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44話 御前試合①

 二人が連れていかれたのは山麓にある巨大な洞穴だった。魔族たちに囲まれながら、その闇の中へと入っていく。


 光はすぐに届かなくなり、辺りは完全な暗闇。それでも魔族には見えているようで、難なく進んでみせていた。そして金吾自身も。彼は自分が普通の人間ではなくなったと改めて実感していた。


 進む。進む。進む、降りる……。延々と思える洞穴を進んでいると、地下へと降りていることに気づいく。


 やがて見えてくる光。暑さも感じ始めた。


 そして、辿り着いたのは魔王がむ『地獄』だった。


「おお……」


 その光景に、金吾は感動の声を上げた。目の前には巨大な地下空洞があり、更には赤い海が広がっていたのだ。マグマである。


 僅かに陸地となっている台地を進めば、遂に対面である。先導していたジーグリーンが主を呼ぼうとするが、その前にマグマが波打ち始めた。そして、それは山となり姿を現す。


「おおおお……」


 金吾、再び感嘆。マグマの中から現れたのは巨大な、巨大な、巨大な竜だった。マグマの高熱を物ともしていないようで、風呂に入っているかのように上半身だけを晒して、鋭い目つきで金吾とファルティスを見下ろしている。ブラウノメラも大きかったが、こちらの方が遥かに凌いでおり、威圧感も覚えてしまった。


 一方で、その堅そうな皮膚の質感から年季も感じさせており、万年単位で生きている話も信じられた。どちらにしろ、最強の魔族の呼び名は伊達ではないようだ。


 そして、金吾が名乗ろうとするとまたもや先んじられ、彼から口を開く。


「小早川金吾……。噂はこの耳にも届いている。私を討つためではなく話し合いのためにこんなところまで出向いてくるとは、実に面白い勇者だ」


 響き渡る独特な声も威厳を感じさせる。


「某を知っているのか?」


「何万年と生きていると、いくらか物事を見通す力をもったようだ。人間どもの言う『年の功』というやつだな」


 次いで、彼の視線はファルティスへも向けられる。


「ファルティス、お前とは四百年ぶりか」


「お久しぶりです、ヴァルサルドルム。お元気そうで安心しました」


「フフ、そんなことを言う魔族はお前だけだろう」


 ヴァルサルドルム、一笑。どうやら敵意はないよう。ならば余計な駆け引きは無用とばかりに、金吾は用件に入る。


「ヴァルサルドルム殿、単刀直入に申し出よう。どうかファルティスを魔王として奉じて頂けないだろうか」


「それはつまり、儂に降れということか?」


 その内容に彼の配下たちは驚き、怒りを示そうとした。だが、ヴァルサルドルムが指のジェスチャーで彼らを静かにさせると、金吾は話を続ける。


「今、魔族は滅亡の危機に瀕している。魔族同士で血で血を洗う戦いに明け暮れ、数を減らし続けている。残っている僅かな魔界の地もいずれ消えていくことになろだろう。それを防ぐためにも、直ちに正統なる魔王を立て、魔族を一つに団結しなければならない」


「その正統なる魔王とやらがファルティスだというのか?」


「彼女は魔王を名乗る者でありながら平和を望んでいる。力で支配すること良しとせず、慈愛によって魔族を治めようとしている。それこそ、魔族が生き延びるための必要不可欠なものだ。最強の魔族と呼ばれている貴公がファルティスに助力してくれれば、他の魔族たちも追従することだろう。是非、力を貸して頂きたい」


「言いたいことは分かった」


 ヴァルサルドルムも理解してくれた。


「ファルティスを連れてきたのは、戦意のないことやその申し出が本気だということを表すためであろう。実に人間的なやり方だが、儂は評価する。また、魔王の一人を討ち取った実力も認めよう」


 次いで、高く買ってくれた。


「これまで勇者と名乗る者が幾人も現れてきたが、貴公ほど面白い者は初めてだ。共存国家オカヤマ……。何万年と生きてそのような発想をし、更に実現した者は貴公が初めてだろう」


 その勇者に笑みまで送る。


「そして、そんな貴公が初めて会った魔族がファルティスだったのも運命やもしれないな。先代魔王がいなくなって四百年。実に詰まらぬ世の中になり、儂はここに篭るようになった。だが、オカヤマという街は興味深い。こんな殺伐とした時代が終わった世界、是非一度この目で見てみたいものだ」


 好意的な笑みだ。


「儂も早急に一人の魔王によって魔界は治められるべきだと思っている。魔族の好戦的な性格が身を亡ぼすことになるのも同意する」


 そして同意。


「だが、その慈愛の思想が他の魔族たちに伝わるか?」


 しかし……受け入れはしなかった。


「儂自身は魔王であることに興味はない。今、こういう立場にあるのは周りの者が儂を最強と見て奉じているからに過ぎん。最大の勢力を誇りながらも天下を取ろうとしないのはそのためだ。儂の言葉を全ての配下が納得するとは限らんぞ」


「配下次第と?」


「理由の一つだがな。例えば、ここにいる者だけでも納得させられるか?」


 そう言われると、金吾は配下の二十人の魔族たちを見た。その殺気立った視線を浴びながら。


 誰もが金吾の申し出に拒絶の意志を示していた。説こうにも耳を貸そうとすらしないだろう。こうなっては致し方なし。金吾は刀の柄を握る。


「俺の世界には『郷に入っては郷に従え』という言葉がある。俺も自分のやり方を押しつけはしない。魔族流に従おう」


 そして、こう吼えた。


「俺の申し出に異議のある者は立ち会え! 俺が勝ったら賛同してもらう!」


 この世界では力が正義。力で説得するのが正道なのだ。


 彼の申し出に多くの魔族たちが吼え返す。皆、戦意満々だ。ただ、金吾はこうも付け加えた。


「俺に怖気づいている者がいれば複数がかりでも構わん。俺はブラウノメラ配下三百を一度に討ったことがある。敗れた後で言い訳など聞きたくないからな!」


 それは単純な挑発である。だが、戦うことを命に刻まれている魔族にとって、それを聞き捨てることなど出来やしなかった。


「何だと!?」


「調子に乗るな。貴様如き、俺一人で十分だ!」


「いや、この俺がやる! 八つ裂きにしてやる!」


 どの魔族も一騎打ちに同意。金吾の望み通りに。ヴァルサルドルムは彼の思惑を見抜いていたが、魔族の習性をよく知っていると寧ろ感心していた。そして、対戦相手も決めてやる。


「では、儂が指名してやろう。この二人を最初に見つけた者、ユリエドだ」


 あるじ直々の指名を受け、長耳魔族ユリエドは意気揚々と金吾の前に出た。


「フフフ、人間被れのブラウノメラを討って調子に乗っているようだが、私はそんなことで臆したりはしないぞ。本当の魔族というものを教えてやる」


 身構え、武器である両手の爪を伸ばすユリエド。対して、金吾も抜刀した。


 これから行われるのは、二人の魔王が見届ける御前試合だ。


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