ぼくは職質をパリイする②
「そうだったのか。ぼく、そんなにぼーっとしてるように見えましたか?」
警官は苦笑いをしながら「かなりね……」とつぶやいた。
「坊や、ひとりで買い物にでも来たのかな? それとも親御さんとはぐれて迷子になったのかな?」
警官が少年に疑問をぶつけた。
そこは繁華街。
児童がひとりでうろついて良い場所ではない。
もっとも、近所の子であるかもしれない。
立ち並ぶ商店に務める店主の子息かもしれない。
だが不明なまま放置するわけにはいかないのが警官である。
職務上の質問であり、その答えによっては保護が必要な場合もあるわけだ。
だが少年は警官の問いには答えず逆に質問をする。
「ねぇ、お巡りさん。視力は大丈夫ですか? これ何本に見えますか?」
少年は警官の目に見えるように自分の右手の指を二本立ててみせる。
「二本です。目は悪くはありません、ご心配なく」
「それはおかしいな」
「何がです?」
警官は軽く首を傾げる。
「だって、さっきからずっとぼくに声をかけてくれてたんですよね?」
「はい、そうですよ」
「そのときから、ぼくは誰かと歩いていましたか?」
「いやいや坊や。ひとりだったから心配で声をかけたんですよ」
「お巡りさんの言う通り、ぼくはずっとひとりです。でもご心配なく。これまでも、これからもずっとひとりですから、どうぞご心配なく。それじゃこれで失礼しまーす」
少年が警官に背を向けて立ち去ろうとした。
だが警官だって「はい、そうですか」とあっさりと諦めたりはしない。
当然、彼を引き止めるために声を張る。
「待って坊や! お巡りさんが尋ねたことに答えてくれないと、お巡りさんは君を保護しなければいけなくなるので、質問に答えてくれませんか」
警官は急ぎ足で少年の前方に回り、歩みを止めさせてそう伝えた。
「お巡りさん? 通行の邪魔になっていますけど……市民の生活の支障になるような真似はやめてくださいませんか。迷惑です!」
「あらぁ、そう来るのか……」警官は頭をかきながら小さくつぶやいた。
これは、いま流行りの「職務質問スルーできたら勇者!ごっこ」ってやつだな。
こんな幼い子供にまで普及しているとは。
「坊や。わたしは市民の通行の邪魔はしていません。これは公務にあたる行為ですからね」