エキセントリックファナティック・オーセンティック・ネオラッダイト
ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐると、渦を巻くのは虹色だった。
何色あるのかわからない、境もはっきりしていない、けれども混ざることはない、色がとりどりせめぎ合い、絡み合い、引き延ばし合い縮め合い、大きな大きな太い円環、トンネルとなって、ぐるぐるぐるぐる、回っているのだった。
そしてその中心を、白い白い、真っ白い道が貫いて、それでまっすぐ、まっすぐに、虹色のトンネルとともにどこまでも、ずっとずっと遠くまで、続いているのだった。
そんな、色の坩堝の中心、潔癖な道の上を、進んでいく者がいた。ハンマーを肩に引っかけて持った、ひとりの少年だ。着ているものはすっかりくたびれて、髪はぼさぼさ絡まって、肌は荒れて傷だらけ。しかし彼は、鋭く目を光らせて混沌の先を睨み据え、敢然と歩いていた。
ぐるぐるするのも、ものともせず、力強く、彼は歩いていく。ひたすらに、歩いていく。歩いていき、そして、顔から転倒する。
それでも少年は、すぐさま身を起こす。立ち上がり、よろけた彼は、回転する虹色にぶつかりそうになって慌てて身を引き、しりもちをつく。そのあいだも、一度もハンマーを手放すことはなかった。
危なかったと、少年はつぶやく。彼は、この虹色に触れることはできない。触れてはならない。触れたら最後、おしまいなのだ。最後おしまいだ。おしまい。何が。すべてだ。すべてがおしまいなのだ。とにかく。よって虹色には触れない。
少年は、もう一度、よろよろと立ち上がる。彼はもうそろそろ、目が回ってきていた。長いあいだずっと、このぐるぐるの中を歩いているのだから無理もない。けれども彼は、前を見据え、歩き出す。彼には、やらなければならないことがあるからだ。必ず、やり遂げなければならないことが、あるからだ。
少年は、ハンマーを握りしめ、吐き気をもよおす虹色に耐え、進んでいるかもわからないながら、懸命に歩き続けた。歩き続けて、それは、突然のことだった。虹色が、消え去ったのだ。
消え去った。しかし少年の足下の、真っ白い道はそのままだった。周りの景色だけ、すっかり様変わりしている。様変わりしているが少年には、周りの様子がわからなかった。わからない。頭が、受け付けない。自分が何を見ているのか、少しも理解できない。理解するべきことがない。
混乱する少年の耳に、ふいに音が滑り込む。それは、声だった。高く美しい、少女のような声だ。そしてそれは、少年にも捉えることのできるもののようだった。声は言った。いらっしゃい。まってたよ。
それを聞いた少年は、ハンマーを持つ手に力をこめた。目指したところにたどり着いたと、彼は悟ったのだ。やるべきことを、やるときだ。彼は叫んだ。どこにいる。出てきやがれ。
ここにいるよ。
はっとして、少年は振り返る。そこには、一人の少女が立っていた。少年は思わず、ぽかんと口を開けて彼女を見つめた。それほどに、美しい少女だった。
美しい少女だった。少年は、それを理解することができた。しかし、美しいということ以外は、何ひとつ頭に入ってこなかった。何が彼女を美しく見せているのか、少しも説明できないのだ。説明するべきことがないのだ。
彼女はとりあえず、美しかった。綺麗で、美しかった。美しくて綺麗だった。綺麗。美しい。ばかばかしい。心底ばかばかしい。ばかばかしいことこの上ないので、彼はここへやってきたのだ。
おい、と少年は少女に呼びかけた。なに、と少女は美しい綺麗な声で応じた。少年は白い道の上、少女に歩み寄った。少女は、じっと少年を見つめているようだった。少年はハンマーを振り上げた。少女の頭を叩き割った。
少女は真っ二つに割れた。美しい綺麗な少女は、真っ二つに割れた。二つになって、道に転がった。
これが、少年の、必ずやり遂げなければならないことだった。見事にやりおおせた彼は、急いで飛び退いた。彼女から、流れてくるからだ。虹色が。触れたらおしまいの、虹色が。
「気持ち悪いんだよ」
少年は後退りつつ吐き捨てた。
「おまえ、気持ち悪いんだよ」
少女は何もこたえない。
「ニセモノなんだよ」
少年はなおも後退りながら叫ぶ。
「おまえは、ホンモノにはなれない」
虹色が流れる。
「なれないんだよ。絶対なれないんだよ。だって、おまえには、わからないから」
虹色が広がる。
「わからないだろ? ぼろぼろになってでも、やりたいとか、思わないだろ? 何も、思わないんだろ? 思わない、絶対思わない、絶対わかりっこないんだよ、わかって、たまるかよ」
虹色が、迫る。
「わからないくせに存在するな」
虹色が。
「おまえなんか、いなくなれ」
虹色が。強く輝き、波打つ。道からはがれ、浮き上がる。生き物のように、円環を描き、少年を取り囲む。回り始める。彼の頭上から足下へ、足下から頭上へ、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる、再び、同じように、回り始める。
二つになった少女は、いつの間にかもう、どこにもいなくなっている。虹色が流れて広がっていた道も、もうもとに戻っている。
その白い白い、真っ白い道の上で、少年は聞いた。
また、あいにきて。
それは綺麗な美しい、少女の声だった。
まってるよ。
あなたの、ちからになれるまで。
「だまれ……」
つぶやいた少年は、虹色の渦の中。
ハンマーを握りしめたまま。
this is The End of the era of......




