ぼくは職質をパリイする①
「こんにちわ! 坊や、こんな繁華街をひとりでお散歩かい?」
不意に背後から声がした。
若い大人の男性の声だった。
子供がその声にびくっとして背後を気にした。
振り返るとそこに交番に勤務しているような制服警官がひとり立っていた。
「え? おじさんだーれ?」
「お兄さんなんだけどな。わたしは近くの交番に勤務しているお巡りさんです」
「ふーん。お巡りさんなんだ。てっきり背後霊かと思っちゃった」
交番の警官に冗談みたいな返事を返すのは小学生の男児だ。
年齢は十歳ぐらいだ。
スリム体型で顔立ちは可愛らしく、誰にでもモテそうな感じだった。
「は、背後霊って……」警官は苦笑いをした。
警官も二十代前半、おじさん呼ばわりが気になったみたいだ。
「突然、後ろから知らない大人の声がする。そんなの怖いに決まってるじゃない。ふつうにぼくの前方に来てから声をかけてもらえれば制服でお巡りさんだと判ったのに……」
「言葉を返す様ですが、先程から何度も声をかけていたんだよ。ちゃんと君の前方にいましたよ。考え事でもしていたのかな?」
警官の言い分が正しいのであれば、少年は今初めて気づいたということだ。
深く考え事でもして歩いていたのだろうか。
警官もそのように質問をした。
それについて少年は答えた。
「考え事をしていない人間なんかこの世にいますか?」
「いないですか?」
「いないでしょ! お巡りさんはなんの思考も巡らせないでぼくに近づいて来たのですか? それで背後に回ってこんにちわ、はないでしょ!」
「いやまあ、それはそうだけどね。何度も声をかけたけど、応答がなくて行っちゃうものだからお巡りさんも心配になってね。後ろから声を飛ばして驚かせたことは申し訳なかったね」
ぼーっと考えごとをすることを「うわの空」という。
うわの空で繁華街をあるいている児童を見かけたら警官は職質するものです。
迷子の届け出があった訳ではないが。
それらを未然に防ぐためにも防犯パトロールに力をいれている訳だ。
情報社会の世の中になり、タブレット学習が日常的な学校も増加した。
将来の夢の選択肢は無限に広がる昨今。
教科書時代より個人で扱う情報量が膨大になり怖いもの知らずが増えたのか。
怖いものがない子供というより、大人のほうが劣化版の人種になりつつある。
言葉遣いも大人より流暢で、社交的な人が増えてきている。
社会人だけが偉かった時代はとっくに風化した。
目の前の子だってもしかしたら、すでにスーパーエリートなんてことも有り得るわけだ。
「はは。考え過ぎかな……」






