ぼくは職質をパリイする③
「お巡りさん、ひとつだけ聞いてもいいですか?」
「はい?」
質問に対して質問で返して来るパターンか。
そのような幼稚臭い手が延々と通用すると思っているのかな。
そのように警官が思ったような心の隙間に差し込むように少年はいう。
「あ、話し合いができない方でしたら、ぼくは話すのを遠慮しますけど……」
会話が成立しない日本語がダメな大人……みたいな見下した物言い。
うわぁ。
なんだこの子供は。
警官の表情にはそのように出ていた。
「それじゃあ、ひとつだけですよ?」
警官は気を取り直して大人の笑顔を振る舞った。
ひとつだけ、少年の問いに答える。
それで「スルー」をされないで済むのなら。
「お巡りさん、ありがとうございます!」
なんだ? 素直にお礼なんか言って。
警官がすこし目を細める。
そんな視線を頭を下げる少年に向ける。
警官が少年の質問に真剣に耳を傾けようとすると。
「お巡りさんは、これまでいったい何をされていたのですか?」
「なにを……ですか。先程から君に職務質問をしているところです」
話をはぐらかそうとしても無駄だからね。
職務質問……「職質」と今どきの民間人でも略語で知れ渡っていて。
「職質かけられたー!」と皆が半分嫌がり半分面白がっている存在。
もちろん任意だから答える義務はなくて、あくまでも「お願い」であり「協力」を求めるものである。
「それはまた、おかしいですね!?」
おかしい?
「どこがおかしいのですか?」
「失礼ですが、お巡りさん……頭が良くないのですか?」
はあ?
と言いたいところだが、相手はまだ子供だ。
世の中の良くない大人たちの真似事をしているに過ぎない。
「頭が良くないとはどういう意味ですか? 君の問いに素直に答えましたよ?」
「では、お聞きしますが。お巡りさん、いま何時ですか?」
ほらまた話題をすり替えた。
こちらが疑問を投げかけるとどんどん質問を変えていくパターンですか。
「お巡りさんっ! いま何時ですか? お耳が遠いのですかーっ!?」
うおっ!
今度は通行人に訴えるがごとくに大声を出しての質問だ。
キョロキョロと通行人が見て来るようになった。
はいはい、時間ね。
警官は腕時計を確認した。
「坊や、いまは午後3時を過ぎたところです。時間を取らせて申し訳ないですが、そろそろ聞かせてください」
「やっぱり、そんなのおかしいですよ!」
「なにがそんなにおかしいのですか?」
「だって、ぼくはお巡りさんにここでなにをされていたのかを訪ねたんですよ?」
「ですからそれは、すでに答えましたよ」
「その答えが、おかしいんですよ! お巡りさん、子供にうそを教えるなんて本当にお巡りさんなのですか?」
うわぁ。
そう来たか。
なんだかんだと難癖つけて、警官のいうことに異論を唱える。
その挙句、ニセ警官呼ばわりですか。
いったいなぜ、嘘をついたと言っているのかな。
「うそなんてついてないですよ、君といまこうして話をさせて頂いていることがすでに職務質問なのですよ。わかりますか坊や」
「わかりません。……ぼくは職務質問のお話は一切していません。職務質問とはお巡りさんがする話ですから、ぼくはべつの話をしたのです。お巡りさん、ぼくがしていない話をあたかもしたかのようにすり替えるのやめてください!」
うわぁ。
ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。
次どう言えば、どう出る?
可愛らしい見た目とは裏腹に、あーでもないこうでもないと理屈を並べ立てる。
なぜ、わたしが話をすり替えている側にされているのか。