1日目 羅漢 冬馬『思春期的欲求と思考』
26歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
25歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
24歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
23歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
22歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
21歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
20歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
19歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
18歳の巨乳で美人のお姉さんに会える。
17歳の巨乳のお姉さんに会える。
街に降りる際に、俺は常に持ち歩いている手帳に書き込んだ。
これで絶対に巨乳のお姉さんに会えるぜひゃっほほほーい!
ほんとこの能力のいいところは出会いが絶対にあることだぜ!
ダメなところはなんでもはできないこと、相手の気持ちに左右されることはできないこと。
つまり洗脳的なことをしてエロ漫画のようなことはできないってことだ。ちゃんとしすぎててつまらん。
でも出会って仲良くなって少しでも俺に心許せばそういうことは可能になる。
むふふ。
それのおかげで俺は今までハーレムを作り上げてきたのだ!
流石にクラスメイトにやろうとは思わなかったが。
それで友情とかが壊れでもしたらやだし、二股三股やろとかは思われたくないし。
それに普通に仲のいい女友達というのは欲しいし。
でも朝金はマジで俺のタイプだった。
顔はいいし胸はあるし、でも性格はいただけない。
俺がおとして性格を矯正してやろうと思ったが、とりあえずダメ元で何個かエロ方面の願いも書いたら、まさかまさかのそのうちの一つ、俺にパンツを見せるという願いが叶った。
それはつまり俺のことを信用しているということで、訳がわからなかった。
出会った直後クラス全体に向けて、お前らなんか全員豚の餌になって生きたまま食われて仕舞えばいいと言っていて、ブーイングコールが鳴り止まないクラスの中で、いい悪意だわ!と叫んでいた女が俺に一目惚れでもしたのか?
あり得ないことじゃないが、少しずつ質問していくと、あぁこれ、矯正なんてできねぇやと諦める結果になった。
あいつの意識を変えるには、殺人がどんな状況下であろうとも最も重い犯罪であるという、誰もが持ち合わせている感覚を覆さなくてはいけなくなってしまう。
それは俺には無理だった。
言葉を尽くしてお前は悪くないと言ったが、あいつは頑なに私が悪いの一点張り。
どうしようもできなかった代わりに、俺はどうもしなかった。
それから数日は気分が悪くて家に引きこもっていたが、まぁそんなのは昔の話。
今は俺の元に現れる女性を待つんだい!
早く現れてぇ!マイガール!
「ちょっといいかしら。そこのお兄さん」
はい来ました!待ってました!
どんな美人さんですか⁈
「・・・・・・・・・・・ぉぉぅ」
なんというか。
俺の好みを完全に実体化したような人だった。
体つきや口調、顔のパーツ一つ一つなんて話じゃなくて、極端に言えば、細胞の一つ一つが俺を虜にするためだけに生まれてきたような、そんなあるはずのない錯覚を起こしてしまう。
そのくらい、俺の好みを網羅的に全て兼ね備えている女性だった。
では俺の持ち得る語彙を尽くして、伝えきれるはずのない彼女の容姿を褒めちぎって、讃えまくって、賞賛しよう!
まずはその体。
誰がどこを見ようと魅了されてしまうこと間違いなし!
たとえ足フェチだろうと腰フェチだろうと、その魅力の前には運動した後の犬のように!いや、こんなマイルドな表現ではダメだ。たとえ人に見られたら悶絶して死にたくなるような言葉でも使わなくては彼女を褒めたことにはならないだろう。彼女の美しさを表すことはできないだろう!だから俺は恥を捨てる!恥を忍んでなんていう無粋極まりないことは言わない!恥を捨てる!彼女の体の前にはどれだけ女に興味がないとイキがっている中学生でも、発情した犬のようになることは間違いがない!そして全ての全人類の男子が好きな胸はいうに及ばず!F?いやいや、G?いやいやいやいや!Hすらも通り越してiカップ!彼女の胸の、いやこれは下世話すぎる言葉だ、胸囲と言おう。彼女の胸囲はそれほどまでに大きく、たとえ服の布ごしであろうとも形が良く、弾力に豊んでいることがわかるほどのもので、それを目にして生唾を飲み込まずに「へっ、巨乳よりも貧乳の方がいいぜ!」なんて言える男なんていないだろう。いやだろうじゃない。いないんだ!
