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18話 軍制改革

 金吾には金の産出の他にもう一つ大きな懸念を抱えていた。それはオカヤマの軍事である。


 魔界の中でも弱小のオカヤマが生き残るためには、組織的な戦闘が行える魔族の軍隊が必要だと考えていたのだ。だが、そのための改革が至難なのである。


 それは指揮官の不在。兵卒はともかく、それを指揮する者となると相応の教育が必要だったのだ。今のオカヤマでそれをこなせるのは金吾だけだが、オカヤマの首脳である彼が戦の度に本拠地を留守にするわけにもいかない。


 だが、それもやっと解決の目処がついた。


 オカヤマ城外の広場に集められた魔族たち。その彼らに金吾は新しい方針を伝える。


「諸君、我がオカヤマは他の魔族勢力に対抗するため、人間国家が組織するような軍隊を設けることにした。これからはそのための訓練に励んでもらう」


「ぐんたいぃ? そんなものが必要なのか?」


 魔族全員が抱く当然の疑問を口にしたのはガッシュテッド。これまでの魔王勢力の戦争には戦法というものは存在しなかった。彼らの頭の中にあるのは『敵を倒す』、ただそれだけだ。今回のような簡単な包囲戦すら初めてだったのである。


「組織的な軍事行動は、これまでの野盗のような無秩序な戦い方より遥かに戦果を上げることだろう。脆弱な人間が群れることで繁栄していることからも分かるように、協調は個の力を何倍も強くしてくれる。オカヤマが天下を得るためには必要な改革だ」


 ひ弱な人間を例に出されれば、魔族たちも納得の頷きをせざるを得なかった。また、これまで金吾が成してきた成果のお陰で、彼の政策に異論を唱える者も少なくなってきている。……彼女を見るまでは。


「ただ、俺は忙しい。そのため、指導する者を用意した。それが軍奉行に任命したラナ・ヒョーデル君だ」


 金吾に促されて現れたのは、若い人間の女。新しい上司が小娘であることに魔族たちは皆、目を丸くし、その上司もまた恐ろしい魔族たちを前にして先の覚悟が嘘のように顔を強張らせていた。


「以後はラナの指示に従うように。以上」


 そして、金吾は彼女を置いて早々と去ろうとした。当然、ラナは慌てて引き止める。


「ち、ちょっと、金吾殿。待って下さい!」


「あ~ん?」


「人間である私が魔族の指揮官を担えというのですか!?」


「担えるのがお前しかいないからな」


「それはつまり、魔族を率いて人間を殺せということでしょう。祖国バスタルドにも刃を向けろと……。お断りです!」


「お断り? ほう、それは驚いたな。たった数刻前の言葉を早々と翻されるとは。ヒョードル家とやらは口先だけの家系か」


「うっ……。だってあれは同衾どうきんのことかと……」


「まだ真昼間だぞ。仕事が山ほどあるんだ。乳繰り合っている暇などない。今日だけでもオカヤマ城修繕計画の打ち合わせ、魔族居住区設置の段取り、水路計画の立案をしなければならない。俺が軍事指導をしている暇などないんだよ。いいか? 軍事に無知な魔族を指導するには、軍学に長けた者でないといけない。お前は武門の家柄で、あらゆる用兵、戦術を身に付けているんだろう? お前にピッタリの仕事だ」


「だけど……!」


「日ノ本には『武士に二言はない』という言葉がある。『全て従う』という言葉がその場凌ぎの発言だったのなら、俺はお前を買い被り過ぎたのかもな」


 そう言われてしまえば、彼女も返す言葉が見つからなかった。


「ただまぁ、実際そうだというのなら仕方がない。お前は軍人には不適格だったとして改めよう。やっぱり生娘じゃ荒々しい魔族相手は荷が重いか」


「ま、待って!」


 戦で大敗し、自害も選べずに虜囚りょしゅうの身となる。圧倒的な屈辱の中にいるラナは、もうこれ以上自尊心を傷つけることは許せなかった。軍人としての誇りを護ることだけが、自分を保つ唯一の手段だったのだ。……それがたとえ、祖国に刃を向けることになっても。


 一方、魔族たちはまだ納得出来ていない。


「金吾、俺たちがお前に従っているのは、人間でありながらも強いからだ。だが、この小娘はただの人間だ!」


 ガッシュテッドが吼えた。人間文化に理解を示しつつも、それに従うことにはまだ拒絶感があるよう。金吾もその気持ちは理解する。


「群れで戦うことを身に付けるには、それに長けている者から学ぶのが一番だ。分かるだろう?」


「分かる。分かるが……」


「俺は忙しいと言っているだろう! これ以上説明させるな!」


「……」


 魔族たちには恫喝どうかつで黙らせる。金吾自身、相当溜まっていたのかもしれない。


 こうして、金吾は「あー、忙しい、忙しい」とぼやきながら行ってしまうのであった。


 取り残された美女と野獣に漂う気まずい沈黙。だから、ラナは恐怖を隠すかのように明るい作り笑顔でこう促した。


「……それじゃ、まず行進訓練から始めようか」


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