5 アルバイトしないか?
ウエイターは客のいない喫茶店で食事をとっていた。
ここは人気のない潰れそうな店というわけではなく、
店の外にcloseという小さな看板が出ている。
いわゆる休憩時間というやつだ。
そんな中、店内では年の差ロマンスが展開されていた?
「この賄いとても美味しいです。
毎日でも食べたいくらい。」
「ええっ!?秀ちゃん駄目よ、私もうおばさんなんだから?」
「いやいや、そんなことないでしょう?
梓さんは今もとてもお綺麗ですよ。」
「秀ちゃん…。」
なにやら顔を紅くして、
物憂げにつぶやく梓さんを尻目に賄いを食べていると、
不意に肩を掴まれた。
「おいこら、秀ちゃん、
なにうちのお母さんを口説いて嫌がるんですか?」
「ん?口説く?どういうこと?」
「は?マジですか?天然ですか?
ああ、そういえば秀ちゃんって、地味にジゴロ属性持っていましたね、すいませんでした。」
早口でなにやら自己解決している愛を無視して、
ナポリタンを食べていると、
梓が愛の存在に気がついたらしい。
「あら、アイちゃん、来てたの?
もしかしてお手伝いしてくれるとか?」
愛は手を軽く叩いて喜ぶ梓に、にべもなくこう答える。
「あ、えっと、はい、来てました。
お手伝いは遠慮で。」
「そ、そう…。」
梓はしゅんと落ち込んでしまった。
憐れに思った俺は梓に助け舟を出す。
愛を近くに寄らせ、
耳打ちする。
「なあ、手伝ってやれよ。」
「いや、普通に嫌なんだけど、ていうか私今忙しいし。
百合ハー作んなきゃなんだし。」
相変わらず最低だった。
いい加減懲りろよと内心思ったが、もう無理だと諦める。
せっかくだから、その最低さを利用しよう。
…そうだな…。
「…ふと思ったんだが、
お前、まともに女子と話せてなくね?」
「は?何言ってくれちゃってんの、マジで。
いや、この前のあれは…。」
嫌っている相手とは話したくないし話せない。
元の世界でこいつがよく言っていた言葉だ。
これを利用しよう。
「委員長は別にお前を嫌っていたわけじゃなかったよな?
それでもまともに話せていなかった。
違うか?」
「くっ、でもそれと手伝いと何が関係が?」
「いや、梓さんで練習すれば、いいんじゃないかって、
まあ、それが嫌なら、ここは女性のお客さんも来るから、
接客で女の子と話す練習をすればいいんじゃないかって。」
「…なるほど、本当は練習なんて必要はないけど、
接客はハーレムで起こる予想外なハプニングの対処に役に立つ…かも…。
わかったわ、秀ちゃんの口車に乗ってあげる。
その代わりフォローよろしく。」
「ああ。」
なんとなく地雷を自ら埋め込んでしまった気がしたが、
仕方がないと諦める。
「梓さん、愛が手伝ってくれるって。」
「えっ、いいの、アイちゃん?」
「まあ、仕方がないから、
べ、別に秀ちゃんに唆されたとかじゃないから、
ほら、さっさとやり方を教えてよ。」
そういって梓さんを奥に連れて行く。
梓さんの口元は緩んでいて、
一瞬こちらに顔を向けた気がした。
ありがとう
こう口が動いたように思う。
ナポリタンを口に入れる。
少し冷めていた。
まあ、こんなのも偶にはいいかと、二人の様子を眺めていた。