19 秀介の膝枕
公園のベンチにて。
「う、うう〜ん…うん?」
愛が目を覚ますと、視界に入って来たのは自身の頭を撫でている秀介の顔だった。
「あれ?秀ちゃん?」
「おはよう。」
「うん、おはよう。」
頭を撫でられる心地良さと、後頭部に感じる秀介の体温に再び眠気がやって来た。
そうやって微睡んでいると、ふと自分の状況に気がつき、一瞬で覚醒した。
「え、えっと…なにをしているので?」
「ん?膝枕。」
「えっ、膝枕っ!?なんでっ!?」
「いや、お前、映画見てそのまま寝たんだよ。」
「え、えっ?」
顔を真っ赤にして身悶える愛。
その愛に対し、秀介は容赦なく言葉を続ける。
「起きたならどいてほしいんだが?」
「ご、ごめんなさいっ!?」
思わず起き上がり、ベンチの端のほうでハアハアと息を整える愛。
そんな愛をぼ〜っと眺めていると、落ち着いたのか、顔は真っ赤のままだったが、秀介を睨みつけ、なにやら唸っている。
「どうかしたのか?」
「…なんでも…ないもん。」
「そうか。」
「…そうかってなんだよ…もう…。」
愛はそんな秀介の反応が気に入らない。
なんでかわからないが、気に入らない。
よしこうなったら……。
また碌でもないことを考え始めたが、秀介に返り討ちに遭い、反省させられたことを思い出し、踏みとどまる。
しかし、口は止まらない。
「…なんで起こしてくれなかったの…。」
「ん?ああ…お前だってあんまり寝てなかっただろ?」
「…えっ?」
「なんでかクマはできてなかったみたいだけど、少しいつもよりテンションの上下が激しかったからな…あれってお前が完徹した時に多い。だから起こさなかった。」
「…。」
愛は予想外だった。
秀介はきっと自分のことなんか見ていないのだろうと思っていたからだ。
今も…そして昔も。
しかし、どうやら違ったらしい。
愛が秀介のことを良く見ていたように、秀介もそうだった。
そのことが物凄く嬉しくて、愛は顔がニヤけるのを抑えるので必死だった。
秀介にこれ以上なにかを言われたら、きっと我慢ができない。
そんなことを知ってか知らずか、秀介は追い討ちをかけた。
「それにあんなに気持ち良さそうな寝顔をしていたら、起こすのは可哀想だろ?」
「…ちょっとあっち向いてて。」
「ん?」
「いいからっ!」
俯いたまま、無理やり秀介に後ろを向かせると、愛はだらしない笑顔を浮かべていた。
…優しい…優しすぎるよ、秀ちゃん…。
愛がかなり眠っていたため、それなりの時間になってしまった。
今日のデートはお開きとなり、一緒に帰宅の途につくこととなった。
―
そして、後日、学校にて。
「秀ちゃ〜んっ!!」
「ん?」
振り向くと、愛が秀介の首元を掴みガクンガクン揺らす。
「あなた、あなたって人はっ!!」
街中をお姫様抱っこで運ぶなんて何考えてるのっ!!
愛の大音声が学校中に響き渡った。
やっぱり秀介にはがっかりさせられる愛だった。