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1日目 凛摛 憐『鈴鹿御前』

 凛摛りんり りん

 の、本名は、

 鈴里りんり りん

 である。

 なぜ隠したのか。

 なぜ嘘をついたのか。

 なぜ改名したのか。

「えっ?だって鈴里鈴って好きじゃないから、凛摛憐の方がかっこよくない?」

 その答えがこれだった。

「そもそもさ、名前がおかしすぎるんだよ、なんで苗字に鈴が入ってるのになんで名前が鈴なのさ。そこらへんにセンスが感じられないよねぇ、なんて馬鹿な名前をつけてくれたんだと思うよ。まだしも金剛石って書いてダイヤモンドと読む、の方がカッコ良くていいのに。まあ凛摛の苗字に鈴だったらまだ可愛いしいいけどさ。鈴里鈴はないよ。はぁ、別に回文みたいにしなくてもいいのに。上から読んでも下から読んでも、右から読んでも左から読んでも鈴里鈴でーす。まあ分かりやすくていいけどさ、そういえば分かりやすさでいえば最近の戦隊モノって正義と敵ってちょっと分かり辛くなってきたよね。敵にも悲しい事情があって仕方なくやってるんだーとか、最近そう言うのが多いよねぇ、嫌いだよそう言うのは、まぁ好きだけどさぁ、でも前みたいに敵が解りやすい方が子供にはいいと思うんだよねぇ。まぁ、私みたいなへんな名前に何か伏線があるんだったらまだいいと思うんだけどさぁ、そんなものないし。ほんとそう言うのだと萎えるよねぇ、どう思う?造火ちゃん」

「うんそうだねぇ、へんな名前で大変だねぇ」

「うわぁ生返事、造火ちゃんから聞いてきたんだからちゃんと聞いててよ」

「だって長いんだもん。よしできた」

「うん?何ができたの?」

「これはねぇ、



            」

「へぇ、またすごいもの作ったね、そのうち造火ちゃんは誰かに殺されると思う」

「相変わらずひどいこと言うね」

「まぁそれが凛摛憐だからね、許しておくれ、ところでこれを陰陽師である私に渡してよかったのかな?これで今すぐに君を祓うかもよ?」

「そしたらお兄ちゃんが仇討ちしてくれから大丈夫」

 そう言って笑った造火ちゃんはとっても可愛かった。



 炎虚ちゃんが気分が悪くて裏道に入って行って、何分経ったんだろ。まぁ戻ってこないってことでいいのかな?だとしたら私はちゃっちゃと散策に戻ろう。

「お嬢さん、ちょっとお話よろしいでしょうか?」

 何が聞こえたが無視でいいだろう。

 やっぱり振り返ろう、付きまとわれてもめんどくさいし、面白い人かもしれない。そういう人は好きだ。

「はいなんですか?」

 振り返りざまに行って、声の主を視認する。

 執事のような服を着て、気味の悪い笑みを貼り付けた同い年くらいの白髪の男だった。

 この世界では白髪は珍しくはないのだろうか、多分珍しい。今まで歩いている中で白髪はいなかった。

 緑、赤、青、金などいろんな髪色瞳の色を見たが白はいなかった。多分珍しい人なのだろう。

「ありがとう、お嬢さん。それではここは人が多いので場所を変えたいのだが」

 笑みを貼り付けたまま男は首を傾げる。人気のない場所に連れ込まれたとしたら殺すけど、それ以外の場所なら殺さない。自分の中で線引きをしてから「いいですよ」と言って、歩き出した男の後を追う。

 連れていかれたのは広場の噴水前。確かに商売をしている店がない分人が溜まっていない。

 とりあえずは殺さない。

 自分の中で答えを出して「それで聞きたいことっていうのはなに?早くして」と質問を促す。

 私の物言いを気にした様子もなく、男が口を開く。

「いや、質問と言っても簡単なものだ、分からないならわからないでいい、それも十分な答えになるのだからね、だがわかるのであればどんなに拙い言葉でもいい、全て話してくれないか?」

「わかりました、早く質問してよ、そんな注釈をしている時間が無駄なんだけど?」

「そうだね、それでは質問をさせてもらおうか、『君はこの世界についてどう思う?』。もちろん、さっき私が言ったとお()この世界のことはあまり知はないから、知っている世界のことで話すけど、不完全過ぎて気持ち悪くて気持ちいいです」

