いた。オアシスである。


 生い茂ったヤシの木々に、枯れない泉。正に地獄の中の天国だ。その異様な光景に、金吾もまたまた驚いてしまう。


「砂しかない世界にここだけ緑が……。不思議なものだ」


 何はともあれ、一休み出来るのはありがたい。オアシスに入った金吾は、荷物を置くと嬉々と泉の水で顔を洗った。


「ふぅ~。サッパリするな。こっちの世界に来て身体が丈夫になってからは喉の渇きも滅多にしなくなったが、やっぱり水はいい」


 次いで、刀を置いて履物を脱ぎ、足も洗う。


「旅中での行水は汚れだけでなく心も洗われるようだ」


 仕舞いには、服まで脱いでふんどし一丁で泉に飛び込んだ。こうやってすぐ気分転換が出来るのは、彼の遊び人としての性によるものかもしれない。


「どうだ? お前もひと浴びしたらどうだ? 冷たくて気持ちいいぞ」


「そんな気分ではないのう」


 一方、連れはそんな気にはなれず、畔で座り込む。尤も、それには理由があったのだが。


 それはともかく、金吾はお陰で上機嫌。水面にプカプカ浮きながら酒瓶をすすっている。


「ところで、お前は俺のことを敵視しないのか? 今まで遭遇した大抵の魔族は、襲ってきたり敵意を見せてきたりしていたぞ」


「主の話は聞いていたからな。興味はあった。菱形のクリスタリアは実に魅力的じゃったぞ」


「リアスターには粗方あらかた伝えておいたが、ラーダマーヤ殿はこちらの申し出にはどういう反応をしていた?」


「さぁて……主次第じゃろうな。少なくともサースティンガーの単眼を手に入れなければ話にならない」


「手に入れてやるさ。それで、サースティンガーの居場所まではまだ遠いのか?」


「恐らく近いじゃろう」


「恐らくだぁ?」


「こちらから向かうんじゃない。相手は所詮虫けら。誘き出すんじゃよ」


「どうやって? ……あっ」


 金吾、ここにきて察する。白狐が行水を断った理由も。


「この砂漠において、このオアシスは唯一生命を繋ぐ場所。最も生き物が集まるところじゃ」


 それはつまり……、


「ここはヤツの餌場よ」


 死地である。


 そして白狐のその言葉に合わせるかのように、それは現れた。オアシス間近の砂中から飛び出してきたのは巨大なサースティンガー。それがそのまま泉の金吾へと襲い掛かる。


 巨大虫が泉に飛び込むと、大きな水飛沫が上がり、序に金吾も「うおおお!?」と叫びながら舞い上がった。何とかそのまま陸地に着地した彼は、白狐を怒鳴りつける。


「お前、知っていたなら何故教えない!?」


「餌が警戒していては獲物も釣れんからな。しかも、主はいい餌じゃったようじゃ。成虫が出てきてくれたわ」


 その白狐はというと、いつの間にかヤシの木の天辺に避難していた。またもや高みの見物のよう。


 そして成虫と呼ばれるだけあって、今度のサースティンガーは先の倍以上の巨体だった。その上、ハサミも四本に増えており、外殻もより強固となっているかのようにドス黒い。間違いなく、先のものより手強いだろう。されど、金吾に気後れはない。ただ、今の彼は褌一丁の手ぶらだった。


 置いてきた刀を急いで取りに行こうとするも、そこにサースティンガーの更なる体当たり!


「うおっ!?」


 モロに受けた金吾はオアシスを飛び出し、砂漠の中に墜落した。一応無事ではあったが、ずぶ濡れだったので着地した背中は砂塗れである。そして、これで刀は手に出来なくなった。


「くっそ、畜生め……」


 彼の戦意に怯みはないが、素手で戦うのは初めてのこと。打てる手は限りなく少ない。


 不慣れな足場に、徒手空拳としゅくうけん。迫りくるサースティンガーに、それを見届ける白狐。


 窮地に立たされた勇者金吾の真価が問われる時か。


「望むところだ」


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