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51話 オカヤマの懐事情

 ヴァルサルドルムの帰順は目出度いことである。大変目出度い。ただ、それを迎えるにもオカヤマは大きな負担を強いらなければならなかった。それが金吾を大いに悩ませていたのだ。


 オカヤマ城の御座の間にて、彼は大量の報告書に目を通している。その顔は険しく、紙を捲る手捌きも重い。時折、唸ってもいた。


 そこにティエリアがやってくる。


「金吾」


「……」


「金吾」


「……」


「金吾!」


「なんじゃい」


 その掛け声を敢えて無視していた彼も、最後は書類を見据えたまま渋々答えた。不機嫌さ全開で。尤も、王女様は相手の気遣いなどしないので、構わず彼の傍に寄る。……と、


「うわっ!?」


 その場にいたもう一人の人物に驚愕した。


 魔族である。勿論、ティエリアも魔族には慣れてきているが、彼の場合はこれまでと比べても異様。大量の触手の塊のような形容し難い魔族だったのである。頭も胴体も見えず、何百という触手が生えているだけなのだ。


 ビビッて金吾のしがみ付く彼女に、彼が紹介する。


「コイツはバッサラバッサ。オカヤマの財政を担う勘定かんじょう奉行だ」


「か、勘定奉行……?」


「コイツの頭の中にはオカヤマのあらゆる数字が刻まれている。どうやら、計算することに快感を覚える『計算の性』らしい。だから数字をちょろまかす真似もしないし、横領なんてもっての他。人間のような金銭欲がない分、安心して任せられる。寧ろ、計算が合わなかったら滅茶苦茶不機嫌になるぞ」


「そ、そう……」


 そのバッサラバッサはというと、何十という触手で書類を捲りながら紙に数字を書いていた。


 適材適所。魔族は拘りが強い分、仕事が嵌れば絶大な成果を挙げてくれるのだ。


 それはそうと、金吾はティエリアの用件を訊いてやる。


「で、何の用だ?」


「あ……そうそう。ねぇ、オカヤマ城の仮修復はこの前行われたけど、本格的な改装はいつになるの? 私の部屋の傍のトイレを早く直してよ。用を済ませるのにわざわざ遠くに行ってるんだから」


「う~ん、半年後かなー」


「半年!? 遠っ!? どういうことよ?」


「お金がないのだ」


「お金がないわけないじゃん。金鉱山が開発されてウハウハなんでしょう?」


「収入より支出が勝ってるんだよ。魔王が帰順したことで大量の魔族が加わり、その俸禄を払わないといかんのだ」


「給料ってこと? 魔族にも払わなきゃ駄目?」


「当たり前だろう。連中はオカヤマで性を満たせるから帰順したんだ。そのためには金が掛かるだろう。飯を食うにも、賭け事をするにも、女を抱くにも……。他にも、元魔王たちのための立派な屋敷を用意しないといけないし、魔族の受け入れ量を増やすためにも街をもっと拡張させなくてはならない。つまり、金を払うことでファルティスを魔王と認めさせているんだ。特に、魔族屋敷がなきゃオカヤマにいさせることも出来やしない。完成したのは五つ中三つのみ。一つは建設中で、もう一つは手付かずだ。資金不足でな」


「何よー。オカヤマ征伐を凌いで凄い順調そうなフリをしていたくせに、実際は問題ばかりなの?」


「どんな順調な国家でも頭を悩ませる用件はあるものだ。なに、一応黒字の目処は立っている。ただ、城の補修は二の次だってだけだ」


 そういう事情なら……と、ティエリアも諦める……ことはせず。


「よく言うよ。自分はちゃっかりと日ノ本式の庭園を作ってるくせに」


「ば、馬鹿たれ……。あれは要人を招くために必要な設備だ。断じて俺の趣味ではない」


「うそつけ」


「オカヤマ征伐の戦勝で人間界との交易も盛んになっているし、魔界が統一すれば採掘出来る鉱山も増える。しばらく待て」


 すると、計算を終えたバッサラバッサがその結果が書かれた紙を主に渡した。金吾、それを見てまた唸ってしまう。


「う~ん。これじゃ魔族屋敷の建設費にはまだ足りないな……。どこからか捻出するか」


「○□×△&$■▽#?」


「いや、あそこも一杯一杯だろう」


 バッサラバッサが提案するも妙案とは言えず。それをティエリアが質問。


「え? バッサラバッサ、今何て言ったの?」


「『貸金業のルーニック商会に借金したらどうだ?』ってさ」


「金吾、言葉分かるの?」


「まぁ、何となくな。口がないせいか、こんな発音らしい」


「口がなくても発音は出来るんだ……」


 その後も……、


「+□*|β|$<>*?」


「今税を上げると人間たちに足踏みをさせてしまう。今の勢いを失いたくはない」


「Ωε●◎&÷∀÷%?」


「いや、上水道工事は止められない。人間にとって水は命そのものだ」


「▲∵○×*<γ&~=■○」


「鉱山の採掘は現状でフル稼働だ。これ以上は無理だろう」


 という風に、二人だけが分かる話し合いが続く。


「×α#=|÷∀□Υζ」


「あ~。そうだな……。それがいいか」


 そして結論。


 蚊帳の外だったティエリアもやっと口を開けられた。


「で、どうすることにしたの?」


「ああ、人間居住地の普請ふしんはしばらく止めることにした。増える移民に対しては、取り敢えず掘っ立て小屋で凌ぐことにする。人間ってのは案外(たくま)しいから大丈夫だろう」


「ちょっ!? 魔族屋敷を優先して人間の家は蔑ろにするってこと?」


「そりゃ、庶民より要人の方を優先するものだろう。大工も足りなくなっていたから、そっちにも回せるしな」


「待った、待った。人間を代表して反対します。人間の生存権を断固主張します!」


「権利だぁ?」


「民は国家の屋台骨。それを蔑ろにする国に未来はない!」


 人間たちのために訴える人間の王女。皆、魔族の国に住むという不安を抱えてやってきたのだ。少しでも気を休める場所を作ってあげたいと、民のために本気でそう思っていたのである。


 金吾もその心意気には感服。だから、こう譲歩してあげる。


「仕方がない。お前がそこまで言うのなら、代わりに便所の改修を数年先に後回しにして、そこから捻出しよう」


 民衆を一番に考えるティエリアに尊重した解決策だ。


 その心遣いに、彼女もまた笑顔でこう答えるのだった。


「……やっぱり、人間なんて野宿で十分よね」


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