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46話 水晶の山

 舞台は灼熱地獄から再び寒々しい外界へ。……否、寒々しいを超えて極寒にいた。


 同行者を変えた金吾が行くのは、吹雪が荒れ狂う雪山の峰。道らしい道はなく、一向に止まない吹雪が彼に襲い掛かっている。それでも金吾に堪えた様子はない。全身雪塗れになろうとも、苦もなく歩いていた。三日三晩、休まずにだ。寧ろ、今彼が気に掛けているのは残りの行程の方である。


「ユリエドとやら。目的地までどのくらいある?」


 先導するユリエドに問い掛ける。……も、答えは返ってこず。一瞥すらしてこない。


「おい、ユリエド、あとどのくらいだ?」


「……」


「おい」


「……」


「聞こえてるのか?」


「……」


「その長い耳は伊達か!?」


 そう皮肉ると、やっとこちらに向いた。苛立った顔で。ついでに、苛立った言葉も送る。


「何故、私が貴様なんかを案内しなければならないのだ! 憎たらしい! 忌々しい!」


「そんなことを言われても……」


「言っておくがな。先の決闘はたまたまだ。次やれば私が勝つ!」


「殺し合いに次はない」


「うっ!」


「敗れて尚生きているお前は、俺に命を預けている立場だ。そのことを弁えるんだな」


「くぅ……」


 そう言われればユリエドも黙ざるを得なかった。尤も、金吾も喧嘩をする気などない。


「まぁ、気落ちするな。ブラウノメラとは比べられないが、お前は奴とは違った強さがある。並ではない」


「と、当然だ! 私は魔王ヴァルサルドルムが誇る精兵だからな!」


 この魔族には、褒めれば顔を紅くさせる素直さもあった。そして、ユリエドの機嫌が直ると話題を変える。


「ところで、クリスタリアとやらは貴重なものなのか?」


「そうしいな。人間たちはそれで魔力を増強させる道具を作っているらしい。それを使えば、僅かな魔力しかもたない人間も少しは魔族に太刀打ち出来るというわけだ。ただ、クリスタリアの産地の多くが魔界であり、時折、人間たちが命を懸けて採掘しにやってくる。まぁ、その多くが魔族や魔獣に殺されたり、この環境に耐えられずに命を落としたりすんだがな。それでも、やってくる人間は後を絶たない」


「成る程な。それで魔族の方は何に使ってるんだ?」


「使わない」


「え?」


「多くの魔族は特に興味をもっていない。加工技術も人間のみがもっているからな」


「それじゃ、ヴァルサルドルムは何故取りに行かせようとしているんだ?」


「分からん。私が聞きたいぐらいだ」


 答えを求めたら一層深まってしまった疑問に、金吾は訝しげな面持ちで腰の酒瓶を啜るのだった。


「金吾、とにかく案内はする。我が魔王の命令だからな。信用していないのか?」


「出来れば早く戻りたい」


「何だ? ファルティスのことが心配か?」


 弱みを見つけたりと意地悪そうに笑みを浮かべるユリエド。……が、


「いや、酒が無くなりそうなんだ」


 金吾が空になりかけた酒瓶を見せながら呆気らかんと答えると、今度はユリエドの方がこう皮肉った。


「お前のそういう奔放なところは、人間より魔族に似ているな」


 やがて一行は目的地を見出す。


 山頂に立つ金吾が見つめるのは、山々に囲まれるようにそびえ立つ白い水晶の山。吹雪は止み、雲の隙間から差す陽の光に照らされ、それは実に美しく煌いていた。彼もつい感嘆してしまうほど。


「ほほー。これは、これは……」


 更に、二人はその内部へと踏み入る。


「凄いな。中まで明るいぞ」


 入り口と思わしき洞窟に入っていけば、やはりそこは水晶しかない水晶内部の世界。だからか、陽の光が中まで入ってくるので一向に暗くならなかった。その不思議さが、日ノ本育ちの金吾には魅惑的だった。


「こんなもの、日ノ本ではとても見られん。いや、から天竺てんじくでも敵わんだろう。素晴らしい。極楽とはこういう世界なのかもな」


 彼の感動は止まない。その仰々しさはユリエドも呆れてしまうほどだ。


「何を大袈裟な……。たかが洞窟だろう」


「この世界では珍しくないのか?」


「いや、珍しいが、だからと言って洞窟に変わりないだろう」


「成る程な。魔族からしたら見てくれは些細なことなのかもな」


 自然に感動し、魔族に感心させられる金吾。それはさておきと、彼は本来の用事に取り掛かる。


「それで、この辺の白い水晶を持って帰ればいいのか?」


「いや、何でもいいわけではない。クリスタリアとは色が付いた水晶で、大抵白い水晶の中に埋まっている。色も緑、黄、赤、青など様々だ。価値もそれぞれ違う」


「ほう、一番価値のある色は?」


「紫だな」


「それじゃ、折角だからそれを探すか」


 早速、探索開始。金吾はまるで観光をしているかのように、進み、進み、立ち止まっては進みと、悠々と見て回る。そして、延々と続く水晶の白い壁を眺めながら歩いていると、その壁の奥に薄っすら色があるのに気づいた。緑色である。


「紫じゃないが、この奥のヤツがクリスタリアか?」


「ああ、この壁を掘ったり削ったりして取り出すんだ。大きければ大きいほど価値があるらしいから、慎重にやった方がいいぞ」


「そういう作業は得意だ」


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