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第1章 第1話 天国のような地獄

「んんん……んんんんん……!」



 俺の朝は息苦しさと柔らかさから始まる。



「ぷはぁっ。いい加減やめろよ依月(いつき)さんっ」



 なんとか顔だけでもそれから離すと、愛おしそうな顔で俺を抱きしめ続ける女性と目が合った。五十嵐依月(いがらしいつき)さん。俺の姉である。



「あ、おはよ~大樹(だいき)くん。それにお姉ちゃん、でしょ~? いつまでも言うこと聞いてくれない悪い子はこうだ~!」

「んぷっ!?」



 再び背中を抑えられ、その大きな胸に顔が埋まってしまう。必死に暴れるが俺の身長は150cmで、依月さんは170cm。到底敵いっこない。それを引き剥がしてくれたのは妹だった。



「おにいちゃんが迷惑してる……! おねぇは自重して……!」



 背中から腹に手が回され、もぎり取られるように依月さんから離れる。それでも状況は変わっていないと言ってもいい。



「あの……椿さん? 放してくれるとありがたいんだけど……」

「……やだ。おにいちゃんはわたしを呼び捨てにしてくれるまで離さない……」



 依月さんほどではないが確かに背中に感じる柔らかい感触から逃れようとするが、彼女の身長は160cm。到底力では敵わない。五十嵐椿(いがらしつばき)さん……これで俺の妹なんだから本当に遺伝というものは恐ろしい。



「椿ちゃんだけ大樹くん一人占めなんてずるい~。いつきちゃんも、ぎゅ~!」

「ぐぇっ」



 椿さんから離れられないでいると、依月さんまで前から抱きついてきた。前から後ろから……これ本当に死ぬ……!



「ずっと弟ほしかったんだ~……ちっちゃくてかわいい弟が……。すごい幸せ……」

「わたしもずっとおにいちゃんほしかった……。優しくてかっこいいおにいちゃんが……。すごい幸せ……」

「ぐ、ぇぇ……」



 俺の苦しみなど知らずに心の底から幸福そうに俺を抱きしめ続ける2人の巨人。そろそろ、やばい……!



「ちょっ、ごめんトイレ!」



 火事場の馬鹿力。無理矢理2人を引き剥がすと、俺はトイレへと駆けこんだ。



「くそっ……! くそっ……!」



 そして2人のかわいい女の子に抱きしめられたことで生じた気持ちを収めていく。



「ふぅ……っ」



 ようやく落ち着いたので冷静にどうしてこうなったのかを考えてみる。



 きっかけは俺の父親と、五十嵐家の母親の浮気だろう。それでお互いの家庭が離婚し、それから約5年後。その隙間を埋め合うように、俺の母親と五十嵐家の父親も再婚した。



 そこまではいい。俺も納得できる。問題はこの後だ。



 俺の姓が五十嵐に変わり、この家に引っ越してきたのが2週間前。まだ学校には通っていないが、隣県まで転校もした。色々慣れないしあまり大きな家でもないが、必死にこの環境に適応しようとしていた。



 そうしたら先週だ。新しい父親が単身赴任になり、実の母親がそれについていった。残されたのは中学2年生の俺と、中学3年生の依月さんと、中学1年生の椿さん。そして親がいなくなり、姉妹が牙を剥いた。



 めちゃくちゃに甘やかしてくるのだ。つい数日前まで他人だったかわいい女の子2人が着替えまで手伝ってくる。



 当然抵抗はしたし今も抵抗している。だが家系的に小さい俺とは違い、姉妹は家系的にめちゃくちゃ発育がいい。10cm以上も身長が上回っている2人に俺が適うことなんて一つもない。もうされるがままだ。



 ここで問題になってくるのが、俺の性欲だ。いくら声変わりもまだだし平均身長に届いていないとはいえ、普通に性欲はある。



 他人だったら付き合いたいと思うくらいかわいい女の子と一つ屋根の下、暮らしている。しかし姉妹。それなのにベタベタ甘やかしてくる。つまり、地獄である。



「どうすればいいんだ……」



 逃れられない地獄の中、俺はそれでもこの家で生きていくしかない。この天国のような、地獄を。

ご覧いただきありがとうございます。数々の暗い作品を書いてきましたが、反省からとにかく甘甘な作品を書いてみることにしました。多少物語はありますが、基本的にずっとほのぼのする予定です。よろしければお付き合いください。


おもしろい、続きが気になると思っていただけましたら☆☆☆☆☆を押して評価を。そしてブックマークといいねのご協力をよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 中2男子で150cmだと高2までに160cmいくかどうか 妹も成長期だから勝てそうにないですね(絶望
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