そして1番目を引かれるのがその瞳。
まるで空気が冷え切っている冬の夜空の星々をそのまま瞳の中に閉じ込めたような、光り輝く紺色の瞳。覗き込むまでもなく吸い込まれそうなほどで、永遠に見ていられそうなほどで、
「もしもし?何やらお考え事ですか?」
「いいえ!あなたの美しさに見入っていました!」
心配そうな顔をして首を傾げる。その動作すらも美しく見入っていまいそうになるが、それではまた言われてしまうから何かを返事しようとして本音を叫ぶ。
周りに人はいたが笑う者はおらず、全員頷いていた。彼女持ちの人も頷いて彼女に叩かれていたがそこは彼女よ、許してやってあげて欲しい。
彼女の美貌の前にはどんな男でも傅いてしまうのだから。
だから仕方ない。
そしてその女性が俺に話しかけてきたことに、今まで感じたことのないほどの優越感を感じながら「そ、それで、どんな御用でしょう?」と今まで使ったことのない言葉遣いで問う。
「ふふっ、私の用事というのは簡単なことよ」
女性は言って耳元に桜色で艶やかな唇を近づけてくる。
吐息が耳にかかり、平成を保とうとしていた理性が空気を入れすぎた風船のように破裂しそうになり、ふわりと漂ってくる花のような甘い匂いが鼻腔に入り、その匂いを感じるために思考力の大半が持っていかれて、正常な判断なんてできなくなっていて。まぁたとえ正常な判断ができていようと、彼女の誘いには乗ってしまっていただろうから、
羅漢冬馬が今日この日に死ぬことは、過去のように確定された未来だった。
「私と一緒に着いてきてくれるかしら?」
「はい喜んで!」
二つ返事でついていった先で待っていたのは、彼女とはまた別のタイプの美人が待っていた。
性格には髪はショートで前髪が目元を覆って彼女の目元を見ることができないので美人かどうかはわからないが、彼女と一緒にいるんだから美人に決まっている。そんなメカクレさんは恥ずかしそうに頬を染めて、胸の前で自分を守るように腕を交差させている。だというのに服装は昔懐かしのブルマのようなものと、花の刺繍が施されたスポーツブラのような、全体的に露出が多い服装でチグハグな印象だ。
そういえば彼女の美貌に見惚れていて服装を見ていなかったが、きっと彼女は服装もとても可憐な服を着ているのだろう。もしかしたら目の前の彼女のように露出の多い服だったからこそ服装に目がいかなかったのか?
だとしたらどれほど肌が見えている服をしているのか。まさかマイクロビキニのようなもう裸じゃねぇか!とツッコミを入れられるくらいなのか。
「それじゃあシュア、あとは教えた通りに、よろしくね」
「は、はいぃ!が、ががががんばりましゅ!」
シュアと呼ばれたメカクレさんは、かみかみで言いながら敬礼のようなものをする。
この世界でも敬礼は頭に手を当てることなのだろうか。
彼女はシュアちゃんの横を通り過ぎて俺に手を振って「バイバーい」と言って部屋を出ていった。まるでもう会うことがないみたいな言い方だったがそんなことはないはずだ。
いやでも彼女のように美しい人が俺だけのものになどなるはずもなく、もしかしたら本当にこれが最後なのかもしれない。
ああ!なぜ俺は彼女の姿を目に焼き付けていなかった!
