39話 大戦、決着
天下分け目の大戦、終結。オカヤマ征伐はオカヤマ側の勝利で幕を閉じた。二十万もの対魔連合が布陣していた平地は、今では人っ子一人おらず。ブラウノメラによる爆発によって各国の軍隊は壊乱し、我先にと逃げ去っていた。彼方此方で天幕が崩れ落ち、武器などの備品が投げ捨てられている。爆発で命を落としたであろう兵士の遺骸すらそのままだった。オカヤマ勢を呼び戻し、残党狩りのため山から降りてきた金吾だったが、その凄惨な様相を目にしてはその必要もないと察した。
いや、いた。前方から人間の軍勢が迫ってくる。ただ、靡かせている軍旗を見れば、それはセルメイル軍だった。オカヤマ勢の臨戦態勢を解かせた金吾に、指揮官が下馬し軍礼をする。そして、その後ろから現れたのは……、
「ティエリア」
オカヤマにいるはずのティエリアだった。その登場には金吾も瞠目。次いで現れたマゼルバが事情を説明する。
「金吾殿、この度の我々の裏切りについてお詫び申し上げます」
「裏切り?」
「実はセルメイルの反オカヤマ派がバスタルドと組み、貴公らの留守を狙ってオカヤマに攻め入ろうとしたのです。この軍はその任務を帯びていた部隊でした。しかし、ティエリア王女が彼らを説得し、逆に対魔連合の背後を討たせたのです」
金吾、ティエリアに対してまた瞠目する。気の強い女とは知っていたが、まさか自ら従軍するほどとは……。姫の従軍など日ノ本でも聞いたことがない。だが、その烈女はというと気まずそうに俯いているだけ。
「金吾殿、此度の行動はあくまで王国の一部の人間によるものです。国王エルゼンに反意はなく、ティエリア王女がオカヤマを出たのも、偏に貴公らオカヤマ勢を救おうとせんがため。それらの罰はどうかこのマゼルバにお与え下さい」
祖国と主君のために首を差し出す彼の姿は、忠臣の鑑である。
「待って! 従軍は私が強引に願ったもので、マゼルバは反対していたの。罰を与えるなら私に!」
ティエリアもまた己の責を主張した。人質である彼女のオカヤマ無断出国は、間違いなく背信行為である。反オカヤマ派によるオカヤマ奪取計画と合わせれば、盟を破局させるに十分な理由になろう。
「成る程な。対魔連合が簡単に瓦解したのも、退路を断たれそうになったからか」
金吾もその釈明で残っていた疑問を解決させた。
「私も……私もオカヤマのために、金吾のために何かをしたかったの。ごめんなさい」
あの強情なティエリアがここまで謝罪するのは初めてのことだった。しかも、それは己のためではない。金吾もその意味を知っているから優しくこう答えた。
「いや、謝る必要はない。俺はお前に留守を任し、お前はそれに全力で応えたんだ」
彼女の頬を優しく撫で、俯かせていたその顔を上げさせる。
「よくやった、ティエリア。お前にオカヤマを任せて正解だったな」
「金吾……」
オカヤマのために役立てられた。その一人前として認められた喜びが、幼く未熟だった王女に笑みを蘇らせる。彼女はもうオカヤマの大切な一員だ。此度の勝利は魔族と人間、オカヤマに住む全ての者の力があってこそである。
そして何よりは、それを成した金吾だ。
「さぁ、俺たちの国に帰るとするか」
あらゆる妨害に屈しず、度重なる謀略を跳ね除け、この世界の慣習を否定し、新しい世を生み出す。小早川金吾のその毅然たる様は、既に勇者という枠を超えていた。
このような者こそ、人はこう呼ぶのだろう。
天下人と――。




