第一章 5話
「失敗したって聞いたよん、イァン。」
サィトは、くすくす笑いながらイァンの肩を叩きました。
「ふん。ちょっと遊んだだけさ。まだ本気じゃない。」
イァンはその手を振り払って、お店の奥に引っ込みました。
「しかし、妙だな。誰が、植物ゴリラたちをやっつけたんだ?」
イァンは不思議に思いました。あの植物ゴリラたちは、人間の武器では倒せない仕組みにしていたはずでした。しかし、フタを開けてみれば、全滅していました。
「誰か、人間じゃない奴が、俺たちの邪魔をしているな。」
イァンは、その正体を探りたくなりました。
「現場を調べてみよう。」
イァンは、サィトのお店を出て、町へ向かいました。
「とほほ……。」
とうふは、公園で爆弾処理をさせられていました。
「君の友達がやったんだろ? ちゃんと責任取ってくれ。」
お巡りさんが言います。
マッチぼうやは、町中に爆弾をしかけるだけしかけたまま、どこかへ行ってしまったのです。彼の友達だと思われたとうふは、その後始末をさせられるハメになりました。体のもろいとうふでもコケるくらいで済むので、爆発しても大した威力ではないのですが、放置するわけにもいきません。
「ぼくは、悪くないのになあ。」
ぶつぶつ言いながら、とうふは爆弾を探しました。見つけたときは、遠くに投げて爆発させて、壊します。そうして、十数個爆発させたときでした。
「ぎえー!」
爆弾を投げた先で、誰かの叫び声がしました。人に向けて投げたつもりはなかったのですが、とうふはノーコンなので、変な方向に飛んでいき、誰かに当たってしまったようです。
「うわぁ、めんどくさい。」
とうふは、酷いことをつぶやきながら、仕方なく謝りに行きました。
「あのー。すみません。」
「お前が投げたのか。」
食らったのは、人間ではなく、耳の長い、とうふと同じくらいの大きさの、ボーリングのように丸い生物でした。
「はい。ごめんなさい。でもぼくがぜんぶ悪いわけじゃなくて……。」
とうふはすかさず言い訳をしました。もう、ぜんぶマッチぼうやのせいにするべきだと考えました。植物ゴリラの出現からすべての出来事を、マッチぼうや一人がやったことのように話しました。
「というわけで、そのマッチぼうやは、町中に爆弾をしかけたまま逃げて、たまたま近くにいたぼくが仲間だと思われて、処理をさせられて……」
マッチぼうやと協力して町を救ったことは隠しました。話すと、いま爆弾をぶつけた責任も取らされそうだからです。悔しいですが、この場は仕方なく、町もマッチぼうや一人が救ったことにしたのでした。
「ふうん。マッチぼうやとかいう奴が……。」
イァンは興味深そうに聞いていました。
「はい。なんか神様に命をもらったとか言って、頭のおかしい奴でした。」
「神だと……?」
イァンの表情が曇りました。しばらく考え込んだあと、イァンは顔を上げました。
「よし、面白いこと聞けたから許してやる。そのマッチやろうはどこ行った?」
「わかりませんが、たくさんのお菓子を持って、北の方へ向かったと思います。」
「サンキュー。」
イァンは、すたすたと北へ向かって歩いていきました。
「ふう。なんとかごまかせた。」
とうふは、爆弾処理作業に戻りました。
数時間後、たくさんの人々が北から逃げてきました。洪水のように押し寄せる人並みに、作業中のとうふは潰されかけました。
「なんだ、なんだ?」
とうふは脇道に逃げ込みました。
人々は慌てた顔で、何やら騒ぎ立てながら走り去っていきます。爆弾、爆弾という単語が聞き取れます。とうふは、嫌な予感がしました。
「逃げろ! 爆弾が……爆弾の化け物が襲ってくるぞ!」
悲鳴に近いその叫び声を聞き、とうふは道から顔を出しました。そして、それを見て仰天しました。観覧車ほどの大きな爆弾が、のっしのっしとこちらに歩いてくるのです。しかもその表情は般若のように怒りにゆがみ、目も真っ赤で、とても冷静な状態とは思えません。
「な……なんだあれ!?」
とうふはゾッとしました。
怪物。
とうてい、戦って勝てる相手ではありません。
爆弾ということは、もしかしてマッチぼうやに関係が……?
とうふがそう思った瞬間、その巨大な爆弾怪物は、町全体をふるわせるほど大きな咆哮をはなち、大爆発しました。
「ぐわあああ!!」
村正が瞬時にバリアを張ってくれて、とうふは一命を取り止めましたが、町からはるか遠くまで飛ばされてしまいました。体は焼け焦げ、起き上がれません。町がどうなったのかも分かりません。
「ここは……どこだ?」
気づくと、どことも知れぬ場所で、目も開けられず、とうふは痛みにあえぎ、這いつくばっていました。
やがて、とうふに近づいてくる影がありました。
「お父さん、焼き豆腐が落ちてるよ。」
「こんな砂漠のど真ん中に? めずらしい。」
親子の声でした。
「ねえ、持って帰ろうよ!」
「よし。晩御飯に出そう」
とうふは拾い上げられました。返事もできず、とうふはそこで気を失いました。