 男の言葉に被せて答えを言う。

 男はこんなに早く答えが返ってきたことがなかったのか、驚いた顔をしていて、それが愉快だった。

「もう一度言ってもらっていいかな?よく聞き取れなかった」

「その耳はお飾りなんですね、ものを聞き取るための部位がものを聞き取れないとは、無意味だから切断した方がいいと思うよ。もう一度言ってあげるからよく聞いてね」

 私がもう一度同じことを言うと、男は目を見開きながら口角を上げて、気味の悪い笑みをさらに気持ち悪い笑みへと昇華させる。

 そしてくっくっと笑いながら両手で顔を覆って、人目を気にすることなく高笑いしだす。

 何この人、

 気持ち悪い。

 その場から立ち去ろうと腰を上げると手をつかまれる。

 一瞬殺すかどうか悩んで、人の多さを理由に断念する。

「何?まだ質問があるの?」

「いえいえ、いえ、ありますが、そちらの質問はしなくてもいいのです。あなたは私のメガネにかなう」

「あなたの目にかなっても嫌なんだけど、気持ち悪いだけだよ?」

「それは悲しい、ぜひ、さっきの質問の答えについて教えてもらいたい、どうしてそう思うんだい?」

 質問はないと言ったはずなのに質問をしてくるなんて、とんだ嘘つきだ。答えてあげよう。

「世界に生きている人はみんな、自分の周りは平和だと錯覚して、しかもそれを自覚しようともしていない人が多いんです。テレビで映されている映像は特撮みたいなもので、自分たちの周りに殺人鬼なんているわけない、自分達の生活が壊れるわけがない。そう思っている人たちばかりなんです。テレビで飢えて死にそうな人を見て、かわいそうねって言いながら食べ物を残して捨てる。医療を受けられなくてかわいそうねぇって言って、募金に数十円は入れるけどそれ以上は入れない他力本願。自分達の見たことない、やったことないことはみんな知らないしやらないって勝手に思っていて近くで殺人鬼が包丁を磨いていることに気付けない、放火魔がライターを使っているのを咎めない。そんな世界は不完全で気持ち悪い。完全な世界になれば犯罪なんて起こらないし、それこそテレビの先の映像は特撮でしかなくなる。でもそんな完璧な世界も気持ち悪い、不完全だからこそ人は生きていける。だから不完全は気持ち悪くて気持ちいい、だよ。文句ある?あるなら聞くけど変えないよ?」


「いえいえ、文句のつけようもありません。つける気もありません。それがあなたの答えなのであればそれでいいのです。それこそが答えなのです。他人に阿ることも、他人に同調することも、他人に必要とされることもいらないと判ずることがあなたのその心こそが答えなのです。とてもいいお話を聞くことができました」

 そう言って男は立ち上がり、私の前に立ち塞がるように両手を広げて立つ。ただ顔は天を向いていて、立ち塞がる気はないのだろうなぁと考えておく。

 もう言っていいだろうと思い、立ち上がると今度こそ立ち塞がるように移動してくる。

「何?まだ何か用事?私にはもうあなたと関わる理由がないんだけど」

「いえいえいえいえ、単純に名前を告げようとしているだけですので、そう警戒なさらずに」

 男は90°に腰を曲げて、から名乗りを上げる。

「私はスティール・ステルベン狂今日教会の大罪名すらもらっていないほどの、末席を汚すもの」

 死ぬほど興味がないんだが、

 まぁいいか、

 そういえばもう一つの質問ってなんだろう、

 まぁいいか、

「ちなみに、気になっておられるかもしれませんので教えておきますが、二つ目の質問というのは『あなたは自分が殺される理由に心当たりがあるか』というものです」

 聞いてもいないのに。

 というか狂今日教会ってなんだ。へんな名前。呼びやすくはあるけども、あまり呼びたくないなぁ。

 なんか嫌な感じ。

「その質問になんて答えれば正解なの?」

「ふむ、まぁ『殺される理由に心当たりがある』といえば私は何も致しませんとも」

 まぁ、私は殺される理由はあるけど、他の人は多分ないから何かされていたんだろうなぁ。

「ちなみにあなたには教えておきますが、実は今狂今日教会ではあなたがた異世界から来たものたちを殺せと教祖様は言っておられているのです。ですが、教祖様は同時に、殺さなくてもいいと思えば殺さなくてもいいとおっしゃっているのです。そして自分達があなたがたを狙っていると教えてもいいとおっしゃっていらした!あの方は!あのお人は!信者に全てを委ねようとしているのです!自身の敵となる存在の絶対数の減少を私たち信者の心一つに委ねようとしているのです!それのなんと尊いことか!あなたにはわかりますよね。自分の敵を殺さなくてもいいと言うその優しさが!本当にあのお方は私とは比べ物にならないほど素晴らしいお人なのです!」

