49話 魔王の帰順
数日後、金吾はファルティスと共に無事オカヤマに戻った。帰還早々、オカヤマ城・松の間に呼ばれたルドラーンとラナは二人の無事に大きな安堵を覚える。
そして、その成果に驚愕させられた。
「ヴ、ヴァルサルドルムが降っただと!?」
我が耳を疑う魔族のルドラーン。
「信じられん。とても信じられん。最強の魔族だぞ? 一体、どんな魔法を使ったんだ?」
「人間にしか出来ない礼儀ってやつさ」
得意気に答える金吾。実際、彼自身も魔法のような成果だと思っていた。不届き者たちを討った後、ヴァルサルドルムにクリスタリアを届けた彼は、全面的に承諾を得たのであった。ただ、腑に落ちないことがいくつか残ってもいたが。
「さて、これをもってヴァルサルドルムとその配下はオカヤマに定住することになった。彼には最高の屋敷を与えたい。建築作業の方はどうだ?」
「普請奉行によれば最優先で進めており、来週には完成するようです。このオカヤマ城に次ぐ規模になるかと」
ラナが答えた。金吾が留守の間は彼女が行政関係を担っている。
「結構だ。ただ、とてつもない巨体だったから今の屋敷に入れるかどうか……。まぁ、本人は問題ないと言っていたが」
それが金吾が腑に落ちなかった点の一つだった。
次いで、もう一つは彼の後ろにある。ラナが堪らず質問する。
「それ、もしかしてクリスタリアですか?」
金吾の後ろにはヴァルサルドルムに届けたあの紫のクリスタリアがあったのだ。
「ああ、ヴァルサルドルムから土産に持っていけとな。本人が所望していたはずなのに、おかしいとは思っていたんだが……」
結局、金吾に与えられたのである。お陰で、あのお使いの意味が余計分からなくなってしまった。
「いや、こんな巨大なクリスタリア……私、初めて見ました。しかも、紫ということはルーン・クリスタリアではありませんか」
「ルーン?」
「クリスタリアは魔力を貯めたり増幅させるために利用されています。中でもルーン・クリスタリアは最も強力なものです。故に貴重で、三センチサイズのものが一国に一つあれば良いと言われているほどです」
「大きければ大きいほどいいのか?」
「勿論! これほどのものは人間界にもないでしょう。天下一のクリスタリアです」
「価値があるとは聞いていたが、それほどのものか」
意外な朗報。尤も、今のところどうするかは全く決めていないが。
ともあれ、最も懸念していた事案に解決の目処が付いたのだ。オカヤマの未来は明るい。
「さて、ヴァルサルドルムが無事オカヤマ入りしたら安堵出来るな。次はラーダマーヤを訪ねてくる。その間、また留守を頼むぞ」
と、金吾が思っていたら……、
「ちょっと待った」
「うん?」
「もう行政なんて無理です。私は根っからの軍人なんです?」
ラナが根を上げた。十代の少女である。国政を担うという重責に耐えられないのは当然のことだった。されど、他にいないのである。
「それは分かるが、俺の代わりを担えるのはお前しかいない。奉行までは庶民から選ぶのもいいが、それ以上となると政を知っている貴族でなければ……。今のオカヤマでそれに当て嵌まるのはバスタルドの名門貴族出身のお前だけだ」
「だからって、政の才能なんて私には全然……」
「大丈夫、俺なんかたった七歳で丹波十万石の領主になれたんだから」
「どうせ名ばかりでしょう?」
「どちらにしろ、他にいない。俺自身も人材難なのはよく分かっている。今まで何でもかんでも俺一人でこなしてきたからな。落ち着いたら人材探しもするし、お前にも報いる。今のオカヤマにおいて人間家臣筆頭はお前なんだ。国家の重臣として相応しい扱いを約束する」
「……早く見つけて下さいよ」
そう説得されれば、彼女ももう少しは頑張れる気になれた。祖国を捨てた以上、オカヤマで成り上がるしか道はないのだから。




