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16話 拓ける鉱山

 オカヤマの建国、人間との共存、先の戦勝と傍から見れば全て金吾の思い通りにいっているよう。されど、余裕があるわけではなかった。その分彼の負担はとても大きかったのだ。


 幼少の頃から大国を任され、それを運営するために養父太閤秀吉から優秀な家臣団を与えられていた。何もしなくても周りが勝手に政治を進めてくれていたのだ。だが、ここでは頼れる相手がいない。唯一頼れそうなのがルドラーンだが、それでも彼は魔族である。組織運営はド素人だ。全部己でやらなければならなかった。


 この日、金吾は城のバルコニーから広場で駄弁っている魔族たちを眺めていた。手摺りにもたれ掛かり、物思いに更けている。抱えている山積みの問題に苦悩しているのだ。そして、それを廊下を通り掛ったティエリアが気付く。彼女は少し考えると……声を掛けることにした。


「なーに、浮かない顔をしてるの?」


「うん?」


「オカヤマは順調なんでしょう? 貴方の思惑通りにさ」


 何故話し掛けてしまったのか彼女にも分からない。マゼルバに諭されたからか、はたまた悩み苦しむ金吾に人間らしさを感じたからか。ティエリアは彼の隣に立つと、同じように手摺りにもたれ掛かり魔族たちを眺めた。金吾も素直に答える。


「働き詰めで参っている。俺はただ面白おかしく暮らしたいだけなんだ」


「傍から見てると好き勝手にやっているように見えるけど?」


「本当は他人に任せたい。だが、その人材がいない」


「魔族なんかに国を作れるわけがないじゃない」


「だから困っている。お前、手伝ってくれるか?」


「何で私が!?」


「お前も王女なんだ。政のことは少しぐらい分かるだろう?」


「だからって魔族の国に手を貸すわけないでしょう!」


「まぁ、お前でも出来ることじゃ高が知れてるしな」


「ムカっ」


 折角気遣ってやったのにとティエリアは激高する。……も、


「でも、お前にしか出来ないこともある」


 と言われると、途端にしおらしくなった。


「私にしかって……どんな?」


「とても大事なことだ」


「どんな!?」


「言ったところで手は貸してくれないんだろう?」


「いや、まぁ……。状況次第では考えなくもない」


 彼女がそう答えてしまったのは、自分がただの人質のままでいるのが耐えられなかったからであろう。祖国のためにも自分自身の力で何かを成したかった。


 そして、その気持ちは彼女も同じだった。


「私にも何か出来ることはない?」


 そう問いながらやってきたのはファルティス。今のやり取りを聞いていたのだろう。このオカヤマの主である以上、彼女もまた何かをしなければならないと焦りを覚えていた。だが、金吾は求めず。


「お前は王だ。どっしりと構えていればいい」


「けど、金吾大変なんでしょう。それなのに私が何もしないというのは……」


「そうは言ってもお前にやれることがなぁ……」


 ファルティスはいい奴だが、いい奴でしかない。人柄と外見以外、褒めるところがなかった。本人も分かっているだろう。それでも、その人柄がこう請わせる。


「何でもいいから!」


「何でも? 本当に何でもいいのか!?」


「え? あ、いや……やっぱ取り下げ」


 ……仕方ない。金吾は一先ず仕事を与えておくことにする。


「それじゃ、取り敢えず配下の魔族の性を調べ上げてくれ。俺がその性に合わせて仕事を振る。魔族国家である以上、魔族で運営していきたいからな」


「うん、任せて! ……あ、そうそう、鉱山奉行が来てるよ」


「早く言え!」




 それは金吾が懸念していた問題の一つであり、オカヤマの命運を握る大事な案件であった。足早に応接室に入った彼は、頭を下げる鉱山奉行を他所に、待ちに待ったそれと対面した。


「おお!」


 声を上げ、次いで手に持つ。ずっしりと重く歪な塊のそれは、この国の礎となるものだ。


 金鉱石である。


 同席したファルティスとティエリアも興味津々にそれを窺う中、早速、鉱山奉行が説明に入った。


「かなり固い岩盤でしたが、安定した供給が望めそうです。いやはや、魔族は素晴らしい。人間では一日十センチ掘れればいいところを、軽く十メートルは掘ってしまいますからな。この分だと、かなり広範囲の採掘が可能でしょう。ただ、それも人間側の測量技術があってこそです」


「人間と魔族の共存があってこそってことね。とても素晴らしいわ」


 魔王ファルティスも大喜び。ただ……、


「……で、その金鉱石っていうのは何の役に立つの?」


 その価値は全く理解していなかった。仕方なくティエリアが呆れながら説くも……、


「これを精錬するときんが出来るの」


「それで?」


「金は人間界において最も価値のあるものなの」


「何で?」


「……分からない」


「食べるの?」


「食べない」


「暖を取るの?」


「取らない」


「じゃあ、何の役に立つの?」


「何の役にも立たない。ただ希少なものだからと、人間たちは価値を見出したんだと思う。それに、金ぴかに輝くから特別な存在に感じられたのかも。綺麗だなーって」


「それだけ?」


「……多分」


「なら、人間が生きていく上で金は必要ないの?」


「……多分」


「存在しなくてもいいものに、人間は価値を見出したの?」


「……多分」


「ただ綺麗だから?」


「……多分」


 ティエリア自身、よく分かっていなかった。即ち、魔族たちはこのファルティスのように金という存在に全く価値を見出していなかったのだ。同じ重さの肉と金があれば、迷わず肉を選ぶだろう。そこは彼らの方が合理的かもしれない。


「まぁ、ともかく人間は金を富の象徴として扱うようになったんだ。そして、我々はこの金をその人間界に輸出してオカヤマ発展の糧にするのだ」


 金吾がそう適当に締めると、ファルティスも一応頷いてはくれていた。


 ただ、鉱山奉行には懸念事項があった。


「しかし、金吾殿。安定した供給が望めると言っても、その量は決して多くはありません。人員が圧倒的に足りていないのです」


「そのことか。なら、人を募集しろ」


「されど、今のオカヤマの人口では……」


「違う。人間界からだ。精錬所も大規模なものを建て、その人員も募れ」


「セルメイル政府が応じるとは……」


「違う! 徴集ではなく募集だ。政府に要請するのではなく、民に求めるのだ。セルメイルに限らず人間界中に」


「人間が自ら望んで魔界に来ると!?」


「人間は臆病だが、それ以上に愚かで欲深い。オカヤマ金山が事実だと分かれば、向こうから勝手に集まってくる。そのためにも、まずは金の取引実績を作らねばな。取り敢えず今出来る分だけでも金を精錬しろ。早急にな」


「承知致しました」


 そして、急かすように鉱山奉行を追い立てた。だが、金吾もゆっくりはしていられない。


「となると、次はマゼルバか……」


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