師弟とドラゴンの話
鱗がびっしりと生え羽を持つ巨大なトカゲを乗せた荷車が巨大な角を持つ4本足の獣2頭に引かれ進み、その周りを多くの兵が取り囲み進んでいた。
その様子を道から外れて観察していた2人の人影があった。1人は大柄で深くフードを被っており体格以外はわからない人物カイともう1人は長くきれいな青い髪の毛を持ち皮で作られている肩掛けの鞄を持った小柄な女性イリスだった。
「大きなドラゴンだな。これはどうしたんだ」
イリスが目の前を通った陽気で口が軽そうな兵に問いかける。兵は少し戸惑いを見せたが質問に答えた。
「村近くの街道に突然現れたドラゴンらしいぞ」
「突然、現れたのだな。原因とかってわかっているのか?」
「原因というほどじゃないが最近どこぞの貴族様が魔獣集めにハマってるらしくてな。今回の村でも貴族様が使う荷車を見たって言ってる奴もいたらしい」
兵は声を潜めイリスへ耳打ちして質問に答えた。それに対してイリスも耳打ちで礼を伝え、その内容は荷車を見送った後にカイへと伝えられた。
「やはり、昨日のドラゴンは人為的に運び込まれていたものですか」
「そうだろうな。人に害をなす恐れがある生きている魔獣の運搬は基本的にどの国でも禁止されている。魔獣の中でも脅威度が高いドラゴンを運搬していたと知られれば貴族であっても極刑は避けられんだろうな」
2人と運ばれていたドラゴンは接点があった。兵は話さなかったが兵たちが村へ着いた時にはすでにイリスたちによって討伐された後であった。
イリスたちはカテラ王国の白銀騎士との戦闘を行った翌日には街を離れ、そこから1か月ほど移動を行い国境を越え、やっとの思いで宿泊した村近くの街道でドラゴンが発生する騒ぎを受けた。
そして、ドラゴン発生の混乱に乗じて正体がバレないようコッソリと素早く討伐したのだった。
「今回の目的は魔獣集めをしている貴族探しにしますか?」
「貴族探しもかねて本来の目的通りダンジョンに潜るとしよう」
「了解です」
2人は荷車の後を追うように道を歩き始めてた。その後すぐに足の遅い荷車に追いつき、荷車の後ろを歩きながら本来の倍近い時間をかけて夕暮れ時に何とか街の中へと入ることができた。
「さすがはダンジョンがある街ですね」
街の中へと入ったカイの一言目はこれだった。その一言は街を囲む高い壁、1か月前に滞在していたカジノで栄えていた街よりも多い人を見ての一言だった。
「足を止めるなよ。このままダンジョン管理所まで歩いていくからな」
イリスは人波をスルスルとすり抜けるように歩いていく。これが普通の子供や小柄な女性であれば誘拐を気にしなければならない所だが、イリスを誘拐することはもちろんただの悪人では悪意を持って触れることすらできないことをカイは知っているので姿の見えないイリスを追うことに専念した。
カイが目的に建物にたどり着いた時には完全に日が沈んでいた。
「遅かったな」
「師匠は体が小さいので人の間を抜けられるかもしれませんが、普通はこれぐらい時間が必要ですよ」
「まぁいい。この街の管理所は登録だけならこの時間でも間に合うはずだ。いくぞ」
管理所は入口よりの前半部とその奥の後半部をカウンターで仕切っているような構造をしており前半部には紙を張り付けた掲示板のようなものや丸机と椅子が雑多に置かれていた。
イリスはまっすぐ登録受付と書かれている窓口まで進んでいく。
「ダンジョンに入るための登録を頼む」
窓口にいた管理所の職員である女性は多少戸惑いを見せながらイリスとカイを観察するように見る。
「申し訳ないのですが登録できる年齢には下限がありましてご年齢をお聞きしても」
「だそうだが、カイはいくつだったか?」
「おそらく、受付の方は師匠の年齢を訪ねているのでは」
カイの回答によって女性の問いの意味を理解したイリスは鞄から金属の束を取り女性に見せる。
「今回の登録は私の弟子だけでよい。この管理所の登録証は持っているからな」
女性は金属の束すべてがどこかの登録証であると気づき、目を開いて驚いたがなんとかプロ根性で立ち直りカイの登録のために手続きを進める。
「まずはこの紙のこの欄に名前を記入していただいて、魔方陣へ魔力を流していただけますか」
カイは言われたとおりに紙に名前を記入し、名前記入欄の横にあった魔法陣へと魔力を流す。
魔力を流された魔法陣は輝きを放ち、紙自体が縮み始め最終的には金属の板へと変化した。
「これで管理所への登録および登録証の発行は終了になります。ここからは登録を終えた方、攻略者の方へしている説明になります。知っていると思いますがダンジョンはただの大きな洞窟ではありません」
この後、始まった説明はそこまで長いものではなかった。ダンジョンとは魔力が異常に発生している特殊な洞窟で現在まで世界各地にあるどのダンジョンでも最下層が確認されていない。
そこに発生する生物を魔獣と言い、魔獣は地上の生物よりも狂暴でありその魔獣の討伐とダンジョンの探索が攻略者という職業の仕事ということ。注意事項としてダンジョン攻略に向かう際には必ず登録証を持っていくことだった。
女性の説明を途中でイリスが長いと止めに入り、端折った説明をイリスが行ったことで女性の仕事を奪うことになっていたが。
最後にイリスが管理所近くにある宿の場所を聞き、そのまま管理所を後にした。
「最初の宿に空きがあってよかったですね」
「そうだな。管理所から近くてもダンジョンから遠いからな。空いているとは思っていたよ」
基本的に攻略者は管理所に来ることは少ない。管理所を訪れる人の目的の多くは登録であり、その周囲にある宿は登録したての初心者ぐらいしか利用する客はおらず、金を持ち始めた攻略者の多くは利便性を重視してダンジョン近くに宿を移す。
そのため管理所周囲にある宿で多少値が張る部屋などは空き部屋であることが多い。生活費は多少余裕があるイリスたちにとってそういう部屋はねらい目だった。
「明日は朝からダンジョンに潜りますか?」
「そうだな。ダンジョン内部に変化がなければ下の階層まで潜れるだろうし朝から潜ろうか」
「「おやすみ」」
2人はいつも通り1つのベッドに2人で横になり眠りに落ちていった。