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1日目 波屋 アリス『悲劇のお姫様』

 私のなりたいものが決まったのは、5歳の時だった。

 アニメで見たお姫様

 綺麗なドレスを着て、可愛い髪飾りをつけて、優雅にお辞儀をしたお姫様

 そのお姫様が気心の知れた人の前では年頃の子供のようにはしゃいだりするそのギャップにもやられた。

 毎週アニメの始まる5分前にはテレビの前に陣取って、リモコンをお兄ちゃんに取られないように服の中に入れて、目を輝かせて待っていた。

 買ってもらう服もキラキラヒラヒラした可愛い服で、もっと可愛くなろうと色々と頑張った。

 それでもやっぱりアニメのお姫様のようにはなれなかった。

 それが人生ではじめての挫折だった。

 小学2年生の時だった。

 私がトボトボしながら公園のブランコに乗っていると、

 お姫様にあった。

 黒がいっぱいで、白いヒラヒラもいっぱいで、金色の髪の毛が真っ直ぐに腰まで伸びていて、とってもキラキラしていた。

「あの!どうやったらお姫様になれますか⁈」

 お姫様の前に立って声を上げる。

 お姫様が「わっ」と声を上げて、それから「どうしたの?お嬢ちゃん?」と屈んでにこりと笑いながらきいてくる。

 そのキラキラに目を奪われる。

 一瞬時間がが止まってしまったような中で、

「どうしたら、お姫様になれますか?」

 と私はもう一度聞く。

「お姫様?」

「うん、お姫様。お姫様のその格好、お姫様なんでしょう?」

「これ?これはねぇ、私が作ったの。こういう服が好きで、着たくて、自分で作ったの。だから私はお姫様じゃなくて、どちらかというと仕立て屋さんかな。ごめんね、お嬢ちゃんの期待に応えられなくて」

 お姫様じゃないのか。この見た目で、お姫様じゃない。

 でも、服はとってもきれいで、キラキラしていて、私もそれを着てみたい。

「着てみたい?これ」

 口に出てたのかと思ってぱっと口を両手で塞ぐ。

 お嬢様はふふ、と笑って、

「今度、お嬢ちゃん用に作ってあげるよ。どんな服がいい?」

「えっ、服作ってくれるの⁈」

「うん、作ってあげるよ。だって、仕立て屋さんだもん」

 仕立て屋さんは私の話を聞いてくれて、私の欲しいものをいっぱいつけた服を作ってくれると言ってた。

 すぐにできるのかなぁと思っていたけど、とっても時間がかかった。

 3ヶ月くらい。

 その日は12月20日で「遅くなってごめんね、とりあえず、早めのクリスマスプレゼント」そう言って普通の服を着て「仕立て屋さんが渡してくれた箱を開けると。

 キラキラ、ヒラヒラ、ふわふわで可愛い。私の思っていた通りの服が入っていた。

 思わずお姫様らしくなく声を上げてしまったが、仕立て屋さんは怒らないでくれて、「よかったぁ」と胸を撫で下ろした。

「ありがとぉ、仕立て屋さん!とっても嬉しい!」

 ぎゅうっと服を抱きしめる。

「ぼ・・・・・・私の方こそ、ありがとう」

 仕立て屋さんがお礼を言うけど、どうして仕立て屋さんがそんなことを言うんだろう。

「私はね、この服はあんまりきちゃダメって言われてたんだ。似合わないからって、でも君は会うたびに可愛いって言ってくれて、とっても嬉しかった。だから、ありがとう」

 なんで、仕立て屋さんはそんなことを言われていたんだろう。あんなに似合ってたのに。

 そんなひどいことを言われたから今日はあの可愛い服を着てこなかったのかなぁ。

 だとしたらひどい。

「なら、私が仕立て屋さんのお母さんたちにお姫様みたいな服を着てもいいでしょって言ってあげる」

「ははは、ありがと、でも大丈夫。私が自分で言う」

 そう力強く言った仕立て屋さんの目は、キラキラじゃなくなってたけど、とても力強い目で、まるで

「騎士様みたい」

 えっ、と声を上げる仕立て屋さんにごめんなさいも言わないで、また両手で口を抑える。

 お姫様に騎士様みたいとは、なんて言うしつげん。きょっけいにしょされてしまう。

 そう思っていたのに、仕立て屋さんは私の頭を撫でる。

 優しい撫で方で、とても安心するような撫で方。

「ありがとう。それもとても嬉しいよ。お姫様だって誰かを守りたい時には騎士になってもいいんだよ。うん、そう。そうなんだよ」

 仕立て屋さんはうんうんと頷いていて、どうしたんだろうどう思ったし、お姫様が騎士様になってもいいってどう言うことなんだろうと思ったけど、いつもの仕立て屋さんがお姫様みたいだけど、今日騎士様みたいなカッコいい理由は騎士様になりたかったのかなぁと考えてみる。