 恍惚とした顔でそう言った男に抱きつく。

「ッ!・・・なんですかいきなり、殺されるかと思いましたよ」

「正解」

 プシュ。

 霧吹きから水を突きつけるような音がして、アンプルが地面に落ちるカランという軽い音を聞く。

 離れて、袖の下に隠していたアンプル投与用シリンジを取り出して、胸の谷間に入れていたアンプルをシリンジの中に入れる。

「これが、私の殺される理由だよ、本来は悪さして、どうにもできないくらいになった妖怪の始末用のやつなんだけどさ、人にも効果があることは死刑囚で試してたから、あなたは死ぬよ」

 そう言った時、今までプルプルと震えていた男の口から水鉄砲のように血が飛び出す。

 アンプルの中のウイルスは経口感染も空気感染もしない、完全に宿主の中だけで生きて外に出た瞬間死滅するウイルスだ。だから道ゆく人に血液がかかってもその頃に死滅しており大丈夫、らしい。

 ギロっと男の目がこちらを見る。

 男が指先をこちらに向けて、指先が急激に伸びる。

 いや、伸びたのは爪だ。

 刃物のように尖った爪が伸びて、凛摛憐の心臓を貫こうとしている。

 それは素手で取り、手刀で切り落とす。

 そして手刀は爪を切り落とすだけでは止まらず、4尺ほど離れた位置にいる男の上半身と下半身を切り分ける。

(大丈夫?怪我はない?)

「うん、大丈夫だよ、鈴鹿御前(すずかごぜん)

 そうは言ったものの、実際の鈴鹿御前と私が鈴鹿御前と呼ぶ彼女は全くの別物だ。

 読んだ時鈴鹿と名乗ったからそう名付けただけ。

 紛らわしいにも程があると後で思ったわけだが、歴史上での鈴鹿御前は女神とも言われており、それと同じ名前をつけたからなのか、私の式神としてはあり得ないくらいに強くなってしまった。

 簡単に言うと、それまで一族で最弱と呼ばれていた私が、最強と崇められてしまうほどに。

 実に気分がよかった。

 見下ろして奴らが急に見下ろされる立場になって、悔しそうな表情をしているのに自然と笑みが溢れるくらいに。

 それで同じことはしなかった、やられたことよりも陰湿に、陰険に、悪質にやり返した。

 そんなことができるくらいに鈴鹿は強く、だから、

 男の死霊術で作り出された血液の怪物。

 倒すには血液を蒸発させるしか方法のない化け物だって簡単に倒してくれた。

「よくやった、褒めてあげる。おいで」

(わーい!)

 まぁこんな感じで、頼んだら撫でてあげなきゃいけないのがめんどくさい。

 まあそこは大型犬が戯れてきていると思えば大丈夫だ。

 鈴鹿が消えた後、場所を移動して、裏路地に入り、そこで自分の顔を剥がして、別の顔を書いておいた紙を貼り付けて馴染ませる。

 裏路地から出てしばらく食べ歩きをしていると

「ごめん遅くなった。というか移動しすぎ」

 と炎虚ちゃんが戻ってくる。

「そう?ごめんね、色々あったからさ、でもよく見つけられたね?」

「見つからないから、もういいやって思ってたら見つけた」

「あはー、そんなひどいところが炎虚ちゃんらしいねぇ、もう少し心配とかしてくれてもいいんじゃない?心配なんて無駄だけど」

「そういうところ好きだよ」

「ありがと〜、気持ち悪いのは治ったんでしょ?その服についた血は何?人でも殺した?」

 服の後ろの襟を指差すと炎虚ちゃんが服を引っ張って見て、少し言いにくそうにしてから、

「頭殴られて血が出てさ、回復魔法使える人に直してもらったからなんとか生きてたんだけどさ、まぁ、死にたくなかったから何人か焼き殺したよ」

 炎虚ちゃんのいうことを聞いて、いま冗談でも何かしたら殺されるような、自分のの生命への危うさを感じ、少しでもおかしなそぶりを見せたら殺せるようにしておく。

 炎虚ちゃんの言うことをきいて、まさか炎虚ちゃんも私みたいな人殺しだったとはと少し驚くが、意外とすぐに納得できた、炎虚ちゃんなら人の2人や3人、あるいは1000人でも平気で焼き殺しそうだ。

