第一章 11話
「めちゃくちゃだあ。」
板橋は、すっかり様変わりしていました。
木々は抜かれ、ビルは崩れ、店もほとんど閉店しています。周りも植物チビゴリラだらけです。とうふは、そのチビゴリラたちをメカラクダで蹴り弾きながら、途方に暮れました。
「刀のおじさんのお店、どこだったっけなあ。」
ボロボロの町並みを見回すも、どこがどこだかまったく分からないのです。
「ピピ。村正のニおイをかげバ、そレをたドって店に行ケまス。しュうまイ。」
メカラクダは村正に顔を近づけました。
「こっちくんな!」
村正はメカラクダの顔面をはたきました。
「ガピピ。ぎョうざカレー。」
メカラクダは、ぎゅうーんという変な音を立てて、止まりました。どうやら、打ち所が悪かったようで、故障してしまったようです。
とうふはちょっと困った顔をしましたが、まあ、うるさいケンカがしばらくおさまるならいいか、と深く考えませんでした。
「とりあえず、このラクダは置いていこう。」
とうふはメカラクダから降りました。
そして、ふと前を見ました。
とうふは驚きました。
なんと、そこにはマッチぼうやが立っていたのです。
いつの間にこんな近くまで来ていたのでしょう。とうふはまったく気づきませんでした。まるで、どこかから瞬間移動してきたかのようです。
「よう……とうふ。」
マッチぼうやは、うつむいた顔で、にやりと笑い、手を挙げました。
妙な雰囲気でした。以前出会ったときのような元気を感じません。やせ細り、猫背になって、顔色も暗く、なんだか病人のようです。けれどとうふは気にせず、駆け寄りました。
「マッチぼうや! よかった! 無事だったんだな!」
次の瞬間、マッチぼうやは爆弾を取り出し、とうふに投げつけました。
「ぐわあああ!」
爆発に巻き込まれ、とうふは久々に死にました。
「はっ!」
とうふは目覚めました。どこかのスーパーの豆腐売り場でした。数ある豆腐のなかで、とうふだけが意志を持っています。
「ぐぐ……」
とうふは起き上がろうとしましたが、体がうまく動きません。新しいとうふの体は、まったく鍛えられていないため、筋肉や神経が弱いのでした。
「まいったなあ。」
思い通りに動けるようになるには、また時間をかけて鍛え直す必要がありそうです。
「どこだろう。ここのスーパーは。」
とうふは、なんとか豆腐の海から抜け出して、通路に降り立ちました。あまり馴染みのない陳列やポップが目立ちます。板橋は滅ぼされているので、ここは別の区のスーパーなのかもしれません。
「しかし、マッチぼうやのやつ。ひどいなあ。」
凶暴だとは分かっていたが、まさか敵でないぼくを爆破させるような奴だったとは。とうふは口をとがらせました。
「村正もラクダもいないし、早く元の場所に戻らなくちゃ。」
死ぬと不便なのは、体力が0に戻るだけでなく、魂がどこへ移動するかわからないことでした。それに、神様の気分によっては、生き返れず、本当に死んでしまう可能性だってあります。むやみに死ぬのは良くない、そう思って、とうふは今まで、なるべく死なないように努めてきました。
「かみさまー! どうすればいいですかー!」
久しぶりに神様に話しかけてみたものの、返事はありません。
代わりに、スーパー内のラジオから、緊急ニュースが流れてきました。
「本日未明、マッチ棒のような生物が、ラクダにまたがり、刀を振り回しながら、さいたま市を爆破している様子が撮影されました。近隣住民は、急いで逃げてください。」
なんてことだ。とうふは焦りました。マッチぼうやが、町を襲っているようです。しかも、内容からすると、村正やメカラクダも利用しているのかもしれません。
さらに、報道は続きます。
「いっぽう、観覧車爆弾は、今度は千葉方面に向かっています。千葉の方々は、避難してください。」
最初に現れたあの巨大な爆弾の化け物です。あれは、引き続き関東を侵攻しているようです。自衛隊も、警察も、誰も止めることができていないようでした。
「このままじゃ、本当に日本が滅びちゃう。」
なんとかしたいと思うものの、とうふは、いま自分がどこにいるのかすら分かっていません。体力もない、武器も無いし、仲間もいない。すぐに死んでしまうだけの存在。旅や修行をがんばったものの、とうふは結局、世界の危機に対して、あまりにも無力でした。とうふは今、それを強く実感したのです。
とうふは、悲しさと自分の情けなさと、怒りにうち震えました。
「つよくなりたい。もっと。武器とか道具だけに頼らず、自分自身が、もっと強くなりたい。ぼくがもっと強ければ、みんなを守れるのに。」
そう強く願った瞬間、とうふの体が光り輝き始めました。
「なんだ、なんだ?」
周りのお客さんたちは、驚いてざわつき、一斉にとうふを見つめました。
「うおおああああ!!!」
とうふの体からとてつもない力が溢れてきました。
どんどん体が大きくなっていきます。
「うわー! なんだこの豆腐!」
周りの人々は、とうふの体に押されて、スーパーの外へ吹っ飛びました。
「ぎゃああ!」
「いたい!」
「おかあさーーん!」
とうふの膨張は止まらず、スーパーを破壊して、さらに大きくなっていきました。
とうふは叫びました。
「ぐおおあああ!!」
とうふはなんと、ビルの怪獣のように大きくなりました。
しかし自分の重さを支えきれず崩れて死にました。