 考えてみて、そういえば、と

「仕立て屋さんのお名前、なんで言うの?」

 今まで聞いたことを思い出して聞いてみる。

「私の名前はね寝狸(ねだぬき) 助化(たすけ)

「そうなんだ、カッコいいお名前だね」

「ありがとう。君の名前は?」

「私はね、アリスって言うんだよ」

「アリスちゃんかぁ、お姫様にピッタリの可愛い名前だね」

「ありがとぉ」

「それじゃあ私は・・・・・・」

 言葉の途中で仕立て屋さんは口を閉じる。

 どうしたんだろう。

「あのね、僕は、男の子なんだ。男の子でも、お姫様になってもいいかなぁ?」

 仕立て屋さんはそんなこと言ってきたけど、別にいいと思う。

「可愛いんだから、お姫様になってもいいと思うよ」

 そう言うと、ほっとしたような顔をしてまた「ありがとう」って言う。

「それじゃあ僕は、お姫様の騎士にしてくださいってお願いしてくるよ」

「そうなの?私も一緒にお願いしてあげる?」

「ううん、大丈夫、僕が、自分だけでやるんだ」

 これあげるよ。

 仕立て屋さんはそう言って私の手に葉っぱをストラップを乗せる。

 それは眠っているたぬきのストラップで、はなちょうちんが可愛かった。

「これはね、持ち物につけておくと、君を3回助けてくれるお守りなんだ。ちゃんとつけておいてね」

 仕立て屋さんはそう言ってお姫様のところに歩いて行った。

 お姫様って誰だろうと思ったけれど、考えて走っている間に家に着いた。

 お母さんに仕立て屋さんに作ってもらった服を見せるとすごいと言ってくれたし、仕立て屋さんにお礼しなくちゃとも言ってた。

 だから合わせてあげるとお母さんがありがとうございましたと言って、仕立て屋さんがいいですよ好きでやったんですからと言ってあたふたしてた。

「ねぇねぇ、騎士様にはなれた?」

 にこりと笑って首を横に振る。

「残念だけど、騎士様になれるのは一握りだけなんだよ。僕はなれなかったよ」

 仕立て屋さんは悲しそうに言ってるけど、口が笑っていて、悲しいのかなんなのかわからなかった。

 それから少しの間お母さんと話していた仕立て屋さんにお別れを言った。

「ばいばい助化(たすけ)にいちゃん」

「うん、ばいばい」

 仕立て屋さんが手を振るのを見て、私は微笑みを浮かべる仕立て屋さんにばいばいした。

 3年生からは言葉遣いも変えた。

 中学生に上がる前にはみんな私のことをバカにし出した。

 お姫様なんてなれるわけない。

 でも私はお姫様に憧れていた。

 憧れがその程度の言葉で消えるわけがなかった。

 助化さんとはときどきあっていたし、男性らしい体つきになってきて、可愛い服は着れなくなったが服を作るのは続けていて、私に服を作ってくれていた。

「ありがとうございますわぁ、本当いつも可愛らしくて素晴らしいですわ」

「ありがとう、仕立て屋冥利に尽きるよ」

 

