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33話 魔王乱舞

 血が噴き、肉が裂け、獣の雄叫びが駆け巡る。そこは地獄と化していた。


 天下の帰趨きすうを決するオカヤマ征伐は、ブラウノメラ勢によるオカヤマ本陣への奇襲によって幕が開かれた。本陣後方に潜んでいた七百の魔族は、攻勢の合図とともに我先にと山頂へと攻め立てたのだ。……だが、


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その出鼻は早々に挫かれた。闘技場の王者ガッシュテッドの拳によって。


 ブラウノメラ勢に立ち塞がるのは、闘技場魔族らによって編成されたオカヤマの精鋭ガッシュテッド隊五十。


「ハハハ、待ちに待った戦いだ! さぁ、思いっきり殺し合おうぜ、馬鹿野郎共!」


 オカヤマ一の好戦派の戦いぶりは苛烈で、相手の腕を捻じ切っては頭を握り潰すなど、人間では成し得ない凄まじさを披露していた。流石のブラウノメラ勢の魔族たちも正面から立ち向かうのを躊躇ちゅうちょし、各々が回り込むことを試みる。だが、無理だった。


 ガッシュテッド隊の脇を護るのは、ラシャークが率いる五十とルオン座の名優ウィニフェットが率いる五十。両隊はガッシュテッド隊が正面に集中出来るよう逆に敵を包囲するように回り込む。


 奇襲を掛けながら戦の流れを奪われるブラウノメラ勢。いや、オカヤマ勢が優れていたと言うべきか。それを成したのは彼女である。


「ガッシュテッド隊、押し過ぎるな! 持ち場を護り、敢えて敵を引き込ませろ!」


 前線指揮官ラナ・ヒョーデルは後方の高台からオカヤマ勢全体を見渡し指揮していた。


「ラシャーク隊、ウィニフェット隊は南北から敵を押し込め! 完全に包囲する必要はない! 敵の退路を敢えて作り、逃げる奴は捨て置けい!」


 彼女によって徹底的に教え込まれたオカヤマ勢の集団戦術は、連携も考えずただただ闇雲に攻めるブラウノメラ勢を返り討ちにしていく。初めての実戦指揮、しかも魔族を相手にしているというのに、ラナは臆することなく堂々と振舞っていた。


 そこに山頂からルドラーンがやってくる。


「ラナ、よく奇襲を防いだ」


「金吾の配置転換命令がなければ危なかった。けれど、見事に裏切ってくれたわね」


「ただ、対魔連合の方はどうする?」


「普通なら敵が同士討ちをしていれば大喜びで攻めるべきなんだけど、人間たちはブラウノメラ勢のことも恐れているはず。ここは様子見で双方の疲弊を待っていると思うわ」


「なら、挟撃の心配はないというわけか」


「ええ、ここは大丈夫よ。任せて」


 ラナはそう言うと、恐怖を抑えつつ何とか笑みを作ってみせた。優勢とはいえ余裕などない。ルドラーンにも果たさなければならない役目があるはずだ。


 しかし……、


「いや、これが俺の役目だ」


 彼はそれを断ると両手を刃に変えた。


 そして……八つ裂きにする!


 走る悲鳴。


 ほとばしる血肉。


 その光景を唖然と見つめるラナ……。


 彼女の目の前で肉塊になったのはブラウノメラ勢の魔族。それが現れたのは上!


 ラナが慌てて見上げれば、そこには飛翔して襲い掛かってくる敵の姿が。魔族の戦いは空も気を付けなければならなかったのだ。後方にいる彼女とて安全ではない。だから彼がいる。


 ルドラーンはラナの楯になるように立つと、迫る敵を素早く確実に斬り裂いていった。


「ラナ、お前はこの戦場にいる唯一の人間だ。俺が護ってやる」


「け、けれど、貴方ほどの魔族を私の護衛に使うなんて……」


「お前はオカヤマにとって必要な人間だ。殺させはせん。それにお前を護って戦うのが心地いいんだ。これほど心地良いのは生まれて初めてのこと……。どうやら俺は何かを『護る』ことが性だったようだ」


「……ありがとう、ルドラーン」


 その気遣いもまたラナを心地良くさせるものだった。


 ただ、空からも攻められるということは、どこにも安全な場所などないということである。山頂では魔王ファルティスの首を獲るべく、ブラウノメラ勢の魔族たちが殺到していた。


「いけるか?」


 彼女を護衛する魔族の一人が訊いた。争いを好まないファルティスが自身の身を護れるか心配だったのだ。だが、彼女は力強く頷く。


「ええ、大丈夫よ。私が倒れれば共存国家オカヤマも倒れる。争いのない平和への夢、決して潰しやしない!」


 その決意が平和主義のファルティスに先手を打たせた。飛び上がった彼女は先頭の魔族の顔面にしなやかな足による蹴りを打ち込むと、続く二人目の頭を拳で潰す。更には、三人目の頭を手刀にて縦に切断し機先を制した。彼女とて伊達に魔王を名乗っているわけではない。