だが俺のたいしてない記憶力を総動員して、彼女の姿をモンタージュのように作り出していくが、無粋なブスの訳のわからない人ができてしまった。
「くそ!やっぱり俺の記憶力じゃダメだ!」
「うぇぇ⁈ど、どどどどうしたんですかぁ⁈」
「いや、さっきのあの人の姿を思い出そうとして失敗しただけだ。自分の脳みそをいじくり回して記憶を取り戻したいと思ったのはこれが初めてだ」
「ふぇぇ、想像すると怖いですね、脳みそをいじくるって」
でもわかります。とシュアちゃんは頷いて手帳のようなものを取り出してサラサラと絵を描き始める。
そして「ど、どう、ですか?」と描き終わった絵を見せてくる。
その絵は彼女によく似ていた。
だが同じではない。
「で、ですよね。もう何回も書いているのに全然納得ができないんです。どこをどう直してもあの人には全然似ていない、近づかない。むしろ似てくるたびに違う違うって強く思うようになってきて、そういう時なんか、脳みそをいじくり回して、記憶を取り出して直に見たいって思うんですよ、でもやっぱいいどれだけ上手く模写しても、どれだけ腕のいい人が描いても、あの人の美しさを書き写すなんてことはできなくて、どう考えても紛い物にしかならなくて、邪魔で邪魔で」
そう言って、シュアちゃんは見せていた絵をビリビリに破く。
破いて破いて破いて破いて。
破いている間に床に落ちたものを拾って、部屋の隅にあるドラム缶の中に入れて、マッチを使って火をつけ焼き尽くす。
そのやり方はもう二度と見たくないと言っているかのようで、ある意味病的ではあったが、その気持ちはよくわかる。
見せてもらった絵は多少似ているだけで、彼女の美しさはどこからも感じなかった。
だから見たくはない。
彼女の美しさを損なうような絵を見せるなと、叫んで殴ってしまいたくなる衝動に一瞬だけ駆られたが、きっと彼女自身がそれを1番感じているのだろう。
だから焼き消した。
筆圧によって何を描いたかがわかってしまうことも防ぐために焼き尽くした。
ドラム缶の中で山になって半分以上埋め尽くしている灰を見ればどれだけ焼き消してきたかが窺い知れるというものだ。
シュアちゃんはきっと彼女のことが大好きなのだろう。俺と同じくらい。
パチパチと音を立てる火を少しの間眺めて、ハッと何かを思い出したように顔を上げて、部屋の端で積み重なっている椅子を2脚持ってきて、向かい合わせに置いて、
「ど、どうぞ、すすすっすわっ座って、ください」
と手を向ける。
差し向けられるままに椅子に座る。
「えと、えと、あの、あの人にはお話ししててって言われたんですけど、何を話せばいいのかわからないんですよね。な何か、ありますか?」
「何かって、俺もあんまないんだけどなぁ。まぁなんだろうなぁ。身の上話?とかでもしたらいいんじゃない?今まであった面白いこととかでもいいな、じゃあ俺からな、前にさ、俺が友達といとこの子供を迎えにいったんだよ。そしたらそこで泥団子作っててな、うめー、すげーっていったんだよ、友達はすげ〜うまそうって言ってな。そしたらその従兄弟の子供がさ、じゃあこれあげるって友達に泥団子あげたんだよ。で早く食べて、早く食べてっていうから友達は食べたふりをして、すごくうまいなぁって言ったんだけど、子どもはな、食べてないじゃんって言ったんだ。まぁこの時点でオチはわかるよな?マジで食ったの、泥団子、しかも全部。それで子供は喜んで友達は寝込みましたとさ」
ご清聴ありがとう。
そういうとパチパチとシュアが拍手をして、
「優しいお友達ですね」
と感想を言った。
「俺もそう思うよー、ずいぶん優しいよなぁあいつ」
俺の話はおしまい。と手を打っておしまいの合図をして手で次どうぞとしめす。
それはちゃんと伝わっていた。
「じゃあ私はぁ、おもしろい話と真面目な話がありますけど、どっちがいいです?」
「おもしろい話で」
「わかりました。私もそっちの方が良かったので丁度いいです」
うんうん頷いてから話し出す。
「えっとこの間服を買いに行った時の話なんですけど、そこの店長さんから教えてもらった話なんですけど、その店には全身真っ白なワンちゃんがいたんです」
・・・・・・あれ?
