6 犯人はお前で、決め手も…
委員長は【ときどきハイスクールメモリアル】では、
桐生龍馬ルートの悪役令嬢的ポジションだった。
委員長は真面目に品行方正な学園生活を送っていたのだが、
ある時、不良に絡まれてしまう。
それを龍馬が助けたことがきっかけで、
好きになる。
しかし、龍馬の心はヒロインへと向かってしまっていて、
気がつけば、ヒロインに不穏な噂が流れ始める。
それからなんやかんやあって、
元生徒会長の協力もあり、元凶を突き止め、
委員長を振り、ヒロインと結ばれる。
これが桐生龍馬ルートの大まかな流れだ。
しかし、どうしたことだろう。
どう見ても、委員長は桐生龍馬を好いていない。
私にしているのと同じ反応、
つまりは無関心…いや、関心が少し薄いくらい。
きっとクラスメイト、いや、クラスの一員くらいには思ってくれているはず…。
一体なにがあったのだろう?
ポ〜ン。
「痛っ!」
「新人さん、サボりはいけないよ、サボりは。」
振り向いた先には、お盆を持った秀ちゃんが。
む!それで叩いたのか!痛くはないけどなんかムカつく。
「べ、別にサボってないけど、
ちょっと考え事していただけで…。
そういう秀ちゃんはどうなの?」
「ああ、俺はもう帰るところ、
今日は8時までなんだ。」
「えっ!じゃあ私も帰る!」
ポ〜ン。
「痛くはないけど、何なのその気の抜けた音は!
叩くなら、こうビシッと…た、叩かないでください。」
えっ?
今の素振りはなに?
風切り音が遅れてやってきたんだけど、
これ、絶対に痛いとかそんな次元じゃないよね?
記憶とか飛んじゃうやつ。
って、そういえば…
「私なにを考えていたんだっけ?」
「ふむ、若年性か。」
「いや、認知症じゃないから。
ちょっと頭に衝撃を与えられたら、
考えていたことがどこかに飛んでいっちゃっただけだから。」
「うん…そうか…。」
どうしてだろうか?
秀ちゃんの目が可哀想なものを見る目になっている。
よくよく考えてみると、
頭を叩かれてどっか行っちゃった?って、
それはそれでアウトじゃない?
「それってまた衝撃を与えれば治ったりする?」
「…。」
とっさだったので言葉が出なかった。
すると、秀介は動き始めた。
や、ヤバい、素振りが始まった。
い、いそ、いしょいでおもひらちゃにゃひゃ。
…急いで思い出さなきゃ。
う〜ん、う〜んと唸る愛。
そして思い出した。
「!そうだ!そう、そう、そうだった。
委員長のことだ!
ちょっと委員長のことでなにか知らない?」
「なにかって?」
「ああもう!
例えば、
委員長が不良に襲われているところを見かけたとか!」
例えではないです、はい。
「もしかして…あれか?」
「おおっ!さっすが秀ちゃんっ!で?で?」
「いや、厳密には見かけたわけじゃないんだが…。」
「見かけたわけじゃないんだが?」
「…助けたことがあるような?」
「「…。」」
「…おっふ、さっすが秀ちゃん…。」
…犯人はおまえか。
―
「じゃ、俺はバイトがあるから!
頑張れよ、愛!」
軽くウインクをして去っていく。
まったく奴はワタシを笑かしてくれるわ、ほっほっほっ。
…ええ、はいっ!
2日連続の無茶振りです。
委員長と二人っきりの1時間。
耐久無言レースの開幕です。
嫌なら、お前が話しかけろって…無理!
ハードル高すぎ、
コミュ障はハンターなんだよ。
相手が話しかけていたら、食いつき、捉えて、離さない。
はい、本当は食いつくけど、自然と捉えられず、
離れていってしまいます。
「秀介くんって、あんな表情するんですね。」
でも、食いつく!食いついちゃう!
「えっ、そうなの?」
話を聞くと、
まともに表情を動かすのは、
私と話しているときくらいらしい。
理由はなんとなくわかる。
妙に恋愛脳になっているときなら分からないかもしれないが、
理由ははっきりしているただ単に私に慣れているからだ。
あやつは案外人見知りさんなのだ。
まったく私のことを言えないくらいのコミュ障さんが。
きっと彼だったら、私みたいに食いつけない。
あっ、でも彼の場合それがクールとか前向きにとらえられそう。ずるい。
「…やっぱり、お二人は付き合って…。」
「えっ?秀ちゃんと?
ないない、それはない。
確かにあいつのこといいな…なんて思うこともあったりするけど、
すぐにこいつはないわ〜ってなるから。」
「でも秀介くんは杜若さんのこと…。」
「いや、それはもっとないって。
この前私のことどう思うって聞いたら、
路傍の石…いや、幼馴染、っていうくらいだからもっとないって。」
というか、なんで秀ちゃんのことを気にして…って、
おや?おやおやおや?
これはやっぱり…。
「…委員長、話は変わるけど、
秀ちゃんって、今アルバイトしているんだけど、
どこでしているか…興味ある?」
ビクッ!
「べ、別に…な、ないだすけど?」
ほ、ほほ〜う、ないだすか…なるほどなるほど。
「あ〜っ、急に秀ちゃんの昔ばなししたくなってきちゃったな〜。」
「っ!?」
あわあわして、
普段クールな委員長からは似ても似つかない。
ふむふむ、アレする乙女はこうでなくっちゃ。
かわゆい、かわゆい。
「なんて、冗談だけど。」
「…。」
しょぼん。
あっ!ガッカリしている…ガッカリしてる〜♪
キっ!と睨みつける委員長。
…まあ、遊ぶのはここら辺で。
「あの、委員長、私、実は最近アルバイト始めたから、
相談してもいい?」
…昨日の事だけど。
相談するほど働いてないけど、でもいいよね♪
委員長とのお話?
結果は見るまでもなかったと言っておこう。