48話 数寄者金吾
それから十五分後。
「よし、採れた」
金吾は壁の中から赤い水晶を取り出すことに成功した。大きさは拳二つ分ほどで、その辺に転がっているような不恰好な岩石のような見た目だが、美しい輝きを放っている。金吾もつい唸ってしまうほどだ。
「魔王も魅入らせる宝石ってわけか。ただ……」
リアスターら四人が探索から戻ってくると、その成果を見せびらかした。
「おお、採れたか! 中々大きいじゃないか。これなら我が魔王も喜ばれる。助かった」
ただ、リアスターがそれを受け取ろうとすれば、金吾はその手を引っ込ませた。
「待たれよ。ラーダマーヤ殿は美しいものがお好みとか」
更に、彼は腰を下ろすと得物を脇差に変え、その刃をクリスタリアに当てた。そして、徐に削っていく。
「なっ!? 何をする!? 折角大きめに取り出せたのに、自ら小さくさせるとは」
「まぁ、見ておられよ。某、日ノ本にいた頃、古田織部という数寄者に師事していてな。自分で茶杓などを作っていたんだ」
驚愕するリアスターたちをよそ目に、竹を削るかのように手の中の鉱物を整えていく。宝石とは原石のままより磨いた方が美しくなるものだ。
やがて、それが出来上がると、怪訝な表情をしていた魔族たちも「おお!」と感嘆の声を上げてしまった。
クリスタリアの原石は美しい立体の菱形になっていたのである。
「中々なものだろう? 文化をもたない魔族は、物を加工することもしなさそうだったからな。ちゃんとした道具があればもっと上手く出来ただろうが」
やっと手渡されたクリスタリアに、原石しか知らなかったリアスターたちは大喜び。
「いや、これは素晴らしい。こんなもの初めて見た。我が魔王も大喜びするだろう。俺らの首も繋がった。いや、それどころか褒美すら貰えそうだ」
「気に入ってくれて何よりだ」
「そうそう。紫のクリスタリアも見つけておいたぞ。こっちだ」
お陰で警戒心もすっかり解けたようで、丁寧に連れて行ってくれた。
ただ、案内されたその場所には目当ての物は見当たらず、金吾は「どこ?」と見回すばかり。だから、リアスターは目の前の壁を指しながらこう教えてくれた。
「この壁の中だ。凡そ百メートル先だな」
「百!?」
「俺は他の魔族より目が良くてな」
水晶の壁なので透明度はあるとはいえ、流石に百メートルも先までは見えない。彼のような特技がなければ手に入れられないというのが、貴重な理由の一つかもしれなかった。
「なぁ? ユリエド。彼らと仲良くして良かったろう? これが我々が目指す協調の力だ」
金吾がしたり顔で諭すと、ユリエドはまた不貞腐れた顔で返したのであった。
その後、紫のクリスタリアも無事採掘。しかも、それは直径一メートルもある巨大な塊だったで、金吾も満悦。目的を達した五人は洞窟を引き返していった。
「リアスター殿。そちらと誼を結べて良かった。いずれラーダマーヤ殿に挨拶に伺いたいので、話を通しておいてくれないか? ラーダマーヤ殿が気に入りそうな人間界の土産をたくさん用意しておこう」
「まぁ、承知するかは魔王次第だがな」
「必ずや互いに大きな利をもたらすであろう」
そして金吾たちは上機嫌に洞窟を出たのであった。
すると、そこには迎えがいた。百人近い魔族たちの迎えが。金吾にも見覚えのあるヴァルサルドルムの配下たちである。
その登場に金吾は驚いたが、リアスターたちはもっと驚いていた。待ち伏せされたと思ったのだ。
「お、お前ら、嵌めたな!?」
「いや、知らない」
彼の抗議を否定した金吾はユリエドを見るが、そっちも「私も聞いていない」と首を横に振るばかり。
すると、向こうから明かしてくれた。魔族の一人がこう叫ぶ。
「魔王が何と言うと、俺たちはファルティスなどに降ったりはしない。ましてや、貴様のような人間に屈するなど絶対ありえん。生きて帰れると思うな、小早川金吾!」
「目当ては俺か」
抹殺したいのはリアスターではなく金吾の方。連中の言葉や主に忠実そうなジーグリーンの姿がないところを見ると、どうやら反対派による蛮行のようだ。灼熱地獄の時より頭数が多いのは、同志を集めて徒党を組んだためか。
「貴様らがしていることは我が魔王に対する反逆だぞ!?」
ユリエドが同胞は叱りつけるも……、
「黙れ! 元はと言えば貴様がコイツに敗れたせいではないか! このへなちょこ!」
「へ、へなちょこ!?」
耳を疑うような暴言を返され、呆然。次いで憤怒! 自慢の鋭い爪を伸ばした。されど、その手の上に、金吾から抱えていた紫のクリスタリアを乗せられる。
「大切な物だ。しっかり持っていろ」
「金吾、一人で戦う気か!?」
「連中は俺とお前との戦いを見ていながら、徒党を組んでいる。つまり、俺には一騎打ちでは敵わないと分かっているからだ。お前以下の連中の集まりなら問題ない」
そう嘯くと、金吾は腰の刀を威圧するように仰々しく抜くのであった。
それはつまり開戦の合図である。
金吾、突貫。
次いで乱戦。喧騒の中、刃音が走り続ける。
更に悲鳴が上がり、流血が起こった。
そして落命、落命、落命、落命、落命、落命、落命、落命、落命……。
止むことのない血の雨が降る光景に、殺気立っていたユリエドも勘繰っていたリアスターたちもまた血の気が引いていく。
目の前で起きているのは戦いではない。
一方的な虐殺だ。
こうして、魔王に逆らう不届きな輩は誅殺されたのであった。
「やはり斬るなら石ころより人だな。波游兼光も血を吸えて喜んでいるわ」
山積みになった魔族の死体の上で、愛刀波游兼光を懐紙で拭く金吾。
「リアスター殿」
「はっ……!?」
「魔王ファルティスの腹心にしてブラウノメラを討った勇者、小早川金吾がご挨拶にお伺いする。その旨、しかと主にお伝え下されよ」
「か、必ずお伝えする」
魔王を殺した勇者の念押しに、リアスターはただただその真っ青な顔を頷かせるしかなかったのであった。
そして、ユリエドもまた思い知る。
この男に挑むことはもうないだろうと。




