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15 久々に図書室に行く

「絶対に待っていてよね!」


例の如く委員長の手伝いで学校に残る愛にこんな風に言われてしまったため、普段通りの帰途をたどることなく、暇をつぶす必要性に駆られた秀介は、久々に図書室へと訪れていた。


部活動に入っていない生徒が放課後の時間を学校で潰す方法など限られている。


そのためか進路指導や生徒会の手伝いの前などがあった一時期はよくここに入り浸っていた。


そのせいか友人とも、可愛い後輩とでも呼べる人物ができた。


彼女も吹奏楽部の兄のことを待っているため、

よく顔を合わせたのだが、今日はいるだろうか?


久々に顔を拝んでおきたいと期待しつつ、横開きの戸を開けると、誰もいない…いや、端っこのところに一人だけ座っていた。


どうやらお目当ての人物がいたらしい。


そこは彼女が入学した後からの特等席となっている場所で、テスト前などの人が入り乱れる時以外は意図的にその場所は空けられていて、幼さの残った整った容姿が夕陽に照らされ、どこか儚げな雰囲気を放っている。


近づいて見るとわかるが、淡い光に照らされキラキラと輝く髪は金色で枝毛の一つもない。


瞳は澄んだ蒼い色をしていて、唇は薄いピンク色。


今は集中しているせいか、どこか綺麗な印象が強い。


どうやら件の人物、栗谷佐那佳は俺の存在には気がついていないらしい。


黙々と本の世界へとのめり込んでいる。


つい悪戯心が鎌首をもたげるが、

二人以外誰もいないとはいえ、ここが図書室のせいか、

はたまたそっとしておいてやりたい気分が勝ったためか、

テキトーに本を見繕い佐那佳の隣へと腰を下ろす。


それからどれほどか時間が経った頃、隣で本が閉じられる音が聞こえた。


「ん~~んっ!?」


どうやら気がついたらしい。


「せ、先輩っ!?」


俺は唇に人差し指を添える。


それを見て、あっ!と周りを確認する佐那佳。


「って、誰もいないのっ!?」


前述の通りここには俺と彼女しかいない。


「誰もいないからって図書室のルールを守らない道理などないだろう?」


「まあ、それはそうなの…でも、教えてほしかったの…。」


「そりゃ、悪かったな。」


「ホントにそう…ずっと待ってたの。先輩に会いたくて。」


「なんで?」


「なんでって…それは…。」


「まあ、俺も佐那佳に会いたくてここに来たんだがな。」


「えっ?」


「なんとなくそんな気分になることもあるだろ?」


そう秀介が口にすると、佐那佳は俯いてしまう。


「…うん、そうなの。私もそんな感じ…なの。」


…ずっと。


そんな言葉が聞こえ、頬がほのかに色づいていた気がしたが、夕陽のせいかもしれない。


そこから、誰もいない図書室で少し滑稽だが、顔を寄せ合い世間話なんかをしていると、携帯のバイブが反応した。


そのため、席を立つと袖を不意に掴まれる。


「もう行っちゃうの?」


非力でどこか寂しげな佐那佳の様子に後ろ髪を引かれる思いだったが、愛を待たせるのも後々面倒な気がしたため、

うりうりと頭を撫でてやると、自然に手が離れた。


「また来てほしいの。」


カバンを手に取ると、そうぎゅっと腕に抱きつかれ、

佐那佳が離れたのを確認すると、秀介は図書室を後にする。


「またな。」


「うん。」


これが久々の佐那佳との触れあいだった。


双子の兄の栗谷優也ともたまには遊びに行ってやるか、

などと思いつつ、教室へ戻ると、委員長はどうやら先に帰ったらしくどこかぶすっとした顔の愛が残されるのみとなっていた。


そして、愛様はおっしゃった。



「秀ちゃん!明日デートするわよ!異論は認めないから!」



愛の急なこの言葉に俺はもちろんこう返した。


「普通に嫌だけど?」


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