 ごぶっ、

 私に向かって走ってきていた子供がぶつかってきて、咳き込む。

 咳き込んだ時に、まるで口から柔らかいスライムを吐いたような、そんな音。

 そんな聞き覚えのある音に近い聞き覚えのない音。

「お姉ちゃん、ごめんね。狂滎様のために死んで」

 ぐじゅ。

 口から液体が洩れて、制服を濡らす。

 下を見ると黒い制服が濡れてさらに黒くなっていて、指先を唇に這わせるとぬらっとした感覚があり、目線に指を持っていくと、赤色のついた指先が見える。

 ずるっと体の中から何かが抜ける感覚があり、顎を液体が伝っていく。

 熱を孕む腹部を触れる。

 立っているだけなのに息が上がる。

 足から力が抜けて膝をつく。

 ビチャっと水音がする。

 下を見ると紅黒い水溜まりができている。

 さむい。

 体が震える。

 クラクラする。

 さっきのは、もしかして走馬灯ってやつだったのかなぁ。

 地面が縦に見える。

 倒れちゃったみたい。

 ぁぁ、もぉ、ダメなのかなぁ。

 瞼が重くなる。

 視界が、狭くなる。

 何も、見えない。

 何も見えない。

 視界が狭い。

 三徹した時のように瞼が重い。

 でも、大丈夫。

 体を起こす。

 地面はいつも通り横に見える。

 熱を持たない腹部をさする。

 何も手につかないし、普通感じないような感覚もない。

 もしかして。

 そう思い制服につけていた狸のストラップを見ると、ひび割れが大きくなっていた。

 前に階段から転げ落ちた時に1回、今で2回目、このストラップに命を救われたのか。

 高校に入ってからあんまり会わなくなったから確かめられていないのだが。

 一体助化さんは何者なのだろうか。

 私のように変な力があるのだろうか。

 あるから、こんなことができるのだろう。

 というか、1回目の階段から落ちた時にはこんなにすぐに治るということはなかったんだが、1回目と2回目で治り方が違うのだろうか、それとも傷の具合で治り方が違うのだろうか、

「なんで、生きてるの?お姉ちゃん」

 そんな私の過去への現実逃避は、現在の現実からの呼び声で連れ戻された。

 私を刺し殺した子供が不思議そうな顔をしていた。

「きゃあぁぁぁぁああ!」

 そんな子供に怒りは湧かず、恐怖に囚われて叫び声を上げながら逃げる。

 あの子が右手に持っていたナイフからは血が滴り落ちていた。

 それを見て怒りなんて湧くほど私に胆力は無い。

 逃げ出す事以外できない。

 走って、走って、走って、

 息切れなんて感じずに走って、走って、走って。

 周りからの視線なんて感じない。

 殺人鬼の気配も感じない。

 なんで私がころされたかも

 どうして、何があって、私は殺されたんだ。

 何が何でどうしてどうやってどうなって。

 死にたくない!

 ガッと手首を掴まれる。

 死ぬ恐怖が全身を飲み込んで、無意識に叫び声をあげる。

 それが他の殺人鬼を呼び寄せるかもしれない。そんな発想を抱くことはできず、ただ叫び続けて、もがいて足掻いて引っ掻いて殴って蹴って、

 頭突きされる。

「落ち着けアホが!」

 鼻から液体が流れてきて、私が手で押さえるよりも先にティッシュで抑えられる。

 よくよく見ると、胡桃ちゃんが首などに打撲痕や引っ掻き傷をつけながらおでこを赤くしていた。

「何があったの?その服、それと取り乱し方、死体でも見た?」

 勘がいいのかな、とても近い。

 でも遠い。その解釈では真相とは地球から宇宙の果てまでくらいの距離がある。

 でも、どうやっても、どんなヒントがあろうとも、

 目の前で生きている人が一度は死んでいるなんて思えない。

 思うわけがない。

 でも、私は一度死んだ。

 痛みを感じなかったのは感じるための信号を膿が受け付けなかったから。

 ただそれだけ。

 でも次はきっと、私は、自分が刺されて、内臓を傷つけられる痛みを自覚してしまう。

 それは嫌だ。それも嫌だ。

 死にたくない。

「あの、あのね、信じられないだろうけど私殺されたの。ここはそんな危険な場所なの!だから早く逃げよう!一緒に逃げて、クラスのみんなで集まればきっと逃げ切れるから」

 言っている間に子供が人混みの中から見えた。

 だから手を引いて走り出す。

 走って走って走って、

「止まれ!」

 呼び止められてすぐ横の裏道に入り、誰かにぶつかって倒れそうになり、腕を掴まれて、舞踏会で踊るようにクルクルと回転し、背中が硬いものにぶつかって、首に冷たいものが当たり、私の手から離れて立っていた胡桃ちゃんが赤黒く汚れる。

 掴まれていた腕を離されて、今度は膝をついて堪えることもできなかった。

 即座に倒れて思考する間も無く思考力を失い、視界が黒くなっていって、見えなくなる。

 視界が色づいてきて、考えるための思考力も戻ってくる。

 この感覚はさっき味わったばかりだ。

 無くしたものを取り戻した感覚。

 落とした命を拾った感覚。

 また死んだ。

 また殺された?