なんか聞いたことあるかもしれない。
「それで店長さんがそのワンちゃんが面白い子なんですよーって話しかけてきましてね。どんなことできるんですかって訊いたら、その子全身白いじゃないですかって言ったんです」
やっぱり知ってる話だ。
だとしたらオチがわかってしまうんだが。
とりあえず頷いておくか。
「そうしたらですね、耳が白いじゃないですか」
「うん」
「顔が白いじゃないですか」
「うん」
「体も白いじゃないですか」
「うん」
「それでですね・・・・・・ぷっ、ふっふふ」
「・・・・・・そ、それで?」
まさかの思い出し笑いか、あれ?もしかして俺の知ってるオチとは違うのかな?
もしかしてあんなにくだらないオチじゃない?
でも今までの話じゃ同じオチだけしか想像できないんだが。
「そ、それで、でしてね。お、尾も白いって、尾も白いから面白いって、ぷふふ、ぷふ、ふっふふふ」
俺の想像した通りのオチでシュアが口に手を当てて静かに笑う。
それを見ながら、たった今思いついた話をしてやることにした。
「あのな。文字にあ行ってあるじゃん」
「あぎょう?」
「あー、俺の世界の文字の並び方。あ、い、う、え、おってあるんだけどさ」
多分わからないだろうから手帳に書いてみせる。
それを見ながらふんふん頷いて「それでどうしたんです?」と促されて話を続ける。
「それでな、これ面白いだろ?」
「はい?」
俺が指を刺したのは文字を書いた隣のページで、そこを指差して話を続ける。
「あが白いだろ?」
「はい」
「いも白いだろ?」
「はい」
「うも白いだろ?」
「・・・・・・は、はい」
この時でもうプルプルしてるのはどうしてだろう、まさかオチに気づいて笑ってるわけじゃないだろうな。
この手の話って最初に聞かされた時くらいしか笑えないぞ、しかも苦笑いとかだし。
よくてよく考えたなぁって感じの感心した笑い。
まぁいい、続けよう。
「で、えも白いだろ」
「はい、はい、白いで。見えないくらい白いです」
なんでそんなに楽しそうな反応ができるんだろ。笑いのツボが甘いなぁ。
噛んだ。浅いなぁだ。
「で、だ。おも?」
「し、白い、ですぅ」
俺が促すと、声を震わせながら言って、そして
「あはははは!あはは、あは、あはははは!」
と腹を抱えて笑い出した。
そんなに面白かったか?これ。
というか意外だ、こんなに声を出して笑うタイプには見えなかったんだけど。
というか、かわいいな。
屈託なく笑ってくれるのは信頼されてるみたいで嬉しいしな。
それに、そんなに笑われると、こっちも面白くなってきて、
「くくく、くくっ、くはっ、はははははは!あはははははは!あはっ、あはは、あはは!」
2人で声を出して笑っていると、彼女が戻ってきた。
「どうしたの?2人とも、面白いことでもあったの?」
「ありました。ありましたよ」
シュアが笑いながら報告して、良かったわねと言いながら彼女が取り出したのは2つの刃物。
大きさはどちらも同じで、サバイバルナイフに近い。
それをどうするのだろうと思っていると、一つをシュアに、もう一つを俺に渡してきて、
「殺し合いなさい」
先ほどと同じ口調、声色で言った。
「えっと、それは」
シュアが俺より先に口を開く。
冗談なのかと訊くつもりだろうか、というか聞いてくれ、俺には聞けない。そんな勇気はない。
なぜ殺し合えなんて事を言ったのだ。
だが俺の期待は裏切られた。
「それは、あなたの役に立つ事ですか?」
シュアが訊いたのはそんなことで、殺し合うことにはなんの疑問もないような口調だった。
どこか、彼女に似たふうに聞こえたのはなんでだろうか。
「当然よ、私の役に立つわ、だから殺し合って、一方的な虐殺でもいいわ」
さっきまでの空気なんてとっくに変わってる。
楽しく笑い合っていたあの頃には逆行出来ない。
戻れない。
戻りたい。
どうして殺しあわなきゃいけないんだ、せっかく友達になれると思ったのに、あんなに楽しく笑い合ってたのに、どうしてそれを一瞬で台無しにするような事を言われて疑問を覚えないんだ。
そもそも、倫理的にダメだろう。殺し合いなんて、虐殺なんて、人殺しなんて。
やっちゃいけないことの代表例じゃないか、先生が聞いたらすぐに「ダメです」って言って止めることだ。
それをやれと言われて、どうして、どうして、
そんなに嬉しそうな顔をしているんだよ!
