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45話 御前試合②

 金吾対ユリエド。


 ……ただ、その始まりは意外にも静寂だった。


 互いに刃を抜いて構え、互いに見合うのみ。金吾はともかく、好戦的だったユリエドまで冷静沈着だ。少なくとも、闇雲も斬り掛かるような直情的な戦法は取らないタイプのよう。


 それを前に、金吾もより感覚を研ぎ澄ませる。相手が物事を冷静に見定められるのなら、ブラウノメラを討った彼を討つ自信があるということ。


 世の中は広い。ユリエドが当て嵌まるかは分からないが、ブラウノメラより強い魔族が、それ以上に強いヴァルサルドルムに仕えているということは十分にあり得た。金吾に余裕などない。


 そのまま五分が過ぎた。


 十分が過ぎた。


 十五分が過ぎた。


 周りの魔族たちが苛立ち始めて「早く始めろ!」と野次を飛ばし始めるが、それでも二人は動かなかった。ファルティスも堪らずソワソワし出す。この場で二人の心情を理解しているのは、老練なヴァルサルドルムだけだった。


 一撃必殺。両者は最初の一太刀で決するつもりだったのだ。そして、それはカウンターとなる後手が圧倒的有利とも考えていた。


 同じ体勢のまま固まって、既に三十分。マグマの高温が金吾に汗を流させるが、その汗が目に入っても瞬きすらしない。この間、互いに一度も視線を外していなかったのだ。外せば殺られると分かっていたから。


 やがて、金吾は己の不利に気づく。千年以上生きる魔族なら、この体勢のまま何時間でも何日でも耐えられるだろう。対して、この間まで普通の人間だった彼はどうだ? 丈夫になった身体が耐えられても、精神は耐えられるだろうか? 彼には全く自信がなかった。


 追い詰められているのは金吾。だから、賭けに出ることにする。


 彼は口を開いた。


「やれやれ、一向に攻めて来んな」


「……」


「俺は挑まれる側。なのに、貴様は全く攻める気を見せない。怖気づいたか?」


 言葉攻めである。挑発して隙を作らせようというのだ。人間を見下しているプライドの高い魔族には効果的だろう。


「なら、今から主に辞退を願い出たらどうだ?」


「……」


「臆病者」


 その言葉がユリエドの眉間を僅かに動かせた。されど、それだけ。魔族らしからぬ忍耐力である。手強い。恐ろしく手強かった。


 それならばと、金吾は最後の手段に出る。


「ならば、これでどうだ?」


「っ!」


 何と、彼は刀を鞘に納めてしまったのだ。


 あからさまに見せる手加減に、ユリエドの忍耐とて遂に限界を迎える。


 強襲。ユリエドは魔族の性に身を任せ一瞬で間を詰めると、両手の爪で左右から襲い掛かった!


 反撃。金吾が迎え撃つのは柳生新陰流の居合術。左爪を頬で掠めながら、鞘から抜き出した神速の刃が右爪を圧し折った!


「くっ!」


 一撃必殺に失敗し、ユリエドは苦悶。すぐさま残った左爪で二撃目を放とうとしたが………………遅かった。


 コンマ数秒早く、刀を首元に付けられていたのだ。頬から鮮血を流している金吾に。


 決着である。


 勝負は紙一重だった。だが、圧倒的な差でもあった。それはユリエド自身が分かっている。だから、声を振り絞りながらこう言った。


「……殺せ」


 しかし、金吾の望みはそんなものではない。


「お前の命はいらない。望んでいるのは俺への屈服だ」


 全ては強者が決める。それが魔族の流儀だ。


 そして、ヴァルサルドルムが決する。


「そこまでだ。見事な立会いだった、小早川金吾。正に儂が見たかった戦い、そのものだった」


 その裁定にファルティスは喜び、金吾は安堵しながら納刀する。他の魔族たちも主が認めた以上、不満を口に出せなかった。


「それでは、こちらの申し出を承諾して下さるのか?」


 問題解決とばかりに問う金吾。されど、そう簡単には行かないよう。


「解決したのは『理由の一つ』だけだ。あと一つ条件を出そう」


「何か?」


「ここより西に水晶の山がある。そこで輝く水晶を手に入れてきて欲しい。人間界では『クリスタリア』と呼ばれ、重宝されているものだ」


「承知した」


 金吾にはそれがどれほどの難問なのか検討もつかなかったが、この期に及んで拒むという選択肢はなかった。ヴァルサルドルムもそれを分かっていたからフォローはする。


「ファルティスは置いていくがいい。客人として丁重に扱うことを約束しよう。代わりというわけではないが、ユリエドを付ける。道案内させるといい」


 それにはユリエドも驚愕するが、逆らうわけにはいかず。苦虫を噛み締めた表情を晒すのみ。


「小早川金吾、これが最後の条件だ。互いのために成果を挙げられよ」


「ご期待されよ」


 二つ目の課題は言わばお使い。そんなものは小物の勤めであり、金吾のような国家を担う者の役目には相応しくない。だが、魔族らしからぬ理性的なヴァルサルドルムもそれは分かっているはず。ならば、何か重要な意味があるのか……? 尤も、何万年も生きた魔王の腹積もりなど、二十一歳の若造には到底分かりようがないが。


 今はただ、この老練な魔王の作った流れに乗るしかないのだ。


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