 また、また、また。

 なんで?なんで私が殺されなきゃけいけないんだ。

 なんでどうしてどんな理由があってどうしてなんでなんでなんでなんでなんで。

「わりいなぁ急にお友達を殺しちまってよ」

 男の声が聞こえた。

 聞いたことのない声。

 きっと私を殺した人の声だ。

 怖い。

 今はまだ気づかれていないけど、生きていると知られたら殺される。絶対に死ぬ。

 もう3回は使ったんだ。次こそ死ぬ。

 仏の顔も三度まで、四度目からは怒りの顔。

 二度あることは三度ある、三度あったことは四度ある。

 3回目の正直、3回目が嘘でも4回目は正直になる。

 よし、意味もないことを考えて少しは落ち着いてきた。

 どうやってこの場から逃げるか。それの考えもついた。

 男は多分まだ私が生きていることに気づけていない。

 なら、迷わせればいい。

 道に迷わせて仕舞えばいい。

 なんの道かはわからないけど、迷わせればいい。

 悪の道を迷わせればいい。

 案外正義の道に出てくるかもしれない。

 迷わせるにはその姿を見なくてはならない。

 どうやって見るか。

 立ち上がって、それで見る?

 途中で刺し殺されたら?

 首を捻る?

 同じこと。

 なら立ち上がって見て、成功したら逃げる。失敗しても、胡桃ちゃんは逃す。

 お姫様でも、騎士様になっていい。

 助化さんの言っていた騎士っていうのはお付き合いのことだと思うけど、今は本物の騎士にでもなってやる。

 でも、怖い。

 死にたくない。

 私はまだ生きていたい。

 やりたいこともたくさんあるし、なりたい人物像がある。助化さんに頼んだ新しい洋服もまだ見てないし、新作のスイーツだって、今日友達と食べて帰る予定だった。

 まだ死なない。

 死ぬわけにはいかないですわ。

 わたくしは、お姫様になるんですの!

 だからその前の寄り道で、騎士様にでもなってやりますわ!

 目だけを動かして胡桃ちゃんを見ると目が合う。

 アイコンタクトで全てが伝わったとは思えないが、少しぐらいは伝わったはずだ。

「あの、本当に私は殺さないでくれるんですか?」

「そーそー、ちょうど聞きたいことができたからね、それに答えてくれたら殺さないでおいてあげる、まぁ嘘ついてると思ったら容赦なく殺すけどね」

 男がそう言う。一回だけ。

 どうあがいてもやれるのは一回だけ。

「わかりました。答えます」

 胡桃ちゃんの声はこんな状況なのにやけに落ち着いていて、感心するというよりも驚きが勝る。

 どうしてこんな状況で落ち着いていられるのだろう。

「うん、じゃあまず一つ目、お友達は何人いるのかな?」

 そう言いながら動く男の足音が遠ざかる。

 どうして遠ざかったんだ?

 何か飛び道具でも持っているのか。

 ナイフを投げて刺せる自信があるのか?

 なら、私が盾になるように動けば、それで胡桃ちゃんは逃がせる?

「私の、クラスメイトは33人、先生が1人います」

 胡桃ちゃんが正しく答える。

 ふぅんと男が納得したように声を出して「なぁらぁ、二つ目の質問はぁ」

 そう言って男がうんうん唸っている。

 今がいいんじゃないだろうか。

 今なら、多少の隙はあるんじゃないのか?

