3 現状確認と桐生龍馬
「アイちゃ〜ん、おはよう!」
ビクッ!
「おはよー。」
男は愛に挨拶をして去っていく。
「49人目か、
お前本当にモテるんだな?」
「ハイドウモ。」
どうせ他にも言いたいことがあるんでしょうと、
ジト目だ。
まあ、そうなんだが…。
「それにしても見事に男だけだな。」
「…。」
ほら来た、
となんとも言えない表情を浮かべ、
行き場のない怒りからか、俺を軽く睨む。
今日、前世以来、一年ぶりくらいに一緒に登校している。
その目的は、
「確認はもう済んだでしょ?」
そう現状の確認のためだ。
もしかしたら愛の想定と違って、
愛に被害妄想という悪癖が存在するだけかもしれないわけだし、
何より自分の目や感覚で感じ取らなければ信じきれなかった。
しかし、結果は火を見るよりも明らか、
人に興味がなさ過ぎて鈍感やれ、朴念仁やれ、
前世は木や石だったんじゃないの、
と言われる俺でも感じ取れる敵意でいっぱい。
感心する。
むしろ凄いなと口に出してしまいそうになり、
口を噤む。
そういえば、こいつ男性恐怖症気味なんだっけ。
ああ…てことは、味方が…。
「なに?」
「いや、頑張ろうな。」
愛はどうせまたいじられるのだろうと思っていたのだろう、
目を見開いてこちらを見たと思うと、
視線を地面へと向けてしまった。
「えっと…うん…。」
―
「おはよう、愛。」
教室に入ると、
早速男が寄ってきた。
おいおい、いきなりかよ。
自然と苦笑いが浮かぶ。
すると、人波が割れてきた。
桐生龍馬。
このクラスの男子たちのトップだ。
愛が完全に俺に隠れた。
そうこいつは攻略キャラの一人だ。
傍若無人のイケメン。
「秀介くん、ちと退いてくれる。
愛に挨拶したいから。」
俺が視線を送るも、愛は俯き、首を振る。
龍馬にも愛の様子が見えていたのだろう。
表情が変わる。
苛立たしげに埒が明かないと、
俺の肩を押し、愛へと手を伸ばしてきた。
龍馬の手を掴む。
「よるな、
龍馬、嫌がっていいるだろう。」
「は?
なに言ってんの、秀介くん、別に嫌がってないっしょ。
そういうお前こそ離れてくれる?
俺、愛と大事な話があっから。」
「悪いけど無理だな。」
「は?なに言っちゃってんの?」
龍馬の表情に怒りが濃くなる。
喧嘩っ早い龍馬の手を引き、俺に近づける。
余計なことされる前に距離を詰め、
龍馬だけに聞こえるように言葉を発する。
「お前がもう少し紳士だったなら、俺も口を出さなかったんだがな。」
すると、龍馬の表情が二転三転させた。
己の行いを省みたのだろう。
愛を見たあと、俺に舌打ちをして、
教室を出ていってしまった。
さて、さっさと席について…
そう思い自分の席を目指して歩き始めんとするとなにかに
引っ張られるような感触がした。
愛は俺の服の裾を掴んで下を向いていた。
俺が優しく手を掴んで、
「大丈夫だから。」こう言うと、手を離してくれた。
―
俺がトイレから帰ってくると、
愛の机の前に委員長がいた。
愛がなにやら謝っているようだ。
「委員長、さっきのは俺が悪いんだから。
愛のことは許してやってくれないか?」
これ以上、女子に悪印象を抱かれるのは可哀想だ。
「秀介くん、なにを勘違いしているのかわかりませんが、
私は杜若さんに進路調査票を提出するように言っていただけですよ。」
「あれ?そうなのか?」
愛は頷く。
というか、さっきからなんか無口じゃないかこいつ。
ああ、なんだ、ただのコミュ障か、
と納得していると、
委員長は呆れたように呟く。
「はあ、秀介くんも愛さんの色香にやられてしまったのですね。」
「いや、まったく。
ただの幼馴染として、放っておけなかっただけ。」
「は?」
「いや、ほんとに。」
すると、愛は呆然とした様子を見せ、頬を膨らました。
委員長は同情するように愛の肩を叩くのだった。
ん?これは…。
―
誰もいないバスケ部の部室。
「クソが、クソが、クソがあぁぁぁっ!?アァァァァァーーーッ!!!」
近くにあったゴミ箱を蹴り飛ばす。
何度も何度も、何度も何度も何度も…ボコッ!
穴が空くと、それを踏み潰し、バラバラになるまでそれを続けた。
すると、遂には、ゴミ箱は用をなさない姿へと変わり、その怒りも形を無くそうとしていた。
「…ふう……負け犬のくせしやがって…。」
キイッ!
ガタンっ!
ゴミが撒き散らされた部室を後にした。