「あの、名前、名前聞いてませんよね?名前なんて言うんですか?」
言ってなかったか。
言ってなかったけ?
「俺は、羅漢冬馬」
「私はシュアです」
右手にナイフを持ったまま、座っている俺の前に歩いてくる。
「な、なぁシュア、殺さないよな?俺たち結構仲良くできてたと思うんだけど、おおおれなんかした?なんかしたなら謝るよ、だから、だから、その、そのナイフをおいて」
反射的に右手で庇って、何かが体に入ってくる。違う。入ってくるんじゃない、切り裂かれて。
叫ぶ。
叫ぶ。
叫んで、
逃げる。
逃げて、
逃げ惑って、
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたいない」
言葉を言って走っていた足は見つかりそうもない場所に体を入らせて、腕は勝手に言葉を手帳に書く。
願いを叶えてくれる手帳に、左手でミミズの這ったような字を書いていく。
「ゴホッ、ゲホッ」
口から吐いた血が、手帳を濡らす。
それで冷静になる。
なりたくなかった。なりたくない。
だって、その瞬間に自分が死ぬことがわかってしまったから。
複数書いたことは叶わない。
死にたくないと複数書いて、それが叶わないなら。
「は、はは」
口から乾いた笑いが込み上げてくる。
「裏切られて死ぬか、このまま死ぬか、か?ざけんなよぉ、死にたくないからそう願ったっていいじゃねぇかよ!死にたくないんだよ!助けてくれよ!助けてくれよ!誰でもいいから!俺を助けて!」
無様に、みっともなく、喚き散らして、喉からはおえつがもれる。
助かりたいと願って死ぬことが確定する。
皮肉にすらなりはしない。
咳き込むたびに血が出る。
口を塞ぐ手の爪の間からも流れ出る。
無色透明だった涙も、赤黒い色に変わったし、鼻血も止まらない。
裏切られた。
さっきシュアにそう感じたが、そんなの、自分が先に信じたからだ。
勝手に信じて、勝手に裏切られた。
でも、信じたくなるくらい楽しかったんだ。
それに、今まで裏切られことなんてなかったから、裏切られても、ここまでのことはなかった。
「あの?もう死んじゃいます?よね。ごめんなさい、見つけるの遅くなっちゃって、今殺しますね」
地面に転がって、指一本も動かせない。
そんな俺にかける言葉としては全くもって適切じゃない。
「あなたとのお話、楽しかったですよ。とても面白かったです。終わりは何もなくなると言うことです。つまり真っ黒です。でも、真っ白でもいいと思うんですよ、光が入って、初めて生きてるって実感できるんですから始は白くて、終も白いんですよ」
自分で言っててなんですけど、何言ってるのかわかりませんね。
声にならない笑いが目の前の怪物の喉を震わせる。
自分の言葉の意味がわからないことが、そこまでツボにハマったのかよくわからないし、なぜこんな状況で笑っていられるのかもわからない。
こんな普通そうに見える女の子が、躊躇いもなく自分を殺そうとしてくることがとても意外だった。
首を切り裂かれたのは、意外でもなんでもなく、順当な結末だった。