 何にしても、やるしかない。


 ビーチフラッグを私はやったことがある。

 砂に足を取られたのもあるし、うまく立ち上がれなかったから旗は取られてしまったが。

 だが今は足元は砂じゃない、舗装されてもいないがぬかるんでもいない。

 走り出すのに最高ではないが最高に近い位置にある状況だった。

 実際、走り出すのには成功したし、胡桃ちゃんの手をとって「逃げて!」と叫ぶ時間もあった。

 胡桃ちゃんが走り出していくのを見て振り返って両手を広げたが、それはあまりにも無意味な行動だった。

 盾にもなれずに殺されたわけではない。

 こんなことがなく、初対面であれば好青年と呼べる容姿をしている男は、壁に寄りかかり腕を組んだまま動こうともしていなかった。

 手に血の滴るナイフを握って、面白いものを見たような顔をして、男が私を見ているのを見て、虚をつかれて動きを止めてしまう。

 どうして殺さない?どうして動かない?私たちを殺すつもりだったんじゃないのか?もしかして本当の標的と私たちを間違えた?さっきの問答でそれに気がついてそんな悠々と?いや仲間がまだいてきっと胡桃ちゃんはそいつらに任せて、

 何で私は仲間がいるかもしれないと考えなかった!

 ここで振り返って走れば後ろから刺される。

 ナイフの血が付いている面積を広げるだけ、だとしても私は今は騎士になるって言ったんだ!

 だから何があっても胡桃ちゃんは守らなくちゃ!

 振り返ろうとして、足を掬われ、地面に尻餅をついて倒れる。

 顎に衝撃を受けて壁に頭を打ち付ける。

 体の上に重さが乗る。ちょうど人1人分。

 さっきの男がここまで瞬時に移動したのか?

 それとも男の仲間⁈

 痛む頭を体の上に乗っている人へと向けて、

 その時の気持ちは、何と言えばいいんだろう。

 がーん。は

 可愛すぎる。

 軽すぎる。

 無。

 よりかは絶望に近い。

 いや、いやいや。

 近いとか、そんな曖昧な表現を使ったのは認めたくないからです。

 認めましょう。

 いやいやいやいや。

 私は絶望しました。

「いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!」

「分かるよ、死にたくないよね。まだやりたいこともしたいこともいっぱいあるよね。夢も希望もあって、好きな人は・・・いるのかな?いたとしたらその人とキスとかしたいよね。そんな純粋なのかな?もう行けるところまでは行ったのかな?キスなんて子供みたいなこともう終わらせたのかな?私はまだだよ。まぁ羨ましいとは思わないけど。嫌だよね。辛いだろうし、苦しいだろうし。何も感じず、何も考えられなくなるのは嫌だよね。

 私も嫌。

 死にたくない。まだやりたいこともしたいことも夢も希望も、いっぱいある。収まりきってるけど収まってない。私の怒りは収まらない。だから私の怒りを消すための糧になって。自己中だよね、こういうのは、分かるよ。アリスちゃん、君はいい子だよ、まさか自分の助かった命を私のために使おうとしているなんて、逃げろって言われた時どれほど驚いたか。私はアリスちゃんが1人で逃げる未来しか描けなかったのに。まさか盾になろうとしているだなんて。ありがとう。

 でも、きっと、仲間がいるとかは考えてなかったんだろうね。ダメだよ、ちゃんと考えなきゃ、これは私からのアドバイス。もし来世があって、今回のことを覚えてたらこのことを教訓にしな。敵が1人とは限らない。誰かを助けるくらいなら自分が助かる。

 死体は片付けてくれるんでしょ?

 そう、ありがとう。

 あぁあ、呪われちゃった。気分が悪い。

 自分を助けようとしている人を殺すとか、やだな。

 でも殺さないと私も殺されちゃうから、殺すよ。

 最後で最初からわかってた教訓として、

 相手の策じゃなくて、味方の策として、

 信じても裏切られるってこと、覚えようか」

 日比谷胡桃は、私を裏切った。

 何がいけなかった?

 どこがダメだった?

 なんで私は殺される?

 いやだ、いやだ、いやだ、いやだ、

 胸にナイフがふかぶかと、一瞬で差し込まれる。

 いやだいやだいやだいやだ。

 ぐるんと回されて、血の味がする口の中に血があふれる。

 いやだいやだいやだいやだ!

 どれほど叫ぼうとしてももう叫べない。

 ゴボゴボと空気が吐き出される。

 どうして、どうして、どうして、どうして。

 死にたくない。

 助けて。

 助けて、助化さん。

 

 思考が消えたと理解できず、結局死ぬ痛みを味わうことなく。

 誰を恨むこともなく。憎むこともなく。

 清廉潔白なお姫様のような透き通った水のように美しい心を持った少女は。

 死んだ。

 この日初めての人死にが、この日、15時34分に起こった。

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