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見果てぬカオス

 天衣無縫な鉄格子を私は、万年筆にまたがりすり抜けました。そして質実剛健のジャングルを、どら焼きに沿って滑っていました。


 すると、だだっぴろいサンダルにきらびやかなカレーが刺さっているのに出くわしました。その平らな風船の中を、機関銃に机をかぶせて踏みつけていれば、人間がひとり見えました。


 その人は、ホワイトボードを三日月形にとかしつつカルボナーラをはためかせ、倒れていました。私はその人について、これはろくなやつではないと速断しました。

 そこで私は、がま口財布にマフラーを書き殴りながら、その人にたずねました。なぜスプーンに座って葦毛の地図を踏み倒し、植木鉢の上で豆電球を尖らせないのか。


 するとその人は、こたえました。それは、山を青椒肉絲で撫でてスティック糊の絵を裁き、家庭用医学事典の下で観覧車を聞きかじるからである。

 その問答により、こやつは間違いなくろくでなしである、ということがはっきりしました。


 私は、隔世遺伝により味覚正常な拡声器はいまだ覚醒していないと知っていましたし、不公正な夜行性など後世の福利厚生を構成することなく更生せられ、眼鏡志望の目出し帽は自暴自棄になり脂肪を希望としていても、死亡しないのだと知っていました。




 それなのにその人は。私に言ったのです。沈みながら。

 ありがとう。この世界をつくってくれて、ありがとう。


 ですからその人は、ろくでもない、やつだったのです。

 私はここなど、全て滅んでしまえと、思っていたのに。


 こんな、めちゃくちゃなところ、滅んでしまえばよいのです。なくなってしまえばよいのです。

 けれど、ただ消え去るだけというのは、おもしろくありません、そんなのは、いやです。絶対に、いやです。


 木っ端みじんになれない程度に砕け散って、薄気味悪くみっともなく恐ろしく、誰もが目を覆いたくなるほどおぞましく、けれど指の隙間から、見てしまう。そんなふうに、そんなふうに朽ち果てていくのでなければ、いやです。


 とてもとても、おかしなことです。私は、ここなど滅べと思っていたはずで、けれどここが無価値だとは、思いたくなかった。その証拠に。


 沈んでいく、私の世界に沈んでいくその人を見つめながら、私はこのうえなく、このうえなく、しあわせでした。




<おわり>

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