27話 繁華街の酔っ払い
ただ、人が増えるということは様々な人種も入ってくるということ。中にはオカヤマに相応しくない者もいるだろう。そして居酒屋の前を通り掛かった二人は、それに出会ってしまう。
「お? 飲み屋があるぞ。ファルティス、ちょっと寄っていくか」
「えー? 身体を冷ますために来たんでしょう?」
「ハハハ、さっき走って喉が渇いちまった」
店に入ろうとする酒豪金吾。……と、その時、店から出てきた客と肩がぶつかってしまった。
「あぁん? んだよー、おいー。どこ見てんだよー、おいー」
相手は若い人間の男。語尾を伸ばしながら金吾に迫り、見下ろし、ガンを飛ばしてくる。その攻撃性の高さから、かなり酔っているように見えた。一方、金吾も当然引かず。
「お前こそ、どこ見てるんだ。お前からぶつかってきたんだろう。こんなデカイ入り口で人にぶつかるなんて、酔っている証拠だぞ。酒は飲んでも飲まれるな」
彼は酒飲みとして冷静に嗜めた。この街の店の入り口は巨漢の魔族でも入れるよう広く作られている。なのに、相手とぶつかってしまうのは注意力散漫の証拠だ。だが、酔いどれに嗜めは通じない。
「あ? お前が避ければいいだろうが。ってか、お前が避けるべきだろうが。お前が避けろ」
言動も怪しい。
「おい、どうしたぁ~?」
更に、連れらしい男が五人も出てくれば平和的解決はもう望めなかった。ファルティスも怖いのか、不安そうに金吾にしがみ付いている。その仕草が男らの注意を彼女へと誘った。
「よし、じゃあこうしよう。カノジョを俺たちに貸してくれれば許してやるよ」
「彼女こそオカヤマの主、魔王ファルティスだぞ」
「魔王? 魔王ってこんなに可愛いんだ。サイコー! んじゃ、ファルティスちゃん、行こうぜ~」
折角の忠告も相手は意に介さず。酒で昂ぶっている男に怖いものなどなかった。そして、魔族の街において恐怖が働かないことは、即ち死に直結する。
「っ!?」
吐血。
男が突然血を吐いた。激痛が彼を無理やり地べたに伏せさせ、その光景が連れたちを素面にさせる。それを成したのは、男の横腹に深く突き刺さった金吾の拳。魔王の片腕の片腕が、その無礼者を叱責したのだ。
「貴様ら下民が魔王の面を知らなかったのは当然だろう。しかし、魔王に対する侮辱的な言動は見逃せない。魔王はこのオカヤマの支配者であり、絶対の存在だ。この地において、人間も魔族も等しく魔王に忠誠を誓わなければならない!」
次いで、刑も言い渡す。
「よって、貴様らは被食刑に処す!」
それは魔族に食い殺される刑。お陰で、連れの男たちからは完全に酔いは消え、「も、申し訳ありません! お許しを! お許しを!」と、慌てて土下座をし出す始末。されど、今度は金吾の方が意に介さず、役人を呼ぶべく手を挙げた。……ら、その手をファルティスが握って止めた。
「金吾、いいじゃない。許してあげましょうよ」
「お前の権威が傷つけばオカヤマに悪影響が出る」
「けど、この人たちも反省しているみたいだし」
彼女がこれまで怖がっていたのは、自分や金吾の身の安全のことではなかった。この揉め事で、人魔共存に悪影響が出ることを恐れていたのである。ファルティスらしい心配だ。
君主への無礼が死に繋がるのは日ノ本でもこの世界でも同じで、ここの市民たちもこの結果を受け入れるだろう。だが、魔王の権威を口にした手前である。金吾も今回は主の顔を立ててやることにした。
「仕方ない。貴様ら、今回は魔王の慈悲で許してやる。だが、次はないぞ。これに懲りて、己の立ち振舞いを見直すのだな」
「は、はい! ありがとうございます! ありがとうございます!」
人間たちも死に掛けの一人を除いて感謝する。これで彼らも今後は気を付けるだろう。
このように、急激に増えた人間の中にはオカヤマに対する忠誠心がない者もいるのだ。一攫千金を夢見た出稼ぎ労働者なのだろうが、そういう者が人間界にいるつもりで振舞われると、やがて大きな問題に繋がる。魔王というのは、人間界の国王以上に権威を求められるのだ。




