1 嫌われ者の幼馴染はゆりゆりしたいらしい
俺は乙女ゲーの世界に転生した。
【ときどきハイスクールメモリアル】の世界に。
俺こと、鷲尾秀介は普通の高校生として、
普通に生きていた。
トラックにはねられることも、
通り魔に刺されることも、
魔法陣にうっかり飛び込むこともなく…。
しかし、幼馴染は神様の手違いで死んでしまったらしい。
それならば、お前には関係ないだろうって、
そう、俺には関係がなく、被害なく、
亡くなった幼馴染を追悼してそれからも元の世界で普通の生活が続くはずだったのだ。
しかし、俺の幼馴染はとち狂っていた。
そして、幼馴染はおっしゃった。
「ねえ、ついでだからさ、
私の幼馴染の秀ちゃんも同じ世界に転生させてよ。」と。
…了承されるはずのないその願い、それは了承された。
俺は…いや、そして俺まで異世界へ。
こうして、
俺はこのゲームの攻略キャラの鷹尾秀介として生きていくことになった。
まあ、キャラ性は思いっきり無視したが…。
幼馴染は、
そんな可哀想な可哀想な俺のことを無視して、
自分勝手、好き勝手にこの世界の男どもの海に溺れた。
片っ端から、ヒロインの杜若愛として、男の純情を弄び、
イケメンたちを従え、
最低な青春を謳歌していた。
そんな彼女とは対象的に、
俺はこの一年間、元の世界と同じように自分らしく普段どおりに生活していた。
飯をしっかりと食って、
勉強して、運動して、趣味の読書にせいをだし、
時折バイトもして、
のんびりと学園生活を堪能していた。
そんな自分なりの学園生活謳歌していた俺に、
同じように我が道を行き、逆ハーレムを謳歌していたはずの愛が急にこんなことを言い始めた。
「もう嫌なのっ!」
「は?なにが?」
読書の邪魔をしないでほしい。
面倒は自分で解決しろよ、
と口には出さないが、
俺が本に集中して適当に流そうと、
考えているのがわかったのだろう。
俺から文庫本を取り上げてしまう。
その目はどこか涙目で、どこか怒りもはらんでいる気がした。
仕方がないので、話くらいは聞いてやろう。
どうぞと手をやる。
「で?なに?」
「もう私、嫌なの。
男なんて大っ嫌い。」
話を聞くと、
いろいろとあって嫌気が差してしまったらしい。
「だってみんな私の身体を求めてくるんだよっ!」
最近ではデートのたびにホテルに連れ込まれそうになったり、
唇を奪われそうになっていたらしい。
それも恋人になった攻略キャラ5人から。
普通の一対一の恋愛なら同情し、
愛の味方をしただろうが、
所構わず好みの男に思わせぶりな態度を取り続けたのは、
愛なので、
今回は事情が少し違うため、俺の言葉も異なる。
「…いや、それは当然だろ。」
てっきりあれだけの男たちを侍らせているのだから、
最悪の場合、
性奴隷になっても仕方がないとすら考えていると思っていたのだが、
どうやらそこまでは考えていなかったらしい。
彼女は自分の思いを独白する。
「私としては、みんなに程よくチヤホヤしてくれれば良かったのに…。」
「阿呆か、
相手も人間だぞ。
そんな自分勝手通じるはずないだろ?」
「うっ…確かにそうだけど、
その点は本当に失念してたけど、
自分勝手でもいいじゃない。
だって、私を襲おうとした男たちだってそうでしょ?」
「…。」
それを言われると弱い。
合意の上ではないようだし…いや、でもあそこまで思わせぶりだと…う〜ん…。
なんとも言えない。
俺自身二転三転するくらいに事情は難しい。
なにせ俺には全容はどうあってもつかめないのだから。
「だから!私はこれからゆりゆりするのっ!」
「…いや、それはおかしいだろ。」
反省しろと声高に叫びたい。
「おかしくないから!
だって男がダメなら女に行くしかないでしょ!」
…なんでそこはそんなにポジティブなんだよ。
少しは落ち込んで大人しくしていろよ。
こんなことを言っても、
どうせ無駄だと覚った俺は付き合ってられないとばかりに、
「…あっそ、勝手にすれば。」
話は終わりだと、別の文庫本を開く。
すると、愛は妙なことを言い始めた。
「だから秀ちゃん、手伝って。」
「は?」視線を走らせた本を思わず閉じる。
「だから、手伝って。」
手伝うって、彼女を作るのを?
女同士で付き合うために?
彼女すらいたことのない俺にはハードすぎるだろ。
「いや、普通に嫌だけど、
別に男みたいに嫌っているわけじゃないんだから、
自分でやれば?
相手がいるからわからないけど、
口説くことは一人でできるだろ?」
すると、愛は急に目をそらし、笑い始めた。
「え、えっと〜…あは、あははは。」
嫌な予感がする。
「…なあ、なにをした?
怒らないから、話せって。」
「なに、うん、なにをしちゃったんだろうね?あは、あはは…。」
笑って誤魔化す愛を問い詰める。
すると、案外あっさり壁ドンしたら、話した。
たぶん男性恐怖症のせいだろう。
…まったくこいつは。
話を聞くと、
結ばれそうになりつつあった男女を引き離したり、
自分好みに男の性格を変えたり、
生徒会にも教師にも多大な迷惑を掛けたらしい。
男遊びの過程でかなりの女子と敵対してしまい、
もうまともに話せる相手は誰もいないということらしい。
一部知っていることもあったが、
ほぼ初耳のことばかり。
もう自業自得過ぎて笑えない。
完全に孤立無援。
この状態を俺にどうにかしろと…冗談だろう?