表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/50

長い夢


 森にルーナの悲鳴が響き渡る。

 身体が動かない。動かないといけないのに。ルーナを守らなければいけないのに……。


「動かないで!」


 渾身の力を込めて腕を動かそうとすると、ルーナが必死の形相でそれを止めた。


「大丈夫、大丈夫よレオン……っあなたを斬った人は逃げたわ……あぁ、どうしましょう……っ」


 ルーナの声が震えている。そうか、逃げたのか。ひとまずそれはよかった……。

 痛みはそれほどだった。脳内で痛みを麻痺させるような物質が分泌されているのだろう。

 だくだくと腕を伝って地面に流れる出血の量が酷い。それを視界の端に入れながらまずいな……と他人事のように思った。


 寒い。目の前が霞む。目を開けていられない。意識がどんどん遠くなっていく。

 もしかして、これが死ぬということだろうか。


 僕は死ぬんだろうか?


 それは嫌だ。ルーナを一人にしてしまう。ルーナとずっといっしょにいたいのに、守ると誓ったのに……。

 これが報いだろうか? 王女を裏切り、国に背き、女神の前で愛を誓った罰なんだろうか?


「レオン……レオン、いや、いやよ……返事をして! お願い……お願い……!」


 声だけでなくて、レオンハルトの体に触れる指先までもルーナは震えている。

 返事がしたい。ルーナにごめんと、逃げろと言いたい。なのに口が動かない。死にたくない。死にたくないけれど……。


 もしもこれがルーナを愛した罰だと言うならば、甘んじて受けるべきなんだろうな……。


 そう思ったのを最後に、レオンハルトの意識は途絶えた。


 ――――――――


 気が付いたら、何もない丘の上に立っていた。

 

 ……ここはどこだ?

  

 小高い位置にあるらしいここからは、見知らぬ小さな街が見下ろせた。


「あっ……」


 見知らぬと思っていたが、知っている建物がある。シェザーレ王国の王宮だ。

 つまり、あそこは王都だろうか……?


「それにしては、見覚えがない建物ばかりだ……知っている店もないし……王都はあんなに田舎だったか?」


 そっくりな王宮があるだけで、別の街なんだろうか。王都はもっとたくさん建物があって、家や人で街が賑わっているし、あんなにこじんまりとした規模の街ではない。


 しかしどうしても、ここはシェザーレな気がする。

 けれど決定的に何かがおかしい。じっと街を見下ろしてみて、その正体にやっと気が付いた。

 

「何世紀前の建物なんだあれは……」


 王宮の次に大きな建物は教会だった。というか、それくらいしか高い建物がない。

 しかしその教会は見たことがない建造物で、様式がかなり昔のものだった。


「ルーナが隠れていた教会に似てるな……」


 街を観察していると、後ろから誰かが駆けてくる足音が聞こえた。


「アルガー?」


 女性の声だった。アルガーとは誰だろう。レオンハルトの周りには、ほかに人間はいない。

 人を探しているようだが、ここにはその人物はいなさそうだ。


 そう思った瞬間、口が動いた。


「ここだ!」


 ……え?

 勝手に口が動いて、勝手に話した。

 どういうことだ? 僕はアルガーではないのに。


 ……あれ? 僕は、誰だ?


 ――――――


 息が苦しい。気を失ってしまいそうなほど。だけど息が吸えない。なぜ吸ってはいけないんだ? そうだ、水の中にいるからだ。


「ぷはっ……」


 水面から顔を出して、酸素をめいっぱい肺に吸い込んだ。

 無我夢中で川の中で立ち泳ぎをするが、自分の手足がやけに短く感じる。


「レオンハルト! レオン! どこにいるの?!」


 そうだ、僕はレオンハルトだ。


「お母様! ここにいるよ!」


 呼びかける母の声に、レオンハルトは水の中から返事をする。

 すると、母が大慌てで岸までやって来て「なにしてるの!」と声を上げた。


「こっちに来なさい! どうしたの?! 川に落ちたの?!」


 レオンハルトは岸へと泳ぎながら、どうして川の中にいたのか考えた。

 そうだ。母の言う通りレオンハルトは川に落ちてしまった。

 岸までくると、母が伸ばす手に掴まって引き上げてもらった。


「もう! 心配したのよ! だから川のそばでふざけないでって言ったでしょう!」


 母に抱きしめられて、怪我がないか確かめられる。

 たしかにレオンハルトは川の中に落ちてしまったが、それは自分の不注意ではない気がする。

 川のほとりを歩いていたら、誰かに後ろから押されたような……。


「早く家に帰りましょう。風邪を引いてしまうわ」

「お母様」

「なーに?」

「ブランコ乗りたい」

「服を着替えて、暗くならないうちならね!」


 わぁいと喜ぶレオンハルトの手を引いて、母は家までの道をレオンハルトといっしょに歩いた。


 冷たい服が体に張り付いて気持ち悪かったけれど、母と手を繋いで帰るのは楽しかった。

 この後、母といっしょにブランコをするのも楽しみで、いつのまにか自分がどうして川の中にいたのかなんてこと、忘れてしまった。


 母に着替えさせられて、温かいココアを飲んだ。

 早く早くと母を急かして、小さな庭に生えている木に取り付けられたブランコに飛び乗った。


 そのブランコに乗って、母に背中を押してもらって遊んでいると、何か自分が大切なものを忘れている気がした。


「……? どうしたの、レオン。急に黙り込んで」

「お母様……僕、行かなくちゃ」 

「どこに行くのよ? 不思議な子ね。あなたの行くところはあなたの家しかないでしょう」

「……そうだっけ?」


 レオンハルトがそう言うと、母はおかしそうに笑った。そしてレオンハルトを後ろからぎゅうと抱きしめてくれた。


 ……そうか。お母様がそう言うなら、そうなんだ。


「さぁ、もう暗くなってきたわよ。晩御飯を支度しなきゃ」

「僕も手伝うよ」

「優しい子ね」


 ブランコを降りて母の手に掴まる。沈む夕日を背に、レオンハルトは母と2人で暮らす家に歩き出した。


 家の中に入って、扉を閉める直前。

 反動でいまだに揺れている無人のブランコを見つめた。


 何か忘れている気がする。何か、何かを……。


「レオン! 早く扉を閉めて!」 


 母の声に、レオンハルトはハッと我に帰る。


「はーい、お母様」

「今日はシチューにしましょう」


 わぁいと歓喜の声を上げながら、レオンハルトは扉を閉めたのだった。



面白いと思ったらブクマ、評価いただけると励みになります!よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