「ほほほ、やるじゃないか! 我らが魔王に続けぇ!」


 彼女の獅子奮迅の立ち回りにオカヤマの魔族たちも興奮。士気が上がった彼らも勇猛果敢に敵を迎え撃った。


 ブラウノメラ勢の奇襲をものともしないオカヤマ勢。それを支えるのは、徹底的な軍事訓練の成果とオカヤマで得られた快楽への欲求。オカヤマの魔族たちは魔族の性を満たすために、魔族らしからぬ一致団結を成したのだ。


 だが、相手方の魔王の首を狙おうというのだ。ブラウノメラ側も取っておきの刺客を送り込んでいる。


「ウチの魔王もまどろっこしいことが好きで困っちまうぜ。真正面からぶっ潰せば手っ取り早いのによぉ」


 そう言いながらファルティスの前に立ちはだかるのは一際巨体の男。四本腕に四本足の馬を髣髴ほうふつとさせる面の魔族だ。


「ドルゴッゾ……。荒事を嫌うブラウノメラに代わり、その暴力を担う男」


 険しい表情を見せるファルティス。このドルゴッゾは魔族の中でも群を抜いた凶暴さをもっており、実際これ見よがしに殺気を露にしている。正に、平和を愛するファルティスとは相容れない魔族だった。


「この時を待っていたぜ、ファルティス。貴様のような軟弱な魔王を殺したくてウズウズしていたんだ。盟約なんて本当に信じていたのか?」


 四本の腕を威嚇するように大きく広げるドルゴッゾ。


「ええ、信じている。だからここまで来れた。そして、これからも進む!」


 対して、ファルティスは美しくも力強く構えた。己の信念の強固さを見せつけるかのように。


「この魔界で信じられるのは、圧倒的な力のみだ!」


 ドルゴッゾの四つの手から放たれるは高速乱打。息も吐かせぬ猛攻が、華奢な身体のファルティスを襲う。しかし怯まず。彼女は的確丁寧に拳をかわし、躱し、躱し、或いは受け流し、見事にさばいてみせる。ついでに、反撃の蹴りをドルゴッゾの顎に食らわせた。


「んぐっ!? 小娘がぁぁぁ!」


 ならばと、ドルゴッゾは直線的な打撃攻撃から上下左右から攻める手刀へと戦法を変える。四つの刃が縦横無尽に攻め立てれば、避けるのは至難。……なのに、通じず!


 ファルティスはその全ての刃を躱していく。寸前に、精密に、一刀一刀を無駄のない動きで避けていった。それはまるでダンスでも踊っているかのよう。仕舞いに、渾身こんしんの手刀を敢えて脛で受け止めてみせると、猛々しかったドルゴッゾも顔色を失った。


 そして訪れるのは反転攻勢。今度はファルティスがドルゴッゾ以上の高速連打で、その巨体に次々と拳と足の跡を付けていった。速く、重く、激しく! ドルゴッゾが堪らず後退りしてしまうと、その隙を突いて顔面を蹴り飛ばし尻餅をつかせた。


「つ、つよぃ……」


 怯む好戦家。虚を突くように口から魔術の光弾を放つも、それすら彼女に片手で弾き飛ばされてしまった。そして、その行儀の悪い口に足先蹴りをぶち込まれ牙を圧し折られると、彼の戦意は完全に萎えてしまった。


 力の差は歴然。その現実を突きつけたファルティスはこう諭す。


「もう十分でしょう?」


「ぅ……」


「貴方がオカヤマを快く思わない気持ちは尊重するわ。無理に従わせようとも思わない。でも、壊そうとするのは止めて」


「見逃すというのか?」


「私は誰とも争いたくないの。お願い」


 戦争中、しかも圧倒的実力差を見せつけても、彼女はいつもと変わらない低姿勢でそう望んだ。これも彼女の性によるものか。ドルゴッゾも答えに窮する。


 ただ、ファルティスはこうも付け加える。


「けど、それでもまだ戦うというのなら、それも受け入れる。私はオカヤマを護るため全力を尽くして……」


 それは宣告。


「貴方をぶち殺す」


「っ!」


 声にならない悲鳴を上げたドルゴッゾは戦意を完全に失い、果てには身震いまで始めてしまった。それは大昔を思い出していたからだ。一度だけ一瞥いちべつした先代魔王のことを……。従えている魔族たちすら意味もなく殺していく絶対的強者を目にして、彼は力こそ全てだと思い知ったのだ。


 そして、今再びそれを思い知らされる。最後の宣告をしたファルティスの目は、冷たく、おぞましく、相手の命など全く興味を示していないあの目だったのだから……。


 ブラウノメラ勢一の武闘派の遁走とんそう。それはたちまち仲間たちに伝播していき、彼らにもそれを選ばせてしまう。これを機に、ブラウノメラ勢は一気に瓦解していくのであった。


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