「驚かないんだね?それとも驚いたけどそこまで気にしてない?」

「うん、そんなに気にならないかな、私も人殺しだし。近くの広場行った?」

「うん行ったよ、なんか血がぶちまけられてたね」

「それ犯人私」

「そうなんだ」

 そうそうと頷いて、そこから少し黙って歩く。

「ねぇ、罪悪感は?」

「感じてないよ、殺しとかなきゃいけない人だったから」

「そっか、私は死にたくないから殺したよ」

「それが1番正しいよ。不幸中の幸いみたいな、間違ったことの中での正解ってところだね」

 ここで話は終わり、

 そう言って話を別のものに変える。

 しばらく歩いて、買い食いをして、そういえば集合場所とか変える時間とか決めてなかったなぁと思いながら最初の場所に戻ると、千惹と日向と緋がいた。

「おっ、2番手はお前らか、ん?憐お前そんな顔だっけ?」

 千惹が鋭いことを聞いてくるが「生まれてからずっとこの顔だよ、ひどいねぇクラスの人の顔すら覚えてないとか」というと、実際今はこんな顔だから「まぁそうだよな、わりぃわりぃ」と千惹がぺこぺこする。

 他の男子たちもどこかおかしそうな顔をしながらも何も言ってこない。

 今の説明で納得したのかな。

「じゃあ、後は他の奴らが帰ってくるの待ってるか、つーかお前ら波屋と日比谷は?」

「知らなーい、はぐれたから置いてきたよ、だからどこにいるかは知らない」

「そっかぁ、じゃあやっぱ待つしかねぇか」

 私たちはそれから数十分、だべりながら待った。

「おーい、お前らいつから待ってたんだー⁈」

 そう言いながら手を振って堀内と輝が服を着替えて、ボロボロになった天童とさーちゃん、そして服を千切ったものを体に巻きつけた随分と大胆なファッションの手鞠が帰ってくる。

「おいお前ら、今すぐ戻るぞ。この街は、つーかこの国がまずい。かなりとかそういう次元じゃねえ。ここにいたらいつ殺されるかわかったもんじゃねぇ」

 さーちゃんがそう言って、きっと狂今日教会の人たちが襲ってきたのかなぁと思う。

 佐紀がそう言って、もしやクラスメイトに何かあったのではないのかと判断して探しに動く。

 天童もとても慌てた様子であたふたと千惹たちに言っていて、炎虚ちゃんが手鞠ちゃんに上着をかけようとして、「今はかけるな!今はその方が安全なんだよ」と佐紀が訳の分からないことを言って止める。同時に手話もやって手鞠も聞いていたので、うんうんと手鞠も頷く。

 千惹たちと話していたさーちゃんが「後10分だけ待つ。それで帰ってこなかったら帰るぞ」と結論を出して、なんの話をしていたのかなぁ。

 そして私たちは待った。

 1分待った。

 2分待った。

 3分待った。

 4分待った。

 5分待った。

 6分待った。

 7分待った。

 8分待った。

 9分待った。

 そして、10分が過ぎても待った。

 待った。

 待った。

「ぁ」「あっ」「ああ」「・・・」

 息を切らして、両腕両脚に切り傷を、顔に打撲痕を、指先の爪は剥がれて息を吸うために大きく開かれた口の中には犬歯がなく、血液を少しずつ散らしながら、日比谷ちゃんが叫びながら帰ってきた。

 それが最後。

 鬼鐘姉妹、波屋ちゃん、羅漢(らかん)沖本おきもと

 彼らはいつまでも帰ってこなかった。

 城に戻る間に鈴鹿が戻ってきて、話す。

 鬼鐘姉妹は切り開かれた腹部に切り裂かれた頭を入れられて死んでいた。

 羅漢は全身から血を流し死んでいた。

 沖本は教会の中で十字架に貼り付けられ死んでいた。

 波屋ちゃんは行方不明。

 1日目の終わりにしては、なかなかに絶望的な状況だった。

 そして帰ってきたメンバーだけで、歩いて城まで帰